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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME0 限られた永遠と破壊神の誕生
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崩壊

 なんだこれは、なんなのだこれは。


 虹の渦に飛び込んだリウラは、中に広がっていた光景に絶句した。

 心力(スヴォシア)がありすぎる。当面——少なくとも後数百年分のエネルギー事情を解決してしまえるほどに。

 メモリーカードで身体情報を維持していなければ、大量の心力(スヴォシア)に宛てられて、すぐさま進化が起こり、理性と体が崩壊してしまうほどの心力(スヴォシア)量だ。


 期待を遥かに超える結果に、結果として言葉を失ってしまっていた。喜びよりも先に、何故ここまで心力(スヴォシア)を保持しながら、世界に向けて放出されないのかという疑問が先に立った。


「……来たか」


 そして、空間の中心で、腕を組みながら佇んでいる謎の存在に気が付いた。

 顔に靄がかかっており、体つきから男か女かも区別がつかない。

 だが、すらっとした手足や腰まで伸びた髪の先が虹色に輝いて、そこから高密度の心力(スヴォシア)が溢れ出している。その心力(スヴォシア)の質を感じ取っただけで、この謎の存在が生命体としていかに秀でた存在かを思い知らされた。

 おそらく、リウラを遥かに凌駕する力を持った生命体。


「……お前は、誰だ? 何故渦の中に存在している」

「私はお前たちの世界ともう一つの世界。その二つの世界を管理している存在だ」

「2つの世界……?」


 説明の意味が分からずリウラが困惑する。

 訳が分からずに身を固めるリウラに、謎の存在がゆっくりと近づいてきた。


「お前は、今の世界をどう思う?」

「……どういう意味だ?」

「くだらない世界だとは思わんか」


 淡々としてはいるが、確かな怒りの籠った声に、リウラは思わず息をのんだ。

 靄で顔は見えないが、白く輝く体の節々から失望の感情が伝わってくる。


「わずかな心力(スヴォシア)を分け合う、規律に準じる弱者共で溢れる世界。1生命体として勝ち得た尊厳ではなく、徒党の中の一員として、与えられた尊厳に縋る羽虫で溢れる世界」

「……?」

「強者が身を削って与える恵みを『権利』だと主張する弱者を見てどう思う? 自ら進化する意思はどこへ消えた? 私が作った世界にはそんな者はいなかった。全てを変えたのはお前たちの王だ。奴が現れてから私の世界は停滞し、衰退の一途をたどることになった」


 文脈通り捕らえれば、こいつは今自分たちが生きる世界を作った何かであり、こいつが忌々し気に語る『王』というのはレイルの事だろう。


「お前ならここにある心力(スヴォシア)をどう使う? 願いを——意志を反映する力を使って、お前はこの世界をどう進化させていくのだ?」

「どういう意味だ……?」

「私の質問に答えろ」


 質問に重ねたリウラの疑問は、鋭い声で封殺された。


「お前にとって、進化とはなんだ。その進化が世界にもたらすものは何なのだ」


 目の前で問いを投げてくる、謎の存在の正体は分からない。

 なんとなく感じるのは試されているということだけだ。


 自分を、そして世界の在り方を。


 答えを間違えた時、どうなってしまうのかはわからない。

 口ぶりから察するに、この存在は今の世界を良く思っていないらしい。羽虫——というのは自分が大好きな町の者たちの事か。

 普段なら怒りの感情が湧くのだが、今は間違えてはならないという緊張感が、その他すべての感情を上書きしてしまう。


 こいつが望んでいるのは進化。


 だとすれば、答えるべきは——


「俺はここにある心力(スヴォシア)を……他の者たちの成長のために使う」

「詳しく」


 間違えたか。いや、説明を求められるということは方向性はあっているのか? 

 下手な嘘は見破られるかもしれない。

 そう本能で感じ取ったリウラは、自分の本音を中心に、論を展開していく。


「この世界には、俺にはない素晴らしい才能を持った者たちがたくさんいる。ただ強いだけじゃない。頭が良かったり、歌が上手かったり、誰かを護ることが上手かったり……俺は、様々な良さを持つ者たちに囲まれたおかげで、日々を楽しく過ごすことができている」

「……」

「だが、そんな奴らは規律の無い前の世界では生きていけない者がほとんどだった。力に淘汰され、その大半は駆逐されてきた。素晴らしい才能たちが大成する前に目を積まれてきたのだ。それを防ぐためには、皆が不自由なく暮らせるだけの心力(スヴォシア)が必要だ。……だが、俺たちの世界に、皆を養えるだけの心力(スヴォシア)はない」


