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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME5 魂音の精霊と復活の破壊神
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【魂音(こおん)の精霊 ファルモーニ】

「……」

「ああ良かった、お目覚めのようですね」


 響子が目を覚ますと、目に映ったのは白い天井だった。

 ナース服を着た女性と、自分の腕に刺さっている点滴で、ここが病院なのだと理解する。


 どうやらあのまま気絶して、そのまま病院に搬送されてしまったようだ。


「意識の方ははっきりされてますか?」

「……ええ、大丈夫です」

「生徒さんたちが心配されてましたよ。あそこにあるのはお見舞いです。生徒さんに好かれているのですね」


 看護師が示した台の上には、小さな色紙に記されたメッセージと共に、様々なお見舞いの品が置かれていた。

 金持ち学校の生徒というだけあって、響子がめったに食べないような高級果物や、栄養食品が添えられていた。

 ビタミンが多量に含まれた、お腹に優しいゼリー飲料は聖也あたりのお見舞いの品だろうか。……ちょっと待て、誰だ。睡眠不足の私に眠眠打破を差し入れるやつは。


 一緒に添えられたメッセージから、結のものだと理解すると、響子は苦笑しながらも、その場を立ち上がる。


 その後、医者の元へ案内されて、いくつかの健康診断を受けた響子は、幾らかの栄養剤と睡眠導入剤を処方され、帰路に就いた。

 学校からは明日まで安静を取っていいように言われたが、一刻でも早く、皆に元気な姿を見せて安心させてやりたいと、色紙のメッセージをみて思った。


 病院帰りとは思えないほど、お見舞いの品も含めた山盛りの夕食を食べて、家事を済ませた後、就寝の準備をする。


「……睡眠薬なんて飲んだことないんだよな」


 弱めの睡眠導入剤とは言っていたが、万が一にでも寝過ごしては困る。

 使っていない目覚ましを引っ張り出し、ついでにノートパソコンのアラーム機能までオンにする。スマホのアラームと合わせて、目覚まし三台体制だ。


「……」


 あとは、この謎の端末機器をどうするか。

 塩でも盛ってみるか? 線香でも立てるか? 休みの日に神社にお祓いでもお願いするか? 


 そんなことを考えている間に、睡眠薬の効果が表れ始めたのか、響子を眠気が襲ってくる。


 まあ、何しても無駄みたいだし。このままでいいか。


 響子は床にスキャナーを放ると、目覚ましを傍に寄せてから、消灯して眠りについた。

 明日からまた、頑張ろう。

 生徒たちのお見舞いの品とメッセージのおかげで、心身ともにだいぶ回復した。(眠眠打破は別の機会で飲むことにする)

 久しぶりに、心地よく眠りに入れそうだ。


 1LDKの部屋に、響子の気持ちよさそうな寝息が聞こえ始めた頃――


『……』


 床に抛られたスキャナーがひとりでに動き出し、じりじりと響子のベッドへと這いよると、飛び上がって響子の腕に、勝手に装着された。


『……』


 そして出現した魔方陣から、1人の契約戦士(チャンピオン)が顔を出すと、響子の腕に装着されたスキャナーの、ログインのコマンドを押す。

 そして、寝室から響子たちの姿が消え、【召喚都市・昼】のフィールドに転送された。







「――こ。きょーこ。ヘイ、マイマスタ~。起きてくださーい。朝ですよ~」






 突然硬くなった寝床や、自分の体を揺さぶってくる感覚に、妙な不快感を覚えながらも、響子は腕を振り払って、再び寝息を立て始める。

 体内時計的に午前6時。あと30分は寝ていられるはずだ。

 一秒でも長くの時間を、体力の回復に努めたい響子の様子に、それを傍で見ていた人型の契約戦士(チャンピオン)は、困ったように腕を組むと、「そうだ! お目覚めに1曲歌ってあげる!」といって、何処からともなくギターを顕現させた。

