今必要なのは
「なに? 結局あなたたち、また組んだわけ?」
「紬……」
ビッグフェイスが解けたのか、紬、ロイドたち一行が合流する。
「これでこっちの頭数も4。同数対決と行こうではないか」
「……体の数は足りてないけどね」
リウラの言葉に聖也が突っ込みを入れた。どうしてお前はそう、誇らしげなんだ。
アーサーが聖也たちの前に立ち、「根性あるじゃねえの」と、盾と槍を構える。
一瞬だけ聖也たちと目を合わせ、ニッと笑ってくれた。
「その首だけの木偶の坊仲間にしたところで、那由多に何のメリットがあるのよ」
「無粋だな。利益がないと仲間になれないのか?」
腹立たしげに睨む紬に、リウラがどこか得意げに返した。
「これは『絆』だ。利益を越えた究極の信頼関係だ。……まあ、己の欲で友を襲うような裏切り者にはわからんか」
「動けないくせして口だけはよく回る……‼」
リウラの返答に紬が舌打ちをして、スキャナーから必殺技カードを取り出した。
……もしかしてお前。紬さんの地雷踏まなかったか?
「あーあ、これだけは使いたくなかったんだけどなあ……だって」
紬が勢いよく必殺技カードをスキャンする。
「これ使うと、あんたたち殺す前に、ゲームが終わっちゃう可能性があるから‼」
『必殺技――』
紬のスキャナーからアナウンスが流れるとともに、ラクナの足元から、釘やネジ、鉄柱などの無数の鉄くずが溢れ出した。
そして鉄くずが人間の形に纏まり始め、無数の兵となって生成され続ける。
「ねえ、聖也君……これは」
「ああ、うん……」
まずい。まず過ぎる。
ラクナの能力は知らないけど、これが見た目通りの技なら最悪だ。
自分の手札や武器を上手に管理しながら勝ち残りを目指す、バトルロワイヤルのゲーム性を根本から否定する能力。
そしてこの能力は――聖也たちの戦力の要であるアーサーととんでもなく相性が悪い。
「さっき同数対決とかほざいていたけど、そんな生ぬるいことしてあげない。どんな時代でどんな戦場でも、数=強さだってことをその甘ったるい思考で腐った脳髄に刻み込んであげる」
秒間8……いや、10体か。
約10秒間ほどだ、只々愕然と眺めていただけなのに、ラクナたちの周囲には、既に100を超える、鉄くずの兵士たちが産み出されていた。
そして現在も猛スピードで、ラクナの足元から兵士が生成され続ける。
秒間10体。1分で600体。5分経てば3000体。
恐らく、無限に戦力を産み続けるのが、ラクナという契約戦士の必殺技。
「無限に兵士を産み続けるラクナの必殺技――【無限機械兵】‼」
「……始めましょうか。――4VS∞」
「取り敢えず逃げろみんなーーーーーーーーーーーー⁉」
その声よりも早く、聖也たち一同は全速力でその場から逃げ去った。
そしてその後を、無数の機械兵たちが、大きな波のようになって迫ってくる。
どんどん大きくなる、鉄くずが地面を踏み荒らす音を背後に、聖也たちはドーム球場から抜け出した。
「取り敢えず逃げろみんなーーーーーーーーーーーー⁉」
聖也たちが逃げ出すと同時、背後から無数の機械兵が雪崩のように迫ってくる。
スタジアムのゲートから再び外に出ると、その後を機械兵たちが追ってきた。
数が多すぎて狭いゲートを潜りきれずに、一部機械兵は入り口で押しつぶされたり、仲間を踏みつぶしたりしながら進軍を続けてくる。
だが、無限に生まれ続ける命。仲間の亡骸を無視して迫る機械兵たちを背に、聖也たちは走りながら、作戦会議を開始した。
「おいおいおいおい⁉ 聖也氏あれどうすんだよ⁈」
「取り敢えず今の僕たちがまともに相手しちゃだめだ‼」
「しかし聖也よ! このまま逃げ続けても敵が増え続けるだけだぞ!」
「知ってるよ! でも僕たちが敵を倒すスピードより敵の生産能力の方が遥か上! 一度捕まったらそのままリンチされてゲームオーバーだ‼」
そう。何が問題かといえば、聖也たちの攻撃力が敵の生産能力に追いついていないということ。
アーサーは真正面からの『殴り合い』なら最強クラス。だが、その代わり広範囲を制圧する火力や機動力に乏しい。槍の攻撃範囲に入ってくれないヴォルバーンのような相手や、ラクナのようなそもそも自分で戦おうとしない司令塔タイプの相手に対して、成す術がない。
人間の聖也や那由多が、走ってなんとか追いつかれない程度には、機械兵個々の能力は高くない。
