戦う理由とリウラの召喚
「紬……紬もプレイヤーだったの?」
どうやらこの大人しそうな女子高生は、紬というらしい。
体に痺れが残っているのか、よろよろと立ち上がる紬の手には、高レアリティの弓が握られている。
恐らく那由多を狙っていた武器だろう。
「那由多‼ そっちにいったぞ‼」
背後から慌てた様子のアーサーの声。
振り向くとヴォルバーンに乗ったロイドが、聖也たちに向かって急速に接近してくる。
「……大丈夫かいプリンセス?」
そして、聖也たちと紬の間に割って入る。
「……やっぱり組んでいる人がいたんだ」
「……ご明察。プロゲーマーって戦術眼が鋭いのね。君がいなければさっきので終わってた」
「どうやってロイドさんを口説いた? そんなに時間はなかったはずだ」
「答えはシンプル。約束しただけよ。私の契約戦士で『絶対に勝たせてあげる』って」
ファミレスでの大人しそうな雰囲気から一転。
黒髪のボブカットの小柄な女子高生は、メガネの奥から冷徹な視線を、聖也に向かって投げてきた。
「……なんで。どういうこと。なんで紬がそいつに協力してるの?」
未だに状況を理解できていない――いや、現状を受け止められない那由多が、震える声で紬に尋ねる。
「……私があなたの友達だから」
「じゃあなんでよ‼ そいつ私のお父さんのカード狙って殺しに来るような奴なのよ! そんなやつとどうして⁈」
「だからよ‼」
吐き捨てるような紬の声に、那由多がビクッと体を揺らす。
「あなたがお父さんを復活させたら――私たち友達じゃなくなっちゃうんでしょ⁈」
「……ぇ?」
完全に言葉を失ってしまった那由多に、紬が続ける。
「大体2か月前――ゲームに巻き込まれる前までずっと独りぼっちだった私に、いきなり友達がたくさんできた。その原因を辿ってみれば……本来、私の学校に通っていなかったはずのあんたが、クラス全員を纏めて、私は那由多経由で皆と仲良くなったって話じゃない……」
アーサーがようやく合流してきた。
体を小さく震わせながら、目に絶望の色を浮かべる那由多を見て、「何があった?」と言いたげな視線を投げてきた。
「初めてだったのよ……同年代の子と話すのも、人の輪に受け入れられるのも。ずっと陰キャだった私が、本の中で憧れることしか出来なかった世界が生まれていた! でもそれは、那由多のお父さんが消えて生まれた世界で、那由多は自分のお父さんを蘇らせようとしてる!」
そこまで話をされて、ようやく聖也は気づいた。
あのとき自分たちの話を聞いていたのは紬だったということに。
だから那由多が誰に狙われているのかも、那由多の願いも、紬は全部知ってしまった。
そして、那由多のお父さんが消えて生まれた世界線で、自分が幸せを手に入れたことに気が付いてしまったというわけだ。
「偶然生まれたものだったとしても、今ある世界を失いたくないのよ! 私はこの戦いで勝ち残って、『あなたのお父さんがいない世界』を守る!」
紬がスキャナーから契約戦士カードを取り出してスキャンした。
「おいで! カウント10‼ 『機械人形技師 ラクナ』‼」
紬の背後に出現した魔方陣から召喚されたのは、近未来的なゴーグルで目元を隠した、雪のように真っ白な肌と髪を持つ女性型の契約戦士。
貴婦人が着るような麗しいフリルのついた白いコートの下に、同じく白いぴっちりとしたスーツを着こなしている。
シャツやビジネスパンツの上からしっかり確認できる体の曲線美は、貴族のような華やかさと共に、キャリアウーマンのような毅然とした雰囲気を醸し出している。
唯一人間でないと判断できる部位が、両肩から3本ずつ生えている細い腕。
その毅然としたたたずまいを見れば、神々しい阿修羅像のようにも感じるし、足を含めると両腕両足計8本の姿は妖艶な蜘蛛のようにも感じる。
「……また知らない契約戦士‼」
以前戦ったディードと同じく、サモナーズロードのことなら何でも知っているはずの、聖也が知らない契約戦士。
カウント10と宣言したこと、『絶対に勝てる』とロイドに言えることから、規格外の能力を持っていることは容易に想像できる。
「ちょっ、ラクナ氏はやべえって⁈」
ラクナと呼ばれた契約戦士から放たれる異様なオーラに、アーサーも危険を感じている。というより、ラクナを知っているようだ。
「聖也氏! リウラのカウントは⁈」
「溜まってる! けど……!」
「早く召喚しろ! リウラじゃないと対抗できねえ‼」
――頼む、戦える姿で出てきてくれ。
聖也はリウラのカードを手に取って、祈るようにカードをスキャンした。
すると、目の前に魔方陣が出現し、強大なエネルギーが魔方陣から放たれる。
「リウラ、ですって……⁈」
ラクナが警戒するように半歩後ろに下がった。ラクナもリウラの事を知っているらしい。
そしてエネルギーの放出が終わると……
「……すまない。頑張ってみたのだが駄目だったようだ」
魔方陣があった場所にリウラの生首が出現し、開口一番に謝罪の言葉を口にする。
……やっぱりダメか。
「「は……?」」
リウラの姿を見た那由多たちが、間抜けな声を出した。




