表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME5 魂音の精霊と復活の破壊神
79/95

信じられなくて

 

「【駕瓦我隷輪(ガガガカラー)】!」


 左腕の、黒い雷のオーラに引っ張られるように街を暴走するリウラに、再び自我を奪う首輪が巻き付いた。


「止め……ロ……!」


 ただでさえ雷のオーラに自我を持って行かれそうになるのに、そこにさらに横やりが入る。

 左手で触れば【駕瓦我隷輪(ガガガカラー)】は解けるが、首輪が装着される度、不快な心力(スヴォシア)が頭に流れ込み、意識を持って行かれそうになる。


「いいねえいいねえ! 後何回か決まれば洗脳できそうだ!」


 再びリウラがリンカーから離れるように距離をとるが、左腕に引っ張られ、思うように動けない。


「待てテメエ‼」

「……邪魔だなあ」


 そこに響子たちが追い付くと、リンカーが苛立ったように舌打ちをした。


「リンカー! 良くも破壊神を復活させてくれたな!」

「裏切り者は処罰する!」


 そしてリンカーを挟み込むような形で、響子たちとは反対側の路地から、連盟の者と思われる者たちが現れた。

 ヴォルバーンのような姿の飛竜や、ローブに身を包んだ魔導士型の契約戦士(チャンピオン)を連れた2組のプレイヤーだ。


 聖也たちにとって連盟も敵だが、今の標的はリンカーという点は一致している。


 2方向から挟み打つ形で、リンカーを追い詰めようとしたところ、


「【志枯羽根(シカバネ)】」

「ぐあっ⁈」


 リンカーが懐から鉄製の羽根を取り出し、それを連盟のプレイヤーたちに向かって投擲する。

 額にダーツのように羽が刺さると、意識が奪われたかのように、プレイヤーと契約戦士(チャンピオン)たちが棒立ちのまま動かなくなった。


「邪魔者同士、仲良くやってなよ」


 リンカーがすれ違いざまに、首輪を具現化し、連盟の者たちに装着する。


「あいつらを止めなさい」


 リンカーの指示で首輪が機能し、意識を奪われたまま、契約戦士(チャンピオン)も人間も纏めて襲い掛かってくる。

 連盟のプレイヤーのうち、一人のスキャナーのランプが赤く光っている。ライフ1ということだ。


「ファルモーニ!」

「はい! 子どもは見ちゃダメ!」

「わっ?!」


 響子の声で、ファルモーニが聖也の視界を奪うように前に立ち、【与え合う力の増強曲(ギブ・ギグ・ギブン)】で響子を強化する。


「………………」

「……Oh」


 ボコッ、ドカッ、バキッ、バキッ。

 ファルモーニの背中の奥から、何やら凄惨な音が響き渡る。

 何をしているのかは想像がつくが、どんな光景が広がっているのかは想像したくない。

 おそらく、教師が生徒に見せられない光景が広がっているのだろう。

 空気を察して目を逸らす聖也の前に立ちながら、ファルモーニの戦慄する声が漏れた。


「よし! 行くぞ!」


 響子の合図で再び駆け出すと、恐らく響子にボコボコにされたであろう契約戦士(チャンピオン)たちの無残な姿がそこにあった。死にはしないが、動くことはできないだろう。


 ……この飛竜型の契約戦士(チャンピオン)とか、先生の10倍くらいはデカいんだけど。4VS1でどうやって倒したんだろう。


 聖也が走りながら観察していると、「見るんじゃない」と響子が低い声で脅した。聖也は反射的に前を向き、リンカーたちの後を追う。


「リウラの先回りをしましょう!」


 上空に滞在していたヴァルビーから送られてくる、周辺の情報をスキャナーで確認する。


「右の路地から行こう!」

「わかった!」


 聖也の指示でルートを変え、リウラが通りそうな道を先回りするように、聖也が指示をしながら路地を抜けた。

 そして、住宅街の中にある、小さな公園に待ち構えていた所、


「……きた!」


 公園に隣接する路地から、リウラが迫ってくるのが見えた。


「リウラ! 僕だ! わかるか⁈」

「……聖、也」


 リウラは聖也の姿を視認すると立ち止まり、息を荒くしながら、その場で膝を折った。

 左腕のオーラが、首元まで侵食している。

 リウラの通った道は、壁や地面、至る所に細かい亀裂が走っている。雷のオーラが触れた個所は、干からびた大地のように、深いヒビで割かれて崩壊していくらしい。


 バチバチと辺りに雷をまき散らしていたオーラが、聖也と対面して少しだけ収まった。


「聖……也、俺は、俺は……何なんだ?」


 虚ろな眼差しで、弱弱しく肩で息をしながら尋ねるリウラに、聖也は言葉を詰まらせた。


 何て……何て答えたらいいんだ? 僕は。


 困惑した顔で、何も言えなくなった聖也に縋るように、リウラが質問を重ねる。


「俺は……皆を殺したのか? 皆の世界を壊した……破壊神、なの……か?」


 これは質問じゃない。願望だ。

 そうじゃないって、僕に言ってほしいだけだ。


