夜の部屋に寄りかかる影
その夜、アレックスは自室のベッドで何度も寝返りを打っていた。
屋敷に来たばかりの頃よりは眠れるようになったけれど、
それでも、時折ふとした音で目が覚めてしまう。
廊下で遠く侍女の足音がする。
暖炉がぱち、とはじける。
外の木が風に揺れる。
「……また、眠れない……」
胸がきゅうっと締まるようで、
手首の“おそろいの紐”を指で触った。
(アメリア……)
迷った末、
アレックスは小さくベッドから降り、
静かに部屋を出た。
*
アメリアはまだ起きていた。
机の上のランプに照らされながら、
絵本を片付けているところだった。
扉がこつんと小さく鳴り、
アメリアが顔を上げる。
「アレックス?」
アレックスは少しだけ申し訳なさそうに立っていた。
「……眠れなくて……」
アメリアは優しく笑った。
「いいよ、入って。」
アレックスが部屋に入ると、
アメリアは絨毯の上にクッションを並べた。
「少しここで休もうか。
本読む?それともお話しする?」
アレックスは小さく首を振った。
「……アメリアがいるだけで、大丈夫。」
その言葉にアメリアは胸があたたかくなる。
二人で窓辺に座り、
夜の庭を眺めた。
星は雲の隙間からちらちらと光り、
屋敷の灯りが静かに庭を照らす。
アレックスは肩をアメリアのほうへ少し寄せ、
目を閉じる。
「……ここ、安心する。」
「よかった。」
しばらくして、アレックスの呼吸がゆっくり安定してきた。
眠気が差してきたのだろう。
アメリアはそっと囁く。
「アレックス、眠れた?」
アレックスは目を閉じたまま、小さく頷いたように見えた。
「……アメリア……ありがとう……」
その声は眠気に溶けて柔らかい。
アメリアは微笑み、
彼が安心して眠れるよう、そっと毛布をかけた。
その夜、アレックスは初めて“屋敷の夜を怖がらずに眠れた”。




