107.9話 「遺された真実」
朝霧が包む頃、ミディールは寝室のドアを叩いた。廊下には彼女の靴音だけが響く。
「入っておいで」
那智の声が聞こえた。ミディールが踏み込むと、老女は既にデスクに向かい、分厚いファイルを開いていた。理人達はまだ眠っているのだろうか、室内には静寂が満ちていた。
ミディールは一歩前に出ると、懐から取り出し資料を広げた。
「これを見ていただきたい」
彼女の声には珍しく緊迫感があった。
那智はため息をついた。老眼鏡を押し上げながら資料に目を通す。
老眼鏡越しに紙面を見つめていた那智の顔から血の気が引いた。
彼女の指が震えながら文字列を追う。最初は微かな動きだったが次第に大きく波打ち始める。
「なん……だと……」
かすれた声が部屋に溶けた。老いた喉仏が上下する。
そこには歪んだ文字で書き殴られたメモのようなものが羅列されていた。
日付と時間、それと傍らに記された不可解な数値列
「そんな馬鹿な!!!あり得ない....だってあの二人は......どう見ても....いやしかし...偶然にしては....あまりにもこのDNAは...」
...................
「そもそも並行世界のあなたは本当に偶然だったのでしょうか?」
ミディールが慎重に問いかけた。
「理人たちと出会ったのも……」
那智の表情が歪んだ
「そうかもしれぬ。神というやつは悪戯が好きだからのぉ。時計仕掛けの天使が不具合を起こすことはあるだろうが……」
那智は自嘲気味に笑った。
「ならあの水子のお墓のこの名前は?........」
「ああ.....間違いはないよ『あの子』と『この子』多分は同一人物だ」
「やっぱり.......でもどういうこと?」
「こればかりは私でもなにがなんだかわけがわからんよ......」
並行世界の私.........いったいこれはどういうことだい?




