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サモナーズロード ~召喚士の王~  作者: 糸音
GAME4 最悪の魔人とゼロスキルの戦士
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ゼロム・サバイブ

「見てくれは立派になったが、ダメージを与えられなきゃあ、始まらないよなあ⁉」


 迫りくるゼロムに向かって、拳を振るうジーク。

 その強力な一撃を、ゼロムは華麗な身のこなしで、宙に舞って回避する。


「おらよ!」


 空中で身動きが取れないであろう、ゼロムに向かって、ジークがもう一度と攻撃を仕掛ける。

 ジークの拳がゼロムに触れる寸前、ゼロムが突然と姿を消した。


「【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】」


 空中で【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】を発動し、ジークの虚を突き懐へ潜る。

 そしてその無防備な胴体に向かって、ゼロムは白く輝く薙刀を振るった。

 そんな状況でも、ジークは余裕の笑みを崩さない。

 何せ、自分の防御力を越えられなければ、どんなに素早い動きで攻撃されようが、意味をなさないからだ。

 そして、ゼロムの刃が、ジークを纏う宝石の鎧に触れた時――


「――⁈ いってえええええええええ⁈」


 刃がまるで透過したように、鎧を切り裂き、袈裟懸けに斬られたジークの胴体から、大量の心力(スヴォシア)が溢れ出した。


「「「「え⁈」」」」


 その光景に驚いたのはジークだけではなく、聖也たちもだった。


 傷口はすぐに、鎧の再生によって塞がってしまったが、ジークにダメージが入ったのは事実。

 豪は慌てて、スキャナーを操作し、ゼロムのスキル情報を確認する。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

次元跳躍(ディメンジョンリープ)】…… 足に溜めているエネルギーを消費して一定距離感を瞬間移動する。3連続で使用可能。30秒ごとに3回分のエネルギーが溜まる。

見えざる手(アトラクト)】…… 右手から発する念力で選んだ対象を手元に引き寄せる。

【ゼロブレイド】…… 如何なる装甲や防御魔法を無視する光の刃を発生させる。このスキルは常に発動させた状態を保つことができる。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


「新しいスキル……!」


 驚きの声を上げる豪の元へ駆け寄り、聖也もその内容に驚愕する。

 既に習得していた【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】と【見えざる手(アトラクト)】。その中でも【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】が、完全体のリウラと同じレベルまで強化されている。

 加え、新たに顕現したスキル【ゼロブレイド】。

 如何なる装甲や防御魔法を無視するという、このスキルの性質は――


「リウラの【ゼロフレーム】に似てねえか⁈」


 アーサーの声に、聖也もうなずいた。


 戦いの前に、リウラは【ゼロフレーム】は習得しきれなかったと言っていたが、習得しきれなかっただけで、その根はしっかりと根付いていたわけだ。

【ゼロフレーム】のような広範囲を制圧する派手さはないが、どんな敵にも確実にダメージを通す、常時発動型のスキル【ゼロブレイド】。


【ゼロフレーム】から派生した、ゼロムだけのオリジナル。


「最高だ、ゼロム!」


【ゼロフレーム】の威力と範囲を失った代わりに、溜めが必要ないという【ゼロブレイド】だけの利点がある。


 圧倒的硬さを誇る、ジークの鎧の防御力を無意味(ゼロ)にする光の刃。


 リウラの明るい声につられて、全員の顔に希望が灯る。


「なんだそのスキルはぁ‼」


 初めてダメージを負ったジークが、怒り狂いながら殴りかかってきた。

 だが、怒りに任せた攻撃では、動きが素早い上に、【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】を持つゼロムは捉えられない。


