風の中で見つけた勇気
その日の午後。
アメリアは庭の端で侍女のレナと花の手入れをしていた。
花の種類や雑草の見分け方を教えてもらいながら、
ああでもないこうでもないと夢中になっていた。
そこへ、アレックスが少し不安げに歩いてきた。
「……アメリア……どこ行ったのかと思って……」
その声にアメリアは顔を上げて笑う。
「ごめんごめん。お花を見てたの!」
レナが微笑んで頭を下げる。
「アレックス様、アメリア様はいつもここを散歩されるんですよ。」
アレックスは、ほっとしたように胸を撫で下ろした。
アメリアが花の名を説明していると、
突然、庭の向こうから犬が走ってきた。
使用人の犬で、普段は大人しい子なのだが、
今日は興奮しているのか勢いよく駆けてくる。
アメリアは驚いて一歩下がった。
「わっ──」
その瞬間。
アレックスがアメリアの前にすっと立った。
「……来ないで!」
小さな身体なのに、
そこには強い“守る姿勢”があった。
犬は途中で止まり、
飼い主が慌てて引き戻していく。
アレックスは振り返り、
心配そうにアメリアを見る。
「……怖かった……?」
「ちょっとびっくりしたけど……
アレックスが守ってくれたから平気!」
アメリアが笑うと、
アレックスは胸を押さえるようにして深呼吸した。
「……よかった……」
レナが目を丸くしてアレックスを見た。
「アレックス様……すごいですね。」
アメリアも同じ気持ちだった。
(アレックスって……こんなに強い子だったんだ……)
アレックスは照れたのか、
目をそらしながらつぶやいた。
「……アメリアが……危ないの、嫌だ……」
アメリアは胸の奥がじんわり温かくなる。
「ありがとう。
私もアレックスが危ないのは嫌だよ。」
アレックスはゆっくりと頷いた。
「……じゃあ……アメリアを、守りたい。」
その言葉は幼いながら、
どこか“根っこに残る強さ”があった。
アメリアはそっと笑った。
「うん。
でもね、無理しなくていいんだよ。
アレックスの気持ちだけで……十分嬉しいから。」
アレックスは手首の金の紐をそっと触れた。
風が吹き、庭の草がさわさわと揺れた。
アレックスの胸の奥に
小さな種のようなものが芽生えた瞬間だった。