だけど数がとにかく多すぎて、アーサーが処理をしようとした瞬間、聖也たち人間がボコられて終わる。
アーサーの必殺技も相手の『一撃』を無効化し、その威力を倍増して返す技。こちらも機械兵相手には全く使えない。
リウラの【ゼロフレーム】のような超範囲攻撃があればなんとかなるのだが、
「リウラ、【ゼロフレーム】は」
「打てん!」
当然、そんな手札はないわけだ。
「聖也氏、司令塔を叩けばこいつら止まらねえか⁈」
「それは僕も考えた! だけど……」
聖也はヴァルビーから送られてくるマップ情報を、視界の端で眺める。
「あいつらそれを警戒して、自分の周りに兵を残してる‼ 今狙いに行ったら挟み撃ちにされて終わりだ‼」
先程のスタジアムから一向に動こうとしない赤い点が4つ。
これは紬、ラクナ、ロイド、ヴォルバーンのものだろう。
そしてその周囲を分厚い黒い点の塊が埋め尽くし、黒い点は現在進行形で増え続けている。
恐らく黒い点は機械兵。
聖也たちが機械兵の壁を突破する手段がないのを予測して、兵を固めているあたり、向こうも徹底している。
「じゃあログアウトまで逃げ続けるしかないじゃない⁈」
「そうだよ! ふざけんなこのクソゲー‼」
物資を管理しながら戦うバトルロワイヤルで、無限召喚能力なんてバランスブレイカーもいい所だ。
そして、ただ機械兵が僕たちを追ってくるだけならやりようがあるのだが――
「最悪だ……」
聖也はマップ情報を見て更に絶望した。
後ろから迫りくる無数の黒い点とは別に、別の集団が先回りして、運動公園を取り囲み始めた。現在地から一番近い入り口は真っ先に封鎖されるだろう。
つまり、紬さんは機械兵を通して僕らの位置情報を把握できるし、機械兵の行動をある程度は操れることが判明した。
「逃げ場がない……」
このままだと、機械兵でマップごと埋め尽くされてゲームセット。向こうは機械兵を生産し続けるだけの簡単なお仕事だ。
聖也たちが死ぬまでにライフノルマが達成できれば、ログアウトができるが、現在のライフノルマは3。
これがこのまま0になる保証はどこにもない。
行き詰りつつある状況に、聖也が頭を抱えていると――
「クソっ! 聖也、リウラをちょっとかせ‼」
「え、アーサー⁈」
「リウラてめえ、何か思い出さねえのか⁉」
アーサーが聖也の腕からリウラを奪い取って、力強く頭突きをかました。
「ぐあっ⁉ いきなり何をするのだ⁉」
「うるせえ! 俺らが必死こいて逃げ回ってんのに、能天気に見物しやがって!」
「見物とは失敬だな! 動けないなりに、心の底からお前たちへ、応援の念を送っているのだぞ!」
リウラごめん。それは能天気に見物してるのと一緒だ。
必死に弁明するリウラに、呆れた視線を投げる。
「……今俺がゴタゴタ言っても力になれんだろう。作戦を考えるのは聖也の方が適任だ。ならば今は聖也たちを信じて応援するしか俺には――」
「てめえはそんな奴じゃなかっただろうが‼」
どうやら自分が力になれていない現状を、気にしてはいたらしい。
無力感からか、言い訳に走ってしまうリウラをアーサーが一喝した。
「いいか、俺はお前と仲良くもなんともねえ!」
「な⁈ マブなダチというのは」
「テメエと組むための嘘だ! どちらかっていうと嫌いだテメエなんか‼」
「酷いな貴様⁈」
「だがな――」
アーサーがリウラの頭を鷲掴みにしながら、正面からリウラに向かい直った。
「お前はポジティブで能天気なウザい奴だったが、仲間のピンチに黙ってるような奴じゃなかった。窮地には必ずお前が奇跡を起こしていた。言い訳なんかしてる暇があったら何が何でも奇跡を起こせ。この状況をひっくり返すのは那由多でも聖也でも俺でもねえ。今必要なのはお前の力なんだよ‼」
アーサーの真剣な眼差しに、リウラも一瞬目も丸めた後、真っすぐとアーサーを見つめ返した。リウラからすれば頬をはたかれたような気分だっただろう。
「――ぐっ⁉」
「リウラ⁈」
リウラが突然顔をしかめ、苦しそうに歯を食いしばる。
「大丈夫か⁈」
「――ああ、大丈夫だ。それより聖也、今から俺の指示通りに移動してくれないか」
「? いったいどうして?」
「詳しいことはよくわからんが……おそらく」
――まさか思い出したのか、記憶を。
聖也の胸がドクンと高鳴った。
「俺の体が、そこにある‼」