 ゼロムの薙ぎを、ジークは大きく身を引いて躱そうとするが――


「【見えざる手(アトラクト)】」

「――⁈」


 ゼロムが人差し指と中指を揃え、クイッと何かを引っ張る動作をすると、ジークの体がゼロムの方へ引き寄せられた。

 刃の通り道に、無理やり引き寄せられたジークの体を、再び【ゼロブレイド】の刃が切り裂いた。


「グアアアアッ⁉ ……お前……! それ、止めろ……!」


 戦えてる。

 ダメージが通るようになったことで、今まで無意味になっていた、近距離用のスキルたちが息を吹き返す。


「豪、あいつの残りのスキル教えてくれ!」

「わかった!」


 ジークの意識がゼロムに向いているうちに、豪は【魔鎧鉱人(アマダイト)】と【爆破鎧鉱石(ガイナマイト)】のスキルについて、手短に説明した。


「……豪、ここを任せていいかな?」

「え?」

「ちょっとやることができたんだ。今の君なら大丈夫」


 聖也は豪の背中を一度だけ叩いて、真っすぐと豪に向かって頷いた。

 その眼差しを見て、豪も真っすぐと聖也に頷き返した。


「多分だけど、戦況が膠着する時がくる。【通話(コンタクト)】のカード持ってたろ。その時が来たら僕に連絡を頂戴」

「……了解」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


【魔法・通話(コンタクト)】…… 一定範囲のプレイヤーを指定して、通話ができる。……UCR


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


 その時、が何を指すのかはわからないが、聖也の言うことだ。その時が来ればわかるのだろう。


「あと、多分【魔鎧鉱人(アマダイト)】は、完全無敵になるスキルじゃない」

「え?」

「豪ならわかるはず。僕はもう行くね」


 そう言い残して、聖也はリウラと共に、【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】で何処かへ去ってしまった。

 完全無敵じゃないって、どういう意味だ。

 思考を巡らしながらも、豪はアーサーに肩を貸し、その体を無理やり起こす。


「立てるか?」

「……立ってるだけなら」

「それだけでいい。俺たちを守るふりして、俺の体を隠してくれないか」


 とにかく、聖也が何か考えてることには違いない。今自分がすべきことは、その企みを悟らせないこと。

 アーサーが那由多たちの前で盾を構える後ろで、豪はカードの使用がジークに見えないよう、不自然に思われない程度に姿を隠した。


「これならどうだ⁈」


 ゼロムの【ゼロブレイド】を嫌ったジークが、【隔娄界門(ヘルゲイト)】をゼロムの進行上に発生させ、武器奪いを試み始める。

 そして、ゼロムがその渦を潜ってしまい――


「……!」


 ジークの手元に発生した、もう一方の【隔娄界門(ヘルゲイト)】から、ゼロムの武器が吐き出された。

 脅威を取り除けたと思ったジークが、ようやく安堵の笑みを浮かべるが――


「甘い」


 ジークの手に薙刀が渡る寸前、ゼロムが【見えざる手(アトラクト)】で武器を手元に引き寄せる。


「グアアアアアア?!」


 そして武器を奪ったと油断したジークに斬撃を浴びせ、再びジークの体から心力(スヴォシア)が溢れ出した。


「上手い!」


 武器を奪ったという、敵の心理を利用した一連のプレー。

 ゼロムの攻勢に結たちが沸き立つ中、豪は一人冷静に、今の場面に感じた違和感の正体を探っていた。


(あいつ今、なんであんな甘えた位置に【隔娄界門(ヘルゲイト)】を出した?)


 そもそも、武器を奪うなら、武器の吐きだし先を、【見えざる手(アトラクト)】で奪われないよう、もっと遠くの位置に設定すれば、攻撃を喰らう場面じゃなかったはずだ。

 もちろん、突然のゼロムの覚醒に、【見えざる手(アトラクト)】という選択が抜け落ちていたのもあるだろうが、それを抜きにしても、狡猾なジークが、そんな甘えだけで攻撃を喰らうとは思えない。


(――! もしかしてあいつ!)


 遠くには、瞬間的に【隔娄界門(ヘルゲイト)】を発生させることはできないのか⁈


 狙撃銃(スナイパーライフル)で狙ってきたときは、いとも簡単に【隔娄界門(ヘルゲイト)】を発生させているように見えたが、よく考えれば、【隔娄界門(ヘルゲイト)】の発生までに、5~10秒ほどの間隔があった。

 連射のできない、 狙撃銃(スナイパーライフル)故の間隔だと思っていたが、【隔娄界門(ヘルゲイト)】発生に必要な時間でもあったのか?


 そもそも、安全圏から狙撃するだけの状況と違い、攻撃が通るようになり、素早いゼロムの攻撃を、ワープも警戒しながら捌かなければならない状況では、【隔娄界門(ヘルゲイト)】の調整に割ける意識も段違いに少ないだろう。


 ゼロムも【次元跳躍(ディメンジョンリープ)】をするための心力(スヴォシア)量の調整に苦労していたように、【隔娄界門(ヘルゲイト)】も、発生位置の調整が難しいスキルなら――


(あいつの意識を乱せれば、ゼロムがもっと戦いやすくなるかも……!)


 ジークの邪魔さえできれば、【隔娄界門(ヘルゲイト)】の精度を下げられるかもしれない。


 でも、どうやって意識を乱す?

