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異世界

あと二話で完結いたします。短いお話でしたが、お付き合いいただきありがとうございます。



 子供の頃、誰でも夢見たんじゃないだろうか。

自分の立場に嫌気が差し、現実逃避から異なる世界へ行けたらいいな、そう願って眠りにつき、目覚めた瞬間……やはり昨日と同じ天井を見つめながら、


「……何処でも構わないから、違う所に行けたら……きっと今より……」


モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、身支度を済ませて学校へと向かう。

そんなものだ、大抵は。そして、一生涯そんな願望は叶わない。


無論俺は今現在、そんな気持ちは持ち合わせていないし、数日前までなら「……異世界?何だそりゃ……俺と関係ないだろ?」と受け入れもしないだろう。


だが、俺はその状況にあり、カズンという異世界からの娘を従えて、異世界から来たファルムに率いられてやって来たのだ。


だが、胸踊ることなどありはしないし、昂ることもない。

ただ、戦闘を前にして緊張しているだけだ。

仕事を終わらせて、さっさと帰りカズンと飯を食う、ただ、それだけを願いながら。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……キクチ、先に言っておくが、お前とカズンの姿は飛竜種には見えていない。無論、私がそうなるように仕向けているからだが……」


空挺キャリア内に残っているファルムが、機内通信機のインカムを利用して(使い方は教えておいた)俺に語りかける。


それが事実なら有り難いことだ。武器弾薬は限りがあるし、俺の俯瞰視状況は極めて限られた機能しか運用出来ないだろう。

眼下の地形はなだらかな丘陵地帯だが、人間の存在はおろか文化文明を匂わせるような物体は全く見受けられない。

無論、人工衛星など無いにきまっているだろう。GPSも沈黙したままだ。


しかしこの兵空挺キャリアや兵装は軍事用だ。地上の映像を随時記録分析して地点座標を設定し続けているので、迷子になる心配は無い。


《……ありがとう。目的地はまだ遠いのか?》


「いえ……このまま進めば直ぐに見えてくるわよ?……あ、見えたわ。」


俺はファルムの言葉を聞き、視覚機器のズーム機能を使おうとしたが、止めてしまった。

視界の遥か先に、雲を貫く巨大な城が見えてきたからだ……だが、それを城、と形容するのが正しいのか、判断し難いのも事実だったが。


茶褐色の大地には灌木位しか見当たらず、実りをつけるような作物や樹木は無さそうだ。


《ファルム、この空挺キャリアを隠せそうな場所はないのか?》

と、念の為に聞いてみる。キャリアには弾薬食糧を搭載しているし、帰還出来なくなるのは避けたいが。


「その必要は無いわ。このまま城の中庭に降りて堂々と進みましょう。」


……作戦も何も必要ない、と言うことか?簡単には信じられない俺だったが、疑念を言葉にしようとした瞬間、機内からファルムの姿が忽然と消え失せた後、空挺キャリアと平行するように紫色の鱗で身を包む巨大な翼竜が飛翔していた。


一目でファルムと知れたその姿は、三対の翼を優雅に揺らめかせながら、巧みに風を捉えて悠然と空を舞っている。


《……エスコートするなら、最初からそう言ってくれ……突然消えてから現れると心臓に悪い。》


《……あら?随分と冷たい御言葉ですこと……それに、この方が怪しまれないでしょう?》


頭の中に直接語り掛けてくるファルムの周囲に、続々と飛竜種が集まってくる。その数はすぐに百を越え、彼女の身分を改めて理解させられる。

その飛竜種達は彼女の配下らしく、一定の距離を保ちながら従うように付いてくる。


《……この子達は私の手の内の者ばかりだから、余計な心配はしなくて結構よ?……カズンも詠唱は止めなさい、いい子だから……。》


……俺は兵装の連装砲を下ろし、カズンも言われるままに大人しくなる。


《……そうよ、それでいいわ。さぁ、あの入り口から中へ行きましょう。》


城の中腹にある開口部へと先に飛び込み、ゆっくりと身を捩らせて着陸を促すファルム。

俺とは空挺キャリアの噴射を操作して、機首をやや斜め上に向けながら開口部へと滑り込ませ、キャリアから分離して侵入する。


《この開口部は皇竜種と竜帝だけが使う場所よ。……ただし、中に入ってからは、私は一切手助けは出来ないわ……他の皇竜種を()()()()()()()()()()のよ……。》