 今にも泣きだしそうに、顔を歪めるリウラの顔に、聖也は益々困惑してしまい、ほんの少し後ずさりをしてしまった。


 言わなきゃ。言わなきゃ。

 リウラが欲している言葉を。今のリウラを支えてあげられる言葉を。


 頭の中は真っ白になっていた。

 自分の中で生まれる言葉よりも、リウラが望んでいる言葉を吐くのが『正解』だと思った。

 頭を真っ白にしたまま、聖也はたどたどしく言葉を繋ぐ。


「リウラは……破壊神なんかじゃ――」

「自分のことを知らない人間に、それを聞くのは逃げなんじゃないのぉー?」


 しかし、聖也の言葉を遮りながら、聖也たちの背後からリンカーの声が響き渡った。


「っ⁈ ファルモーニ!」

「…………」


 響子がファルモーニに、スキルでバフをかけるように促すが、リウラを目の当たりにしたせいか、恐怖で動けなくなってしまっている。響子の声は完全に意識の外だった。


「がっ⁈」

「ぐあっ⁈」


 その隙をついて、リンカーが響子と聖也を首輪で殴り飛ばす。棘付きの首輪でモロに殴られ、聖也たちは地面を転がりながら、公園の遊具に叩きつけられた。


「バフなしだとこんなもんか。……さてリウラ。自分のことを聞くなら、やっぱ僕たちの世界の奴なんじゃない?」

「ううっ……!」


 ファルモーニの首に、首輪を装着し、乱暴に鎖を引っ張り、傍に寄せる。


「やめ……て……‼」

「さあ、答えなさい‼ あなたにとってリウラとは何者か‼」

「あ……、や……! リウラは……、わた、しに、とって……‼」


 洗脳の力にあらがうように、ファルモーニが首輪に手をかけもがくが、意志に判して、口が勝手に動き始める。

 ファルモーニの口が動く度、リウラの黒いオーラがバチバチと反応する。

 リンカーが鎖に更に心力(スヴォシア)を籠めると、ファルモーニの顔が苦痛で歪み、吐きだすような声が響いた。


「……私を殺した‼ 世界を壊した破壊神‼」

「――――‼」


 リウラの表情が絶望の色に染まると同時、黒い雷のオーラが急激に増幅し、リウラの全身を包み込んだ。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」


 リウラが大きく咆哮すると、周囲に激しい雷を放出した。

 ばら撒かれた雷のオーラは、周囲に破壊をまき散らしながら、壁や地面を鋭く砕いていく。


「アアアアアアアアアアアアアアアアア‼」


 そしてリウラの形をした黒い雷の化け物は、けたたましい咆哮を上げながら、再び暴走をはじめ、街中へと去っていった。


「いいぞいいぞお‼ そんな君が欲しかったんだぁ‼」


 遊具に叩きつけられ、フラフラと体を起こす響子たちなど眼中になく、リンカーは再びリウラの後を追う。


「……大丈夫か」

「……先生も」


 聖也も、響子も、殴られた箇所から心力(スヴォシア)が溢れ出していた。現実世界なら二人とも出血多量で死んでいる。


「……ファルモーニ」

「ヘマしてごめん‼ だけどしょうがないじゃない⁉ 私はリウラに殺されたのよ⁉ 怖くて動けなくなってもしょうがないじゃない‼」


 響子がファルモーニにフラフラと歩み寄ると、怯えたように、そして自分に言い訳をするような声で、大声で泣きながら、ファルモーニは一人で叫ぶ。


「……ファルモーニのせいじゃないよ。……僕が、間違えたんだ」

「聖也……」

「リウラが欲している言葉に逃げようとしたんだ。何が正解か、何が正しいのか、わからなかった。でも、僕は……あのどす黒い雷のオーラを見た時に……」


 聖也は苦い顔をし、俯きながら、弱弱しく漏らした。


「……思ってしまった。リウラが破壊神なんじゃないかって」


 あの時、自分がそうじゃないと信じていれば、リウラは暴走することはなかったかもしれない。

 そんな後悔が立つ一方で、あの時自分が何を信じれば良かったのかわからない。


「先生……信じるって、何を信じたら良かったんですか……?」


 声が歪んで、最後の方はしっかりとした言葉にすることはできなかった。

 俯きながら嗚咽を漏らす聖也を見て、ファルモーニも気まずそうに目を逸らした。


「……ごめんな、聖也。先生が悪かった」


 聖也の震える肩に、響子がポンと手を置いた。


「こんな時にも、必要以上にお前自身に考えさせようとしてしまった。正解のない問題に、お前に正解を出させようとしてしまった」


 遠くで破壊の音が聞こえる。きっと今リウラが暴れているのだろう。

 リンカーもそんなリウラの支配に動いたため、一刻も早く動き出さなければいけない状況だ。

 だが、響子はゆったりとした動作で。聖也の前に腰を下ろした。

 響子が優しく微笑むと、聖也は涙でぬれた顔を上げて、しゃっくりを上げながら、響子に向かい直った。


「今度は先生も手伝う。だから聞かせてくれ。お前が知ってる、リウラの事を」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