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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME5 魂音の精霊と復活の破壊神
73/95

顔合わせ


 翌日、響子はスキャナーを鞄に入れて、学校に出勤する。

 ファルモーニの指示通り、今日は豪にスキャナーを見せて、デスゲームで協力してもらえるよう、お願いをする予定だ。


(つっても、この女の言うことが真実である保証はないんだよなー)


 いきなり玩具見せられて、デスゲームだ何だの言いだす教師を見て、豪という生徒がどんな反応をするのだろうか。

 あの……いい年こいて恥ずかしくないんすか。と、冷めた目で見つめてくる豪の姿が鮮明に浮かんでくる。


 そんな想像に気を重くしながらも、響子は昼休みに、鞄の中にスキャナーを隠しながら、豪がいるであろう屋上へ向かった。


「あれ、先生。どうしたんです?」


 どうやら聖也や結も一緒らしい。皆で何やら話をしながら、弁当をつついている。最近仲が良いようで何よりだ。

 ゲームに詳しい聖也もいるなら、一か八か、聖也にも訊ねてみるのもありかもしれない。


「いや、ちょっと聞きたいことがあってな」

「先生から珍しい。なんすか? 聞きたいことって」

「豪、お前がこの前持ってきていた玩具についてなんだが」

「「「…………」」」


 響子が話題を振ると、何故か聖也と結も咀嚼を止め、全員気まずそうにして黙りこくった。

 一方で響子も、話の内容が内容なので、どう切り出して良いものか困っている。


 いやー、聞きたくねー。痛い大人だって思われるのやだなー。


 しかし聞かなかったら聞かなかったで、後でファルモーニに煩く文句を言われて鬱陶しい。

 響子は諦めたように大きく息を吐き、鞄の中からスキャナーを取り出した。


「この玩具について何か知って――」

「「「ブーーーーーーーーーーー?!」」」

「って、何だ皆して?! きったねえな⁈」


 スキャナーを目にした瞬間、それぞれが口にしていたお茶や弁当を、衝撃のあまり吹き出した。

 聖也たちはむせ返りながらも、息を整えながら、響子に食ってかかった。


「ななな、何で先生がそれ持ってるんですか⁈」

「知らねえよ! 勝手に送られてきたんだから! 第一何で聖也たちまで驚いてってブホッ――⁈」


 響子の説明に割って入る形で、聖也たちがスキャナーを取り出すと、今度は響子がむせ返った。

 いや、3人共ってなんだよ。3人って。


 せき込む響子をよそに、3人がスキャナーを持っているのを見て、響子のスキャナーから、ファルモーニが実体化する。


「何よ~大当たりじゃない! まさか3人共プレイヤーだなんて!」

「え⁈ 【魂音(こおん)の精霊 ファルモーニ】⁈」


 突如姿を現したファルモーニに、聖也が反応した。


「お、君~、私のこと知ってるの? あらやだ、私ったらいつのまにやら有名人~?」

「聖也、何だこのいろいろと恥ずかしいチャンネーは」

「カウント7の支援役だよ。不思議な力が乗った音や歌声で、味方を強化するのが得意な契約戦士(チャンピオン)

「いろいろ恥ずかしいって何よ⁈ ご挨拶ねクソガキ!」


 恥ずかしいって、服だよ服。

 右肩部分の露出度の高さを豪が指摘すると、ファルモーニは怒ってぷうっと頬を膨らます。


「先生もプレイヤーってことですよね?」

「うんまあ、そのプレイヤーってのが何なのかは知らないけど、そうらしい」


 結の質問に、響子が頷く。


「もしかして先生、次の戦いが初参戦なんじゃ……」

「ん、まあそうらしいな」


 闘いの深刻さを理解していないのか、曖昧な返事の多い響子の様子で、全員が納得した。


「……先生、信じられないかもしれないけど、ゲームオーバーになると、本当に存在が消えるんです。……覚えてないかもしれないけど、僕のクラスメイトも一人、消えてる……」

