107話「封魔陣衛 - 希望の盾の真実」
那智は理人の言葉に目を見開いた。椅子から立ち上がり、立体映像の操作パネルに手を伸ばす。
「封魔陣衛……!お前たちの島を守ってきた最終防衛線か!」
立体映像が切り替わる
青く輝く網目状のエネルギー膜が島全体を覆うCG映像が浮かび上がる。海岸線から内陸部まで無数の結節点が網目のように張り巡らされている。
「よく見なさい」
那智が指を鳴らすと映像が拡大される。
「これは通常の物理障壁ではない。魔法と科学を融合させた特殊結界だ」
「このシステムを設計したのは……」
那智の声が途切れる。指が微かに震えている。
「私の亡き夫……お前にとっては別世界の祖父だ」
「この世界の爺ちゃん.....そんな偶然あるのか?あれを設計した人が並行世界の同一人物の爺ちゃんだったなんて....あの人は気づいていたのか?」
俺が物心ついた頃にはすでに爺ちゃん亡くなっていた
那智の瞳が一瞬遠くを見るように揺れた。
「多分、その並行世界の同一人物の私とやらは気づいていただろうね」
那智はゆっくりと椅子に腰掛け直した。指先が古びたパネルを優しくなぞる。
「私たちの世界では彼は『理論上の可能性』と考えていたが……実物を見た瞬間理解したらしい」
映像の中で青白い結界が脈動するように明滅する。
「封魔陣衛の基幹部分は三つの層で構成されている」
那智がホログラムを操作すると三重の同心円が現れた。
最外殻が深い青、中殻が濃い紫、最内殻が純白に輝いている。
「第一層は魔力吸収層……大気中の魔法粒子を収束させる。第二層はエネルギーコンバーター……吸収した魔力を物理防御エネルギーに変換する。第三層はリアクティブ装甲……外部からの攻撃を瞬時に解析して最適化された反作用力場を生成する」
「そんな複雑な仕組みだなんて……」
隆太が思わず呟く。ミディールは懐からメモ帳を取り出して素早く書き留めている。
「問題はこの第二層だ」
那智の指先が紫の層を指差す。
「時間の経過とともに変換効率が低下する。特に魔力濃度の高い環境下では自己劣化を招く。私の夫が最も懸念していた弱点だ」
映像が切り替わる。赤く点滅するエラー表示が次々と出現する。
「現在の状況はどうなんだ?」
理人が焦りを滲ませた声で訊ねる。
理人はシステムをバージョンアップさせるにはWindows MEのバージョンアップが必要なのだがそれができない状況にあることと封魔陣衛を発動させるのに那智のアニマを使用していたことを説明する
那智の眼差しが鋭く光った。彼女は椅子から立ち上がり、立体映像に向かって指をかざす。ホログラムが高速でスクロールし始めた。
「Me…… me…… Windows ME?」
彼女の声が低く震えた。
「そんなでたらめなOSを搭載してるのか!?」
理人は頷き、説明を続けた。
「通常のアップグレード方法ではどうにもならないんだ。封魔陣衛のシステム基盤になっている部分で――」
「冗談じゃない!」
那智が机を強く叩いた。老いた指関節が白くなる。
「あのOSは設計思想そのものが欠陥だらけでこっちの世界では途中で開発中止になったOS!!。ましてや魔力干渉下での長期間稼働なんて――」
映像が切り替わる。システム構造図が浮かび上がるが、至る所に警告表示が点滅している。
「つまり今すぐに対応しない限り……」
那智の視線が鋭く光る。
「この『封魔陣衛』は遅かれ早かれ機能停止する」
静寂が落ちた。
「それに」
理人が一呼吸置いて続ける。
「発動には常にあなたのアニマが不可欠だった。今は代替手段をつかって……延命している状況だ」
「アニマ源がないなら……私が直接接続するしかないね」
那智の決意を秘めた声が響く。
「私のアニマさえあれば……」
那智はふらりと立ち上がると、寝室へ続く扉に手をかけた。
「すまないね……老いぼれには刺激が強すぎたようだ」
彼女の肩が微かに震えている。
「婆ちゃん……」
理人が思わず手を伸ばすが、那智はそれを優しく拒んだ。
「今夜はもう限界だよ……明日、全て話そう」
扉が閉まる音が静かに響いた。
---
その夜──
那智の寝室には古い薬草の匂いと、どこか懐かしい木の香りが漂っていた。電灯が控えめに照らすベッドの縁に、那智と理人は向かい合って座っていた。
「……ほんとうに、理人なんだね」
那智の手が、震えながら理人の頬に触れた。かすれた指紋が刻まれた皮膚には、深い皺が刻まれている。
「違う世界の....別の時間戦の俺だ」
理人は静かに答えた。
「でも……あなたを『婆ちゃん』と呼んでいいだろうか?」
那智の目に涙が光った。
「もちろんだよ。どんな世界の孫でも、わしの孫には変わらん」
その言葉に理人も目頭を熱くした。
***
「さて……」
那智が背筋を伸ばした。
「私の知る限りを話そう」
彼女の話は壮絶だった。かつておきた3度目の世界大戦。祖父が命を懸けて完成させた「封魔陣衛」。そして世界を襲った異変。並行世界の俺の最後の結末
「おまえの祖父は天才じゃった」那智の声に誇りが滲んだ。
「『このシステムはいずれ世界を守るだろう』と言い残してね」
那智が静かに語りだす
「世界線が違えば結果も変わる。でも根っこは同じじゃ。誰かを守るために創られた技術が、まさか...........並行世界の私が............皮肉なものだね」
那智の細い肩が微かに震えた。老いた指が震えながら理人の袖を掴む。
「……その世界の私が? この雪と氷に閉ざされた世界に転移して……?」
乾いた唇が動く。
「そして……国を築いた?」
理人はうなずいた。言葉を選びながら、自分の世界の那智が辿った運命を語り始めた。
那智の老いた瞳が理人を見つめた。語られる言葉一つひとつが胸に刺さるように——。
「美香との別れ……それから並行世界の私はお前がこっちに転移して来た時にはすでに……」
震える指が額を押さえた。
「タイミングがズレた? グロウベルグシステムとやらに何か狂いが?」
那智の声に怒りが混じった。
「並行世界の私がお前たちにいろんなものを背をわせてしまった.....!!。」
理人の喉が詰まった。
「そう……かもしれない。でも」
理人は真っ直ぐな眼差しで那智を見た。
「たとえ世界線が違っても、俺たち家族の絆は変わってはいないと思う」
その言葉に那智の瞳が潤んだ。
「お前……立派になったな」
皺だらけの手が理人の頬に触れた。
「『わたし』の理人の記憶が重なっていくようで……嬉しいような哀しいような」
窓の外で風が唸りを上げた。二人は静かに視線を交わした。
「今度は……この世界の『私』おまえを支えよう」
那智の声に決意が宿っていた。
「理人。私にできることは全部やろう」
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「『並行世界の私』よ……」
空を見上げると粉雪が舞い落ちる。
「その魂が救われる日まで……この老いぼれも付き合うとするか」
凍てつく大地に、新たな誓いが刻まれた。




