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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME5 魂音の精霊と復活の破壊神
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ファルモーニの記憶①

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 リウラやアーサー、ファルモーニたちが住んでいた世界の上空には、|心力(スヴォシア)《スヴォシア》を吐きだす、

 虹色の輝きを放つ大渦が存在していた。

 どこに繋がっているかはわからない。ただわかるのは、この世界の全ての物質の構成要素、もとい全ての生命のエネルギー源である心力(スヴォシア)を【一定量】吐きだし続けるということだけ。


 心力(スヴォシア)を得る手段は二つ。渦から漏れ出る心力(スヴォシア)を直接吸収するか、生きている生命を殺し、その血肉を喰らうことで心力(スヴォシア)を摂取するかの2択だった。


 そのため、この世界の生態系は極端なまでの弱肉強食の世界だった。弱い生命は、体を小さく進化させ、生命活動に必要なエネルギー量を抑えながら、繁殖力を強化してどうにか子孫を残そうとする。

 その一方で、万能可変物質である心力(スヴォシア)をどんどん吸収できる強い力を持つ生命体は、弱いものを喰らい続け、1世代の内に肉体をみるみるうちに進化させていく。肉体が成長することはあっても、、老いるという概念の無い、この世界の生命は、心力(スヴォシア)さえ摂取できれば無限の時を生きることができる。

 弱い生命は餌となり、心力(スヴォシア)が足りなくなれば体を維持できず消滅していく一方で、強い生命は進化を続けながら悠久の命を手に入れていく。

 渦から摂取できる心力(スヴォシア)には限りがあるため、口減らしかつ、己の生命を維持し続けるために誰かを殺す必要がある、戦いの絶えない世界だった。


 そんな殺伐とした世界に、とある戦士が現れ、終止符を打つ。


 圧倒的な力で弱きも強きも束ねたその戦士は、皆を統制し、秩序を作り上げ、争いを止めさせた。


 戦いが少なくなったことにより、その世界の生命としての進化はある程度の収まりを見せ、代わりに、暮らしの質を上げようと、文明の進化が台頭することになる。


 ファルモーニが生まれたのは、文明がかなり進歩し、煌びやかな居住区や、ガスや水道などのインフラ設備が十二分に発展した、後期の世界の事だった。




「……今月もマイナスかあ」


 広さ約23㎡。楽器と寝具以外の家具がない部屋で、ファルモーニは寝転がりながら、腕に装着された端末の画面を眺めていた。

 自分の生体情報を記録し、管理するメモリーカードが刺さった端末には、右肩下がりに沈んでいく、折れ線グラフのような図が表示されている。


 横軸が日数の項目で、縦軸が自分の中に残っている心力(スヴォシア)の残量だ。そのグラフの右側に、無機質なフォントで【予測寿命:4年102日20時間9分21秒】と記載されていて、現在進行形でその数は減り続けている。


 日常生活のエネルギー消費量を計測し、その平均値から残りの寿命を計測する装置。

 この装置が示す数値が0になると、ファルモーニは体が維持できなくなり、光となって霧散してしまう。


「気持ちを切り替えて頑張らないと」


 そう言って台所の棚にしまっていた、携帯食料を取り出して食べる。

 予測寿命の数値が1日分増えてホッとするも、そもそもこの食べ物、1.2日分の心力(スヴォシア)使って買ったっけなあ、なんて思い出して、再び気持ちが沈んだ。


 食事を終え、「さあ、今日も一仕事!」と、無理やり明るい声を作り、ファルモーニは楽器を手に家を出た。


 ファルモーニの心力(スヴォシア)換算で、家賃月7.5日心力(スヴォシア)の安アパートを出ると真っ先に目につくのは、街の中央にそびえ立つ、心力(スヴォシア)を吐きだす虹の渦に届きそうなほどの高さの、【中央塔】と呼ばれる、塔のような城だ。

 とある戦士が生命を束ねた際、真っ先に建設したという施設だ。施設の先に付いている心力(スヴォシア)吸収装置で、渦から心力(スヴォシア)を吸収し、民へ改めて分配する。この世界の生命を牛耳る【王】という存在が管理している施設。

 そんな建物の傍に群がるようにして、高い城や、富裕層が住まう煌びやかな居住区が建設されていた。この世界で言う富裕層とは、一定以上の心力(スヴォシア)を保有し、予測寿命が1000年以上ある生命体を示していた。

 王が管理するようになった心力(スヴォシア)は、皆に平等に分けられるわけではない。生まれてから一度だけ、一定量の心力(スヴォシア)が配られた後は、公務や会社に従事し給料として貰ったり、自ら事業を立ち上げるなどして自分で増やさなければならない。要は資本主義の社会だ。


 心力(スヴォシア)を得るために、他者間で殺し合いを行うようなことは亡くなったが、社会が生まれたことにより別な形での競争は生まれた。どんな形でも社会により多く貢献した者は、それだけ多くの心力(スヴォシア)を報酬として得られることになる。

 評価のされ方が変わっただけで、武力でも、知略でも、優秀な者は無限の時を過ごせる一方で、そうでない者は、一定の生涯を担保されるものの、世代交代を強要され、消滅する。