 ギターから延びる光のコードを、地肌に描かれた胸部の魔方陣に差し込むと、謎の契約戦士(チャンピオン)は、試しに弦を掻き鳴らし、音の調子を整える。


「目覚めの一曲は何がいい? ポップス? バラード? それともヘ・ビ・メ・タ?」

「ううん……ジャズソング」

「おっけーヘビメタね」


 響子の意見をガン無視し、謎の契約戦士(チャンピオン)は大きく息を吸い込むと――


「――Hey、乗ってけ野郎どもおおおお‼」

「……………………、っ――――――――⁈」


 突然鳴り響いた轟音と共に、まるで拡声器でも使っているかのような、大きな声が、響子の耳を裂きかけた。


 慌てて耳を塞いで飛び起きる響子の目に飛び込んできたのは、目を瞑って自分の世界に浸りながら、ギターをかき鳴らす女の姿だ。


「陰鬱な目覚めを引き裂いて轟音(サウンド)! 見えない今日をまた照らしてよ朝日(ブライト)! いつまで寝てんだ目覚めろ(きょーこ)、さあ顔を洗って立ち上がる時だって――ぐっはああああああああああああああああああああ⁈」


 どこから出しているかわからないような重低音の声色で歌う女を、響子は取り敢えず殴って黙らせた。

 顔を真正面から殴られた女は、ギターを抱えながら、2,3回地面をバウンドして壁に叩きつけられる。


「ねえ酷くない⁈ 最初の挨拶が顔面パンチだなんてあんまりじゃない⁈」

「朝から何クソうるせえ音出してんだテメエ⁉ つーかテメエ誰だよ‼ 勝手に人ん()入って、ただで済むと思ってんじゃ……って、ここどこだ?」


 涙目で顔を抑える女にキレながらも、響子は異変に気が付き、困惑した様子であたりを見まわした。

 先ほどまで自分の部屋にいたはずなのに、何故か周囲には、どこかの商店街のような景色が広がっていて、その通路の中心に、自分は佇んでいた。


「言っとくけど、夢じゃないからね」


 自分の中に真っ先に浮かんだ推察を先回りされ、響子は改めて女の方へと振り返る。


「てめえ誰だ」

「いやいや、そんな睨まないでよ! 私怪しいものじゃありませんってば!」

「……いや、十分怪しいだろ」


 響子は鋭い目で、謎の女を睨みながらも、その女の容姿を観察する。


 腰まで伸びたライムグリーンの髪とと、金色の瞳が特徴的な、色白の女性。身長は響子と同じくらい。全体的に細身ながらも、スラっとした高身長。

 少女と女性、の中間に位置するような、幼さを残しながらも、大人の魅力を宿した整った顔立ちは、男が見れば思わず感嘆の声を漏らしてしまうほどのものであろう。


 ここまでは西洋ファンタジーに登場するような、ただの美少女なのだが、響子がやべえな、と思ったのは、その女の服装だ。


 白いシャツの右肩部分が、袈裟懸けに切り取られていたような服を着ていて、その部分から、色白の肩が大胆に露出している。というか乳の3分の1くらいが見えている。もう少し深く切り取れば、見えてはいけない部分が見えてしまうだろう。

 そして、その胸部に描かれた、音符のような記号で描かれた魔方陣。響子からすれば、乳を露出させながら、刺青を見せびらかしてくる、破廉恥な不審者そのものだ。学校で見かけたら速攻でお引き取りお願い申し上げる露出狂。


 唾の深い羽根つきの帽子や、黒タイツの上から履いた、フリルの可愛らしいチェック柄のミニスカートや、厚底の革製ブーツは、アイドルと吟遊詩人の服装を足して割ったような出で立ちだ。


 まあ要するに、響子からすれば、可愛いだけの、乳露出狂のコスプレ女だ。


「私あなたの契約戦士(チャンピオン)! 【魂音(こおん)の精霊 ファルモーニ】! ファルモーニちゃん、って呼んでいいよ?」

「お休み」

「ねえ、何で寝るの⁈ 夢じゃないんだって!」


 ファルモーニと名乗る女を無視して、響子は再び眠りにつこうと、地面にうつ伏せに寝転がった。


「わかったから! いったん夢でいいから! お願いだから話を聞いてーーーー‼」


 自分の体を強く揺さぶりながら、涙声で大声を上げるファルモーニに根負けし、響子は本当にダルそうに、渋々と起き上がって、ファルモーニの話に耳を傾けるのだった。


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