102話 「避難所にて」(前編)
吹雪の中を必死に飛び、エアーダガールが避難所らしきコンクリート製の建物に到達した
「う!!うわぁぁーーーなんだぁぁなにごとだぁぁ」
三人の男女がシェルター入り口に立っていた。防寒コートを着込んだ彼らは明らかにこの地域の生存者たちだ。
「す!!すまない俺たちはある人物を頼るためにここまで来たものだ悪意はけしてない!!」
理人が窓越しに声を張り上げる。
エアーダガールをヘリポートのようなスペースに移動させると周囲の生存者たちが一斉に集まってきた。老若男女入り混じった約30人ほどの人々だ。
「こんな吹雪の日に来客とは……珍しいことだ」
年長の男性—おそらくこの避難所のリーダーと思われる人物が前に出てきた。
シェルター内部へ案内された一行は、その規模に驚かされた。コンクリート壁で覆われたドーム状の空間には、棚田のように段々になった居住区画があり、照明や温水設備も整っている。
「ここは元々災害用シェルターでしたが、世界規模の氷河期が始まった際に我々が拡張工事を行いました」
リーダー格の老人が鈴木と名乗り説明した。
「現在98名が生活しています」
美香はエアーダガールから降りる際、膝から力が抜けそうになったが、美亜と理人が支えた。
「大丈夫か?」
「ええ……少し寒さが厳しいけど」
鈴木は一行の疲労した様子を見て提案してきた。
「皆さん、よろしければ泊まっていかれますか? 部屋は余裕があります」
理人たちが一瞬躊躇すると
「お願いします!」
美亜が積極的に答えた。
「ありがとう。助かるよ」
鈴木は暖炉に薪をくべながら続けた。
その夜、シェルター内で食事と温かい寝床を与えられた理人たちは束の間の安らぎを得た。
一方で理人は美香の傍を離れなかった。
「すまないな……こんな目に遭わせて」
暗がりの中、美香は微かに微笑んだ。それは病人特有の弱々しい笑みではなく、感謝と決意が込められた表情だった。
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暖炉の炎がパチパチと燃える音だけが響くシェルターの一室。分厚い毛布にくるまった美香が突然口を開いた。
「ねえ……お兄ちゃんと『そっち』の私は……どんな関係だったの?」
理人は予想外なことを聞かれ困惑する
理人は薪をくべる手を止め、ゆっくりと振り返る。美香の目は病的に澄んでいた——回復システムで容態はある程度回復しても、心の傷は癒えていない。その横で美亜が息を飲み、拳を握りしめるのが見えた。
「そっちのお前は——」
理人が慎重に言葉を選ぶ、
「あのドレスこの世界の俺が作ったんだろ?あれ俺も作ったんだ同じものを.....すまない勝手に見てしまって」
美香は黙ってうなずいた。
「つまり......『私たち』の関係と同じなんだね?」
「そうだな」
理人は正直に答えた。
彼女は微笑むが、瞳の奥には寂しさが宿る。
美香は黙って頷き、ゆっくりと毛布の中から手を伸ばした。指先が空気に触れると、その冷たさに身震いする。理人が咄嗟に自分の手を重ねると、彼女の震えが少しずつ収まっていく。
「着なかったのか?おまえは?」
静かな問いかけに、美香は遠い目をする。
「お兄ちゃんの病状が悪化して、その後結局……」
「そうか」
理人の胸に鋭い痛みが走る。過去の自分たちの姿が脳裏に浮かぶ。幸せそうな二人が映る写真。ウェディングドレスを試着している美香。幸せそうに笑う二人の顔。
「ごめんな」
思わず謝罪の言葉が漏れる。それはいろんな意味合いがこもった言葉だった。自分が元々いた世界で幸せになれなかった美香に、そして何より今目の前にいる美香に。
「おまえにそのドレスを着せてやることができなかった……それが俺の最大の後悔だ」




