表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME4 最悪の魔人とゼロスキルの戦士
66/95

閉幕 ~いつか自分だけの道へ~

「お疲れさまでした、皆さん。ギリギリでしたね」

「ほんっと! あんたら、冷や冷やさせるんじゃないわよ!」


 ジークを倒して暫くしてから、皆の元へ、紬とラクナが合流してきた。


「……体の一部を取り戻したようですね」


 右手の戻ったリウラを見下ろし、ラクナがやれやれと小さく首を振る。

 戻ったのは右手の一部だけ。くっつくというよりは、足と同じように、首元から溢れる心力(スヴォシア)付近に引き寄せられているような感じだ。可動域は小さいが、物を掴んだり、【見えざる手(アトラクト)】のモーションを取るなどの、最低限の動きはできる。


「うむ、これで完全体まで、あと一歩と言ったところだな!」

「どこがだ。パーツがリアルになっただけの一頭身(カービィ)じゃねえか」

「まあまあ、進歩は進歩だし」


 自身気に胸を張るリウラに、豪が冷めた様子で突っ込んだ。それに結が優しくフォローを重ねる。


 聖也は自分のスキャナーを確認し、ログアウトまでのライフノルマを確認する。

 ライフノルマは残り『1』。いつもに比べて減りが遅い。ジークの依頼主たちが徒党を組んでいる説が正しいとしたら、戦闘が発生しにくいのだろう。

 【無限機械兵(ムゲンマキナ)】を持つラクナがいるとはいえ、ジークとの戦闘後に、数で攻められるのも面倒だ。

 索敵用の機械兵をラクナがビル周辺に待機させながら、皆でログアウトまでの時を待つ。


「ねえラクナ。ゼロムが何で覚醒できたかわかる?」


 聖也がラクナに尋ねると、ラクナは周囲を警戒しながら答える。


「……断定はできませんが、皆でゼロムを特訓したことにより、ゼロムの中に、眠っている力が溜まったのが原因かと」

「どういうこと?」

「今のゼロムの体には、何度も練習した、リウラのスキルの記憶が刻まれています。目覚めたばかりのゼロムは、どのような戦士に育つか、何の可能性も宿っていなかった。しかし特訓によって、どんな戦士に目覚めるか。その方向性が決まったことによって、【覚醒(サバイブ)】のカードが効力を発揮することができたのではないかと」

「成長の方向性を、見つけられたということ?」

「そうですね。ゼロムという戦士が、無限の可能性を持つがゆえに、【覚醒(サバイブ)】をただ使用するだけでは、意味がなかったのかもしれませんね」

「なるほどな」


 特訓を通して、ゼロムは聖也やリウラの指導を受け、どんどんその強さを吸収することができた。

 だから【覚醒(サバイブ)】後の姿は、聖也の契約戦士(チャンピオン)であるリウラにそっくりになったのだろう。

 自分がどうなりたいか、明確な指標を持つことができたから進化できた。


 よかったな、と思う一方で、まだ自分がそういうビジョンを持っていないことに、胸が痛くなる。


 少しだけ気落ちした豪の様子を見て、あえて目を合わさずに、ラクナが語り掛けた。


「……しかし、ゼロムの覚醒には、あなたの功績も大きいと思いますよ。獅子里豪」

「……え?」


 意外な人物からの誉め言葉に、豪が驚いた様子でラクナに顔を向けた。


心力(スヴォシア)は意志の力。どんな力にもなれるからこそ、最後にゼロムの覚醒を形作ったのは、ゼロムの覚醒を願うあなたの意志。あなたのゼロムへの思いが籠った心力(スヴォシア)がなければ、ゼロムの覚醒はなかったでしょう」