彼女はそう言うと翼を体内に吸収(そうとしか言い様が無い)し、一瞬だけ此方に振り返り見つめた後、竜の姿のまま異なる通路を進んで見えなくなった。


「……イチイ、カズン、降りた方がいい……?」


耳に取り付けたインカム越しに囁くカズンの声は、いつものような気楽さは無く、やや強張って震えていた。

実はこの世界に来てからずっと、カズンは口を利いていなかった。

過去を思えばそれも仕方ないだろう。飢えに(さいな)まれ、魔導行使の道具代わりに扱われ、恋も親愛も無い生活を強いられていた場所なのだから。


カズンの情緒的成長は、俺達の世界に来てから目覚ましく発達したと言っていい。最初は食い物を表現する【イルフン】と言う単語を用いて《イルフンですか?》しか表現出来なかった程、貧弱で語彙の乏しい過去のカズン。


しかし、使う者と共に成長する自動翻訳器コミュニケーション・アクセと呼ばれるネックレスにより、今では俺と冗談まで言えるようになった。そして、彼女なりに色々と……俺に好意を寄せてくれている。

それは判っているが、下手すれば親子に近い容姿と年齢差(シルヴィの実年齢は不明瞭だが)が……二の足を踏ませる。


《いや、その心配は要らない。……相手に気付かれていないなら、楽勝さ……》


俺は兵装ユニットをゆっくりと歩ませて進み、様子を伺いながら慎重に上階へと向かった。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



(……確か、ファルムは最上階に竜帝が居る、と言っていたな……今は……丁度中間地点辺りか。)


俺は道すがら設置したビーコンを使い、高度変化を割り出して現在位置を割り出しながら進行していた。


ファルムの言う通り、俺とカズン、そして兵装ユニットはどんな魔法が掛かっているのか判らないが、確かに徘徊する飛竜種からは無視されていた。

城内には奴等が蠢く部屋が幾つも有り、時には通路に出てくる者もたまに居るが、そんな奴等も全く興味無さげに一瞥すると部屋へと戻ってしまう。


(ファルム様々だな……大方、自分の幻でも上書きしてくれているのか?)


あまりの容易さにそんなことを夢想する余裕が災いしたのか、俺はカズンがハッチを開けて外に出たことに気付くのが一瞬遅れてしまった。


「イチイ、カズン、歩いて進むよ?……この中、凄く窮屈で……っ!?」


ポン、と身軽に飛び降りたカズンだったが、間の悪いことに小さな飛竜種が小走りに駆けて来る真上に着地してしまった。


「ギイィッ!?」「キャッ!?」


カズンと同じような体格の飛竜種だったが、翼が退化して短い反面、太く逞しい後ろ足が特徴的なそいつは、カズンと絡み合うように床を転がりながら悲鳴を上げる。


《カズン!?く、くそっ!!》


明らかに敵意剥き出しの血走った眼をカズンに向けながら、彼女の指と同じ位の長さの牙がズラリと並ぶ口を開き、今まさに訳も判らぬまま噛み付かんとした瞬間、兵装ユニットの武器セーフティを瞬時に切り、単発で奴の眉間を狙って発射したが、


「ギィヤアァアアアッ!!」


僅かに逸れた弾丸は眼の上を貫通し、浅い傷跡のみを残して城内の壁に食い込む。当然致死傷には至らず怯んで距離を取ったその飛竜種は、



「「「ヒイイイイイイイィィィィィィイイイイイッ!!!!」」」



耳をつんざくような信じられない声量で悲鳴を出し、現れた時よりも素早い動きでその場から逃げ出してしまった。


《生きた警報装置かよ……耳があったら一大事だぜって、カズン!無事か!?》


「……ほわあああぁ……、みみ、いたいぃ……。」


クラクラと揺れながら立ち上がったカズンは、眼を回しているかのように壁へもたれ掛かりしゃがんでしまった。


《バカっ!早く乗り込んでくれ……くそ、間に合わないか!?》


慌てて右腕で掴んで持ち上げようとしたが、背後から迫る大きな飛竜種の姿が見えたのでそのまま抱き抱えて小脇に横抱きにし、緊急加速用の脚部ローラーを駆使して一気にその場所を離れる。


