104話 「避難所にて」(後編)
避難用シェルター滞在3日目の朝、天候は更に悪化していた
外は吹雪いて視界ゼロの状態になりつつあり、気温も氷点下30度にまで落ち込んだ。太陽の光は厚い雲に遮られ、時計だけが唯一の時間感覚となっている。
「那智さんのところに行くべきかもね」
ユウキがそう提案したのは昼過ぎのことだった。
エアーダガール内の食堂スペースで各々食事を取っていたメンバーの手が止まる。
「確かに」
隆太が先に反応した
「いつまでもここに居ても何も解決しない...」
「でもどうやって?」
ミナが心配そうな顔で問いかける
「目的地の場所はわかってはいる。だけどね?外は絶望的なブリザード。たとえ旅団の人たちが改造してくれたエアーダガールでも長期の運用は絶望的よ」
それに相変わらず旅団の人たちとも連絡がとれない。....
そんな八方塞がりな状況ではシェルターでの待機が望ましいというのがミディールの判断だ。
「う〜ん……」
理緒が腕を組んで唸り声をあげる
「リスクを考えるとね……」
ユウキが眉間に皺を寄せながら言う。
「情報収集の手段もなく無計画に飛び出したところで遭難するのが関の山だよ」
皆の表情が曇る。それ以上の意見が出ないまま時間が流れていく。沈黙を破ったのは予想外の人物だった。
「うーむ。わらわにいい考えがあるのぜ!」
突然ラピズが声高らかに宣言した。
小さな体からは不釣合いな自信満々な態度だ。
「えっ?マジ?」
理緒が素直に驚いた顔を見せる。
「それはどういう考えなのかしら?」
ミディールが興味深そうに尋ねる。
ラピズはシェルター内の一番遠いい出口から出れば那智のいるラボまで最短距離で到着するのではと説明する。ただしエアーダガールがもってくれるかは完全に運だ
「なるほど……!要は航続距離を稼げるルートを選べばいいってわけか!」
「そうなのぜ!」
ラピズが鼻息荒く解説を続ける。
子供特有の無邪気な声だが内容は意外と的を射ている。
流石は旅団の一員なだけはある。こういう時はよく頭が回る。
「ちょっと調べさせてもらうわね」
「そうとなったら早速準備ね!」
「了解!」
理緒が嬉しそうに拳を握る。
「なんだかワクワクしてきたぞ♪」
「わぁ〜い!」
「旅団の人たちとの連絡も引き続き確認しないといけないわね」
ミディールが冷静に付け加える。
「まずはルート検討から始めようなのぜ」
ラピズが指揮を取り始める。
「あたいも参加するよ!」
「私も手伝います!」
ミナが手を挙げる。
「じゃあ早速取り掛かるのぜ!」
ラピズが気合を入れる。
こうして一行は希望を胸に新たな決意を固めた。
「ところで理人と美香と美亜はどうしたなのぜ?」
「え?」
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理人はアイランド島ならそれなりの医療設備が整っており美香の末期癌もどうにかなるかもしれないと話す。しかし、
「もし私が助けられたとしてもそれでもう一人の私、並行世界の同一人物の私の人生を変えてしまうのは嫌だなぁ……」
「俺は、.....この世界のおまえもちゃんと生きていてほしいんだよ」」
理人の真剣な眼差しが美香を捉える。
「お前だって今の俺を見て辛い思いしてるはずだ」
彼は一歩近づき美香の肩に手を置いた。
「このまま見捨てるなんて絶対にできない」
「お兄ちゃん……」
「これでお別れなんてあまりに寂しすぎるじゃないか」
彼の声が少しだけ掠れた。頬を伝う一筋の涙。
「並行世界の私もお兄ちゃんと離れ離れになるのが耐えられなかったと思う。でもそれは仕方がなかった.....」
美香は静かに微笑んだ
「美香……」
彼女はゆっくりと理人に抱きついた。温かい感触が理人の胸に広がる。
「大丈夫、私が死んでもあなたの『私』がいる。きっとお兄ちゃんをまっている。だから早く見つけてあげてね」
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「……!」