「……まじか」


 聖也が辛そうに言葉を萎めると、ようやく響子もデスゲームことを信じ始めた。


「先生さえよければ、協力しませんか? 私たち、消えちゃった人を蘇らせるために、協力してくれるプレイヤーを探してるんです」

「そうこなくっちゃ! 私の世界を蘇らせられるなら、誰と協力してもオッケーよ! 皆で協力して、勝ち残りを目指しましょ!」


 結の提案をファルモーニが勝手に取りまとめ、予想外の形で新たな協力者を得ることになった。

 正直、驚きはしたものの、先生が傍にいてくれるのは、精神的にありがたい。

 互いに見知った人間が仲間になったことで、驚きの余韻が抜けないままながら、聖也たちは全員顔を見合わせて安心した表情を浮かべた。


「あと二人、協力してくれるプレイヤーがいるんです。あとで紹介しますね」

「せんせー。そいつらも含めたライングループに誘っていいすか?」

「ホントはダメだが、仕方ないな」

「ねえ豪くん、君たちの仲間の契約戦士(チャンピオン)たちって、どんなのがいるの?」

「知ってるかは知らねえが、ラクナっていう蜘蛛女と、アーサーっていう2足歩行のドラゴン」

「へえ! 大御所揃い! 他には他には?!」


 ラクナとアーサーの名を聞いて、テンションを上げるファルモーニ。どうやら二人は向こうの世界では名が知れているようだ。

 出てきていいぞ、と豪が合図すると、ゼロムが実体化する。


「あとはゼロムっていう、俺の契約戦士(チャンピオン)

「……ようハミチチ」

「失礼なあだ名付けないでもらえます~? 強いの? この子」

「こう見えてもカウント10。近接は最強クラスだ」

「それにとっておきの契約戦士(チャンピオン)がいるの! ねえ聖也」

「あ、うん、まあそうだね」


 まだ完全に体が復活していないリウラを、トリとして紹介するのはいかがなものか。

 若干複雑な心境になりながらも、聖也は自分のスキャナーを取り出した。


「おいで、リウラ」

「うむ、この度は仲間になってくれたこと感謝するぞ、ファルモーニとやら」


 リウラが実体化し、ファルモーニに向かって頭を下げた。

 

「……聖也、このバケモノがお前の相棒か?」


 足先と手の先以外を完全に失った状態で動いている生首(リウラ)を見て、響子がドン引きする。

 まあ、そりゃそういう顔になるよね。

 響子の心中を察した聖也が、力なく頷いた。


「リウラは記憶を失っていて、記憶が戻れば体も元通りになるんです。……それまではこういう状態らしいんですけど」

「……見れば見るほど、何でこの状態で生きてられるのか分からんな」

「実際問題何とかなっているから、良いのではないか?」

「……当の本人がこんな感じなので、気にしたら負けです」


 深刻さを微塵も感じさせないリウラの声色に、響子も思考を放棄した。これ考えるだけ無駄なやつだ。


「ねえファルモーニ。リウラについて知ってることない? もしあればリウラ復活の手助けをしてほしいんだけど――」


 こんな見てくれだが、今のリウラはスキルを二つも取り戻している。

 もしファルモーニがリウラの記憶を持っているとしたら、リウラ復活にかなり近づくだろう。

 そう考えた聖也が、ファルモーニに尋ねるが――


「リ、ウラ……?」


 先ほどまでの明るい表情から一変。ファルモーニは顔を固まらせ、顔面蒼白といった様子で、言葉を詰まらせていた。


「ん……んーと、ごめん! 何も知らないかな?」

「……そうか」


 ふと我に返ったファルモーニが、おどけた様子で笑いながら手を合わせる。

 

 いや、今の何か知ってる間だったろ。


 全員がそれを察するが、直前のファルモーニの怯えた表情から、それを口にすることはできなかった。


 おそらくファルモーニは知っている。リウラについて、良くないことを。


 重い空気が流れたところで、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いた。


「先生、グループのIDだけ後で送るんで」

「ああ、わかった」


 今から掃除の時間なので、リウラたち契約戦士(チャンピオン)は実体化を解き、スキャナーの中のカードに意識を戻す。

 それぞれがカバンにスキャナーをしまい、屋上を後にした。


「……ねえきょーこ」

「何だ?」


 そして、職員室に向かう途中で、ファルモーニがカバンの中から響子に語り掛ける。


「やっぱ協力の話、なかったことにして」

「はあ? いきなり何言いだすんだ?」

「お願い。あのグループじゃなくて、他の人を探して。……じゃないと――」


 もう一回世界が滅ぶ。


 物騒ながらも、要領を得ないファルモーニの回答に、響子は首をかしげる。


「……? どういう意味だ?」

「これ以上は話せない。あと、聖也って子の耳にも絶対入れないで」


 一方的に言い残し、その後ファルモーニは、帰宅するまで言葉を発しなくなってしまった。

 急に怯えたように声を震わせるファルモーニを、響子は心配しながらも訝しく思いながら、次の授業の準備を始めた。


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