 あいつに魔法は聞かないし、自分たちの持つ攻撃手段の中で、【魔鎧鉱人(アマダイト)】の鎧を貫けるものは存在しない。


 思考にふける豪の頭を、聖也の言葉が過った。




 ――多分【魔鎧鉱人(アマダイト)】は、完全無敵になるスキルじゃない。




 あの言葉はどういう意味だ? 聖也のことだから、何か思う部分があったんだろう。

 大丈夫だ。何かある。【魔鎧鉱人(アマダイト)】の情報を思い出せ。


 過去の記憶をたどっていく中、豪はジークが吐いた言葉を思い出した。


 ――【魔鎧鉱人(アマダイト)】の鎧は、どんな魔法攻撃も弾き返す! ちゃんと肉弾戦で戦ってくださいね~


 そうだ、なんでこんな簡単なことに気が付かなかったんだ。


「ナユポン! 【感電矢(スタンアロー)】だ!」

「え⁈ あいつには効かないんじゃ……!」

「目だ! 目を狙え! そこだけ鎧に覆われてない!」

「――⁈ チィッ!」


 魔法攻撃を鎧が弾くなら、鎧に覆われていない個所を狙えばいい。

 体のほとんどを鎧で覆われているジークだが、唯一鎧で包まれていない目に、那由多が【感電矢(スタンアロー)】のカードをスキャンして狙いを定める。


「撃ってみろやあ! 前みたいに【隔娄界門(ヘルゲイト)】でテメエの馬鹿面に跳ね返してやるよお‼」

「ぐ……!」


 過去の苦い体験が蘇り、矢を放てない那由多を、「撃たなくていい」と豪が落ち着かせる。


「お前、今までの様子から察するに、【隔娄界門(ヘルゲイト)】を2個以上作れないだろ? ゼロムの武器を奪うか、矢を反射するか、よ~く考えてもらおうか」

「この雑魚……‼」


 【隔娄界門(ヘルゲイト)】を2つ以上発生させられるなら、そもそも狙撃戦の段階で、ダミーのゲートを発生させ、発射口を絞らせないなどの工夫ができたはず。

 それをしてこなかったということは、【隔娄界門(ヘルゲイト)】は2つ以上生成できないということ。


 魔法による遠距離が有効になった以上、ジークもゼロムだけに意識を割くわけにはいかなくなった。

 那由多の遠距離攻撃を警戒しながら、ゼロムとの接近戦を捌かなければならない。那由多が弓で狙いを定めるだけで、鬱陶しいことこの上ないだろう。


 今まで散々馬鹿してきた豪に、戦いの主導権を握られていることに気が付き、ジークが屈辱的に表情を歪ませた。

 そして、その状況に耐えかねたジークが、


「ああああああああ! ウゼエウゼエウゼエ‼」


 近くにまとわり続けるゼロムを、【爆破鎧鉱石(ガイナマイト)】の爆風で追い払った。


「結局近くでしか攻撃できねえなら、【爆破鎧鉱石(ガイナマイト)】を攻略する方法はねえだろうが‼」


「ぐ……!」


 間一髪爆発を回避したゼロムが、悔しそうに唸る。

 ゼロムがジークから距離をとる一方で、ジークもゼロムを警戒して、その場で身動きが取れなくなってしまった。


 近距離になれば【爆破鎧鉱石(ガイナマイト)】の全方位カウンターをゼロムが喰らう一方で、ジークも瞬間移動を持つゼロムに対して、下手にアクションを起こすことができない。


 ゼロムが接近戦を仕掛けられない以上、【隔娄界門(ヘルゲイト)】で跳ね返される危険性のある遠距離攻撃を、那由多も仕掛けることができない。




 これか。聖也の言っていた膠着状態ってのは。




 両者が睨みを利かせている中、豪はアーサーの背に隠れ、【通話(コンタクト)】のカードを使って、辺りにいるプレイヤーを探索した。

 そして、今いるマンションの真横のビルで待機している、1人のプレイヤーを選択し、連絡を開始する。


『……困ってるね、豪』

「おうよ。絶賛膠着中」


 通話に応答した聖也の声に、豪が思わず笑みを浮かべた。


「打ち破る策はあるんだろうな? ヒーロー様」

『当然だ。弟子にだけかっこいいマネ、させられないよなあ、リウラ?』

『ああ。師として、素晴らしい弟子に模範を示さなければなるまい』


 これでチェックメイトと行こうじゃないか。


 自信たっぷりの聖也たちの声色に、豪はニヤリと笑うと、聖也から授かった作戦を、ゼロム耳打ちした。



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