100話 「望みをかけて」
美亜は小さく頷き、静かに話し始めた
「私も理人さんと同じように……並行世界からこの世界に転移してきました」
美亜の瞳に遠い記憶が揺らぐ。
「ある日道端で倒れている私を見つけたお母さんが介抱してくれたんですそして私はあの人の養子になりました。その....お母さんも...あなたのおばあちゃんも私たちと同じだということはわかりますよね?...」
美香の問いかけに美亜は少し俯いた。
「お母さんは……数ヶ月前に病気で亡くなりました」
彼女の声は穏やかだがどこか寂しさが滲む。
「そう……なの」
美香は自分の祖母のことを思い出して胸が痛んだ。
「お母さんの最期の言葉は『みんなに幸せになってほしい』でした」
美香の小さなため息が聞こえた。
「そっちのおばあちゃんに……会ってみたかったな」
約一時間後、装置から美香が解放された。回復システムによる治療は彼女の身体に目に見える効果をもたらしていた。足取りは依然として慎重だったが、杖なしで歩けるようになっていた。その姿に皆が安堵の表情を浮かべる。
「一応問題はなさそうだね」
隆太がモニターをチェックしながら理人に報告した。
カプセルから出てきた美香はゆっくりと皆の方へ向き直った。彼女の動きは慎重だったが、かつての痛みを伴うぎこちなさは消えていた。顔色も幾分良くなっている。
理人はこちら側の祖母、那智は今どうしているのかと尋ねる。すると周囲の空気は一変する。
美香は静かに説明を始めた。
「実は……おばあちゃんは今、行方不明なんです」
その言葉に部屋の空気が凍りつくように感じられた。理人も隆太も思わず身を乗り出す。
「まさか!!こちら側の世界の婆ちゃんは生きているのか?」
「この世界が急速に荒廃し始めてから……おばあちゃんは毎晩遅くまで何かの研究をしていました」
美香は記憶を探るように言葉を選ぶ。
「ある日、突然家を飛び出して行って……それっきりです」
「ばっちゃんは何の研究を?」
理緒が首を傾げながら尋ねる。
美香は答えづらそうに眉をひそめた。
「それが……よくわからないんです。ただ『時空の歪み』とか『次元融合の法則』みたいな難解な言葉を呟いていることは何度か耳にして」
理人の目が鋭くなる。
ちょっとまてよ、まさかと思うがこちら側の婆ちゃんも何かしらの異変に気付いて何かをしようとしているのか?
「これは思わぬ収穫かもしれないのぜ!」
ラピズが突然跳び上がって叫んだ。その小さな体からは予想以上の声量が放たれる。
「ちょっと、興奮しすぎだよラピちゃん」
「あちらの世界での那智様とこちらの世界での那智様は全くの別人なんだよね?」
理人は頷く。
「あぁ、少なくとも俺たちが知ってる婆ちゃんとこの世界の婆ちゃんは別存在だ」
「そうじゃろ!でもあのものが何らかの形で時空間の研究をしているとなれば……」
「もしかしたらWindowsをバージョンアップさせるヒントを持っているかも?」
ミナが理解したように言葉を引き継いだ。
「まさにそれなのぜ!」
ラピズは両腕を広げて嬉しそうに飛び回る。
一同は驚きの表情を交わす。まさか偶然にもこの世界の那智が重要な鍵を握っているとは。
「だが問題は……」
ミディールが眉をひそめる。
「行方不明になったという婆ちゃんをどうやって見つけ出せばいいということだ」
島の存亡をかけた手がかりを遂に手に入れた理人たち。果たしてこの世界の那智を見つけることができるのであろうか?