 消えたくなければ、自らの価値を示し、悠久を生きる者たちに負けないよう評価を獲得し、消滅しないだけの心力(スヴォシア)を確保し続けなければならない。弱者の安全がある程度確保された

 だけであって、根本的な弱肉強食の構造は変わっていない。


 心力(スヴォシア)=寿命=お金の世界で、ファルモーニはと言うと、立ち位置で言えば即日のバイトで食いつないでいるだけの弱者だった。


 そんな自分とは縁のない世界をジトリと眺めながら、ファルモーニはバイト先である下町の飲食店へと向かうのだった。




 バイト先での仕事を終えた後は、下町の広場で歌を歌う。

 歌うのは、作詞も作曲も自分で行ったオリジナルソング。

 歌に込めたのは、皆で無限の時を生きたいという願いだ。


「以上、新曲でした! ありがとうございます~」


 なんて弾き終わった後にMCしてみるものの、道行く者はファルモーニに目もくれず通り過ぎていく。

 拍手の音が鳴り響くが、それはファルモーニの魂音(こおん)の能力で、楽器から自分で出しているものだ。空しさを覚えないわけではないが、一曲歌い終えた後、無音な方が心に来る。


 心力(スヴォシア)が限られ、皆が永遠を生きることのできない世界では、ファルモーニが歌に込めた思いと言うのは刺さらないのだろう。絶対に手の届かない夢物語など只の妄言だ。願うだけならタダだが、それで食っていくことはできない。


 下町に漂うのは、いつか自分は心力(スヴォシア)が亡くなって消えてしまうんだろうなという諦めのムード。

 真面目に生きていないわけじゃないが、腕にはめられた機械で、終末を突き付けられながら生きる者の顔は、どこか投げやりだ。

 心力(スヴォシア)がもっとあれば、自分たちも永遠を生きられるのになあ、なんて愚痴を聞かない日はない。


 自分に成り上がるだけの力もないからと、何年は生きられるよう頑張ってみようとか。消える前には美味しいものをたくさん食べて消えようとか、皆自分の死に方を考えて生きている。


「……はあ」


 あと4年弱。頑張って働いてもあと何年引き延ばせるだろうか。

 仕事を増やし、仕事以外を活発に活動せずに過ごせば、一応の永遠は生きられる。だが、楽しみの無い人生を送ったとして、それは生きたってことになるのだろうか。

 無限を願いながらも、自分も終わりを考えて生きる者の一人。そんな現実を自覚して、ため息交じりにその場を撤収しようとした時だった。


「うむ! 素晴らしい歌だったぞ」


 背後からパチパチと拍手の音が聞こえ、びっくりして背後を振り返る。

 拍手を貰えたこと自体も驚いたが、その拍手の主を見て更に目を剥いた。


「リウラ……?」


 この世界でこの男の名を知らないものなどほとんどいない。世界最強の戦士にして、世界でも屈指の有力者。

 そんな男が自分に何の用だろうか。

 驚くファルモーニをよそに、リウラは腕の端末を操作して、「いくら払えばいい?」と尋ねる。


「……いくらでも大丈夫だけど」

「そうか、俺の判断でいいのか」


 そう言って端末を操作し、自分の端末に振り込まれた心力(スヴォシア)の額に驚愕する。

 自分の寿命が50年分増えている。ファルモーニが今まで稼いだ金額よりも多い。

 そして、横目で見たリウラの端末には、【予測寿命:1094780年315日12時間56分34秒】と表記されていた。実際に目で見るのは初めてだが、間違いなく上流階級。リウラは無限を生きる者だ。


「……馬鹿にしてるの?」


 渡しの一生なんて、貴方に取っちゃ屁のようなものなんでしょ。

 怒りでほんの少しだけ声が震えた。楽器を握る手に自然と力がこもるファルモーニに対し、リウラは首をかしげている。


 理論上の無限の命を提示されながら、それを叶えられないのは、ある種の線引きだ。

 そのため、この世界の上流階級とそうでない者の間には、見えないが深い溝が存在している。


「すまない、何か気に障るようなことをしただろうか?」

「気軽に50年分ってなによ! あんたら上の人間の道楽の為に歌ってるんじゃない‼ 自分だけ永遠を生きられたら十分なあんたたちとは違う! 皆で、無限を生きることが私の望みなの! あんたらが拾わない命がいつか報われるよう、そんな気持ちを込めて歌ったんだよ!」


 怯むリウラに捲し立てながら、ファルモーニは貰った心力(スヴォシア)を返そうとする。

 腕の端末を操作しようとする手を、リウラが掴んで止め、すぐさま頭を下げた。


「……すまない。そういうわけじゃないんだ。素直に嬉しかったんだ。俺と同じ夢を見てくれるものがいたと知って」

「……同じ夢?」


 ファルモーニが落ち着いたのを見て、「少し話さないか」とリウラが訊ねる。

 上流階級の者は、自分たちに下の者に対して、卑下するような態度をとるものだと思っていたが、目の前の男の振る舞いは異なる。


 ほんの少し、リウラの事に興味を持ったファルモーニは、リウラにつられて、適当な壁にもたれかかりながら、リウラの話に耳を傾けるのだった。


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