小さな歩幅で寄り添う日
アレックスが屋敷に来て二日目の朝。
雪は薄く残り、庭の空気はひんやりとして澄んでいた。
アメリアは外套を羽織り、
アレックスを庭へ連れ出す。
「ねぇ、見てほしい場所があるの。」
アレックスはまだ緊張した面影を残しつつ、
小さな足でゆっくりついてくる。
庭の奥へ進むと、
温室の横に広がる白薔薇の一角が見えてきた。
雪の中で、閉じたままの白い蕾が静かに光を放つ。
その姿は冷たく見えて、どこかあたたかい。
「ここ、私の好きな場所なんだ。
まだ蕾だけど……可愛いでしょ?」
アレックスはしばらく黙ったまま蕾を見つめていた。
光に照らされる白は、彼の碧瞳に淡く映っている。
「……きれい。」
たった一言なのに、
アメリアの胸はほわっと温かくなった。
「咲いたらもっと綺麗なんだよ。」
「……咲くの、楽しみだね。」
その声は小さく、
けれど確かに優しかった。
*
昼食のあと、
暖炉の前で二人は積み木遊びをしていた。
アレックスはまだ人見知り気味で、
積み木をそっと触っては様子を伺っている。
アメリアは笑顔で言った。
「アレックスのこと、もっと知りたいな。」
アレックスは少し顔を上げ、
ためらいながら言う。
「……どうして、そんなこと思うの?」
「だってね──アレックスは、私の“推し”だから!」
「……おし?」
アレックスの目がまるくなる。
アメリアも笑ってしまう。
「うん!すごく好きで、がんばってると嬉しくて、
応援したくなる人のことだよ!」
「……応援……されるの、嬉しい。」
「でしょ?だから私は、アレックスの味方だよ!」
積み木の影がゆらゆら揺れる。
暖炉の火が、優しい赤を部屋に映していた。
アレックスはアメリアを見つめ、
小さく、でも確かな声で言った。
「……ありがとう。」
アメリアは笑顔で頷き、
二人は並んで積み木の塔を完成させた。
外では、白薔薇の蕾が
ひときわ強く風に揺れていた。