「……っは。あんた、根性論嫌いじゃなかったっけ?」

「……みっともなく泣きべそを掻きながら、カードをスキャンした甲斐がありましたね」


 珍しく人を褒めるラクナをからかうと、豪が思わぬ形でカウンターを喰らい、顔を赤くした。

 そんなやり取りを見て、皆が穏やかに笑った。


「後になって、リウラのパーツが出現したのは?」


 聖也の疑問にはアーサーが返す。


「ゼロムの覚醒で、リウラに渡されたゼロムの心力(スヴォシア)も目覚めたんだろ。ゼロムの覚醒に連鎖した形になるな」

「じゃあ、今日のMVPはゼロムと豪君ね」


 那由多がそう纏めると、ゼロムは自慢げにその場でふんぞり返る。

 素直に褒められることになれていないのか、豪はゼロムに苦笑しながらも気恥ずかしそうに目を逸らした。


「あ、ログアウトできるようになった」


 謎の徒党については気になるが、これ以上戦場に長居するのは危険だろう。

 全員生き残った喜びを分かち合う様に、その場で頷きあってから、ログアウトのコマンドを押す。


 現実世界へ帰還した一同は、帰った後に泥のように眠ったそうだ。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


「うっへー、軸ブレブレ」


 翌日、学校近くの公園で、聖也の撮った動画を、豪がスマホで眺めた。

 撮ったのは、豪の左足でのリフティングの映像。

 その動画を眺めながら、豪が苦虫を嚙み潰したような顔になる。


「利き足じゃないほうのボールキープ力が甘いんだよ。初歩的なリフティングでも、結構ミートスポットがずれてるだろ?」

「お前もしかして、運動交流会のとき、これに気が付いて……」

「うん。左足メインでドリブルさせるようポジショニングしてさ。ボールが浮いたタイミングで外へ弾く。これで豪対策は完璧」

「うぜー。何でそんなもんすぐに見切れるんだよ」

「これでも元プロゲーマー。人の癖見抜くのは得意なんだよ」


 聖也がおどけた様子で自分の目を指差すと、豪は低く唸りながら、修正点を意識してリフティングを始める。


「……サッカー部は明日から復帰するの?」

「……おう」

「どうして戻る気になったの? お兄さん引き合いに出されて、結構嫌な思いしてたんじゃなかったっけ?」

「……それはそうだけど」


 リフティングをしながら、豪は少しだけ間をおいてから答えた。


「……俺サッカー好きだし」


 兄の道をなぞるのでは無く、あくまで自分の意志による選択。

 それならば、と聖也が満足したように、深く頷く。


「サッカー部顧問の先生に土下座した甲斐があったね」

「ちょ、おま?! 何でそれを知ってるんだ⁈」


 人の目の無いところで、こっそりと顧問と話をしたはず。

 誰にも知られたくないことを突き付けられ、動揺した豪がボールをこぼした。

 そんな様子を、聖也がクスクスと笑いながら、「ほら」と豪へボールを返す。


「サイコーにダサくて良いと思うけど」

「……ふん。お前なんかには縁のない光景だ」

「そんなことないよ」


 僕の物語の始まりは、それ以上にみっともない姿でのスタートだった。


 そう呟いた聖也に、豪は少しだけ目を丸くしてから、何事もなかったかのように、リフティングを再開する。


「なあ。ジークって奴倒すまで、協力してやるって話だったろ」

「ああ、そうだったね」

「……あれ、もうちょっと延長してやってもいいぜ」

「……期限は僕の方で決めていいよね?」

「勝手にしやがれ」


 相変わらず素直じゃないけど、大きく成長した豪の姿に、聖也は羨望の眼差しを送った。

 自分の弱さに正直になった。人のことを心では認めるようになった。

 器用じゃないかもしれないけど、負けず嫌いで、努力家の人間だ。

 そんな君だから、ゼロムの【覚醒】を強く願うことができたんだろうな。


 そんなことを考える一方で、豪も目の前で自分のリフティングを観察する、自分よりも凄いと思う人間を、時折ボールから目を離して見やった。


 今はダサい俺でいい。

 今はお前の金魚の糞でいてやるよ。

 今は焦らなくていい。お前が走って通った道を、歩くような速さで付いて行って――


 いつか自分だけの道へ、歩みを進める。


 その意思があれば、自分の弱さや、誰かの後を追った経験も、いつか必ず意味を持つ。




 夕暮れに染まりつつある空の下。

 二人だけの公園に、少しずつリズムを安定させながら、子気味良いサッカーボールの音が響き渡っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