 謎の存在はリウラの話を黙って聞いている。

 自分の言葉の一つ一つがどう捉えられているのか気がかりだが、少なくとも流されてはいないようだ。リウラの説明の合間合間で、論を飲み込むように相槌する様子がうかがえる。


 大丈夫だ。ちゃんと伝わっている。


 そう捉えたリウラは語気を少しだけ強め、懇願するように身を乗り出して続けた。


「生きるチャンスが増えればいいと思っている! いろんな奴が長く生きれるようになれば、それだけ世界は可能性を孕むことができる! だから……お前がここの心力(スヴォシア)を管理しているというのなら、どうかこの心力(スヴォシア)を俺たちに分けてくれないだろうか⁈」


 最後は思わず興奮気味になって、思いのままに頭を下げてしまった。

 その様子を見て、なにやら考え込むように謎の存在は低く唸った。

 暫くの静寂が流れた後、


「なるほど、理解した」


 謎の存在が小さく息を吐いた。

 理解した。という言葉にリウラは期待して顔を上げた。

 もしかしたら心力(スヴォシア)を分けてくれるかもしれない。

 そう期待して、頬をほころばせた時だった。


「お前の考えが一番くだらんな」


 謎の存在が一瞬のうちにリウラの前に詰め寄って、その顔を鷲掴みにした。


「——?! ぐあああああああああああああああああああ⁈」


 鷲掴みにする手から流れるエネルギーが大量にリウラに流れ込み、リウラの体を壊しにかかる。

 あまりの激痛に悲鳴を上げるリウラを見上げながら、謎の存在は憤慨した声で語り掛けた。


「お前がそうやって世界を甘やかすから、いつまで経っても世界は進化しないのだ。我が何のために心力(スヴォシア)の供給量を絞っていると思っている? 何のために世界を滅ぼすような厄災をお前たちの世界に送り続けていると思っている?」


 リウラの顔を握る手に、さらに力が加わる。


「お前たちに進化を促すためだ。進化に必要なのは『生きよう』とする意志だ。意志を育むために『ストレス』、あるいは『脅威』が必要なのであり、生きる余裕を作り出すなんて言語道断だ。間引くべき芽に水や土を与えるから、お前たちの世界は衰退の一途をたどっている」

「……ぐあっ⁈」


 体中にエネルギーを流し込まれて、身動きが取れなくなってしまったリウラは、乱雑に放り投げられた。


「……我はお前たちの王にも同じ忠告をした。その上で『よりよい世界にするから滅ぼすのは待ってほしいと言われ』、猶予を与えることにした。その妄言を聞いてやったのはお前がいたからだ。死にたくないという皆の意志が、厄災に立ち向かえるお前という存在を生み出した。……だが、肝心のお前がこの腑抜けようでは意味がない」


 どういうことだ。レイルはこいつと一度対面していたのか。知っていたからこの存在を秘密にしていたのか?

 這いつくばったまま顔だけ動かして、謎の存在をリウラが睨む。

 そんなリウラの視線など気にも留めず、謎の存在はリウラの腕の端末からメモリーカードを抜き取った。


「挙句の果てには、進化を止める道具まで作りおって」


 そして、リウラのメモリーカードに心力(スヴォシア)を注ぎ込み、メモリーカードを粉々に砕いてしまう。


「……ああ、うああああああああああ!」

「お前に破壊の遺伝子を流し込んだ。この世界は責任を持ってお前が滅ぼせ」


 メモリーカードが砕かれたことで、進化に歯止めが利かなくなったリウラが、周囲の大量の心力(スヴォシア)を吸収して、みるみるうちに体を成長させていく。

 黒い雷のようなオーラがリウラの体にまとわりつき、どんどん体積を増していく。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」


 完全に理性を失い、獣のような方向を上げるリウラを見て、謎の存在は満足そうに腕を組んだ。


「安心しろ。心力(スヴォシア)もそれを得られるチャンスも、皆に平等にくれてやる。進化を促さないといけないのはお前たちだけではない。お前たち心力(スヴォシア)で生きる存在と、心力(スヴォシア)を生みだす人間という生命体を巻き込み、とあるゲームを開催するつもりだ」


 謎の存在が指で合図すると、黒い雷となったリウラは小さく頷き、出口の方へと飛び出した。


「お前たちの召喚士の王——『サモナーズロード』を決めるゲーム。お前たちの世界の生命を人間世界に転生させるため、下々の生命たちを(みなごろし)にしてこい」



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 その日、虹の渦から一筋の黒い雷が吐き出された。黒い雷は世界を駆け巡り、一分も経たないうちに、全生命体の9割9分を塵に変えた。


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