壁の影から漏れる言葉に美亜は息を詰めた。冷たい壁に背中をつけ、両手をぎゅっと握りしめる。唇が小刻みに震えている。
「おねいちゃん.....。」
頭の中で言葉が反芻される。理人が必死に何かを訴えている。美香が静かに受け入れようとしている。二人の姿が窓から差し込む薄明かりに浮かび上がり、まるで切り離された劇の一幕のようだった。
「私は結局、ただの代わりにしかなれない....」
思わず口走った言葉が、静寂を破る微かな音となって響いた。
「美亜さん......。」
低い声が通路の陰から響いた。美亜は肩を跳ね上げ振り返る。
「ポルコさん……!?」
声が震える。ポルコは無表情のまま、ずしりとした歩調で近づいてきた。
「なんでこんなところで立ち聞きしてるんですか」
「聞かれたくない会話ですか?」
その問いに美亜は小さく首を振る。頬を伝う涙の跡を慌てて拭った。
「違います……ただ……」
言葉に詰まった。喉がつかえる。ポルコは大きくため息をつくと、近くのベンチを指差した。
彼女を促す仕草だった。
「少し座りましょうか」
ポルコはベンチに座り込んだ。その隣に美亜も腰かける。しばらく二人の間には言葉がなかった。廊下の奥で響く機械の低音だけが時を刻む。
「私はあちら側のおねいちゃんと顔を合わせて話したことがあるんです。私がはじめてあったときはあおねいちゃんはあの回復システムのカプセル型の機会にはいってました」
ポルコは美亜の話を聞いて何かを察した
「彼と理人さんと出会ってから共に生活し一緒に行動するようになって理人さんが抱えている過去に対して同情することが多かったのですよ」
ポルコはは静かに耳を傾けた。
「その後、美香さんとは?」
「私があの機会に入るのと入れ違う形でそれっきり....」
美亜は膝の上で両手を握りしめた。
「私は結局……彼にとって妹の代替品でしかないんじゃないかって思うんですよ……」
「美亜さん……」
ポルコの表情が僅かに変わる
「ごめんなさい」
「それじゃあ……」
ポルコはゆっくりと言葉を継いだ。
「それじゃあ聞くけど、理人さんが他の誰かを愛した時に君は彼を諦めますか」
美亜の目が大きく開く。そして、すぐに首を横に振った。
「諦めたくないです。でも……」
言葉が途切れかける。
「でも理人さんの中のあの人が消えることはないだろう?」
ポルコの鋭い指摘に美亜は顔を伏せた。
「ポルコさん……どうしたらいいと思いますか……」
彼女はゆっくりと顔を上げてポルコを見た。
「自分で考えるしかないんだよ……」
「え……?」
「君は本当に好きなものを手に入れるために何をすべきか。それがわからないなら教えてあげるよ」
ポルコは真剣な目で美亜を見つめた。
「まず自分の気持ちをしっかり整理するんだ。そして自分の気持ちを正直に伝えることだよ」
美亜の瞳が大きく揺れた。
「正直に……。」
「ああそうだよ」
ポルコは優しく微笑む。
「理人さんが君に向ける愛情は本物だと思う。だけど彼の中には確かに他の誰かがいるんだ」
ポルコの声は穏やかだったが確信に満ちていた。
「だからこそ君自身が強くなって理人さんに認めさせるんだ」
ポルコの言葉は重みがあった。美亜はただ黙って聞いていた。
「難しいかもしれませんがそれが一番大切なことなんですよ」
「自分の気持ちをしっかり整理する……」
美亜は反芻するように呟いた。
......。
ポルコは、団長月見に話されたある内容を思い出した。
「何なんですか?この資料は?」
「それはミディールから渡されたものよ」
「こ...これって?なんで彼女が二人の??どう考えてもあり得ないでしょ?」
「私だってわからないわよ!!!とにかくあなたには監視役を命ずるわ!わかったわね!!!」
..............。
自分間違ったことはしてないよな?
この話も何度も出てきましたがそろそろ気づいている人はいるはずですよね