一瞬後には飛竜種の姿は豆粒並みになり、そのまま一気に距離を離そうと試みた。……だが、現実はそう甘くはない。


行く先を塞ぐように脇の部屋から現れた飛竜種が雄叫びを上げ、口蓋を開きながら喉奥を煌めかせてブレスを吐く体勢を取る。


《させるかよっ!!》


俺はカズンを抱えたまま右腕のナックルガードを突き出し、今まさに吐き出さんとする飛竜種の左頬に強烈なフックを叩き込む。


メギィッ、と頭蓋を砕く手応え、歪みながらひしゃげた頭部から糸を引いて飛び出す眼球。その飛竜種が壁に凭れ掛かるように崩れるのを横目に部屋へと飛び込む。


幸いなことに、中には他の飛竜種は居なかった。俺はカズンを開いたままのハッチへ押し込むとロックを掛けて、頭部のカメラを伸ばして部屋の外を伺う。


《不味いな……通路に出ても挟み撃ちじゃ、この部屋で迎え撃つしかないか……?》


俺は伏射姿勢を取り、連続射撃で迎え撃とうとしたが、総残弾数を数えて止めた。……どう考えても襲い掛かる飛竜種の数より多い保証はない、いや、逆にそれは悪手だ。

自由に動き回れる地表ならともかく、アンブッシュすら出来ない個室で待ち伏せしても、数で押し寄せてくれば瞬殺だろう。


俺は外したままの全武装のセーフティを戻そうとして、百二十八ミリ単装填砲の存在を思い出した。


……この城は、ずーっと長いスロープ状の通路が続いていて、部屋は一方向にのみ……つまり、螺旋状に登るだけの構造なのだろう。


……なら、通路の外側は……城の外壁か!?


俺は部屋の外に出て、通路の先で緩やかなカーブを描く窓のない壁に向かい単装填砲を差し向ける。


自動的に反動を吸収するアブソーバが脚部から後方に伸び、脇に抱えた単装填砲の発射準備を整える。




《……外に出て果たして……吉と出るか凶と出るか……なっ!!》


装填された弾頭推進薬に電気が流れ、爆発により推進力を得た弾頭がスリーブと共に回転しながら砲身を進み、砲端から燃焼ガスに押し出されながら大気を切り裂いて突き進む。


発射された弾頭がスリーブから分離して飛翔し、噴式の名の通りロケット噴射の加速で猛烈な速度を出しながら一瞬で外壁へと直撃し、弾頭が壁へとめり込む。

選択せずに発射した弾頭は偶然にも炸裂徹甲弾だったらしく、小さな突入口の周囲を溶かしながら爆発し、外側へと瓦礫を吹き飛ばしながら突き抜けていった。


《仕上げだ……そらよっ!!》


手動で赤熱しながら煙をあげる薬莢を排出し、次弾を装填した後に直ぐ様二十ミリ連装砲を構え、一掃射すると脆くなった外壁はスポンジのように容易く穴が広がり、外の光が射し込んでくる。


ナックルガードを叩き付けて更に穴を広げると、兵装ユニットが簡単に潜れる位の幅が確保出来たので、即座に外へと身を乗り出す。


思った以上に滑らかな外壁は、やはりその巨大な構造通りになだらかな斜面であり、機体を傾けながらローラー滑走すれば……、


《……思った通りだな……なだらかではないが、登れない程でも……ないか?》


ガッ、と脚を掛けながら外に出ると、背中のラック内のカズンが目を覚まして申し訳なさそうに、


「……イチイ、ごめんなさい……カズン、ファルムの魔法、ムダにした……。」


インカム越しの声は震えて萎縮し、涙声だった。カズンがここまで負の感情を露にして話すのは珍しい。


《気にするな……って言っても無理か。だったら……そうだな、竜帝に一発ぶちかましたら、ファルムと帰って飯にしよう!その時謝ればいい……だろう?》


「……イチイ、ファルム、謝ったら、怒らない?」


俺は思わず苦笑いしてしまった。俺はともかく、つい最近まで畏怖し敵視していた筈のファルムにすっかり慣れっこになっている。

皇竜種の肩書きよりも、コーヒー好きなお姉さま位の立ち位置がしっくりしているとは……カズンもファルムも、馴染み過ぎだ……だが、それでいいんだろう。


《怒りはしないさ!さぁ、このまま真っ直ぐ行こうか!しっかり掴まってろよ!》


俺はカズンにそう言うと、急斜面のスロープを登りながら、迫る飛竜種に牽制射の銃弾を浴びせつつ上を目指した。




最終回「揺れ動く世界」。ちょいと長めのオマケ付きになる予定です。

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