開戦
「私のメインデッキはこんな感じ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【剣:感電警棒】×3……カウント2。電撃を纏った特殊な警棒。殺傷能力は低い。……UCR
【魔法:感電矢】×7……カウント3。電撃を纏った矢を放つ。殺傷能力は低いが、当てた対象を痺れさせる。……R
【魔法:スコープ】×3……カウント1。両手の親指と人差し指で四角形を作ると、四角形内の景色が拡大して見える。手を広げると更にズームする。……CR
【魔法:簡易防御壁】×6……カウント3。目の前に薄いバリアを発生させる。防御力は並程度。……UCR
【変質:迷宮】×1……カウント10。発動位置を出口に、指定の建物を入り組んだ迷路にする。……LR
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「感電矢と簡易防御壁、汎用性高そうでいいなあ。スタンロッドも、普通の剣ほど僕たちの身体能力に依存しないし、使い勝手がよさそうだ」
「アーサーの火力不足を補えるカードがないのよ。相手の攻撃を耐えれても、返す手がないの」
「ヘイヘイ。どうせ俺は守りしか能がありませんよっと」
那由多のスキャナーから、アーサーの拗ねた言葉が響いた。
「聖也君のデッキも見せてもらえる?」
「……いいよ」
聖也は自分のスキャナーから改良したデッキを取り出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【剣・サビ】×4……カウント0。朽ちた剣。刀身は触ると崩れる。……N
【盾・ナベブタ】×3……カウント0。調理用。戦闘には不向き。……N
【砲・ウォーター】×5……カウント2。大型の水鉄砲。水があたると冷たい……N。
【煙・白煙】×4……カウント2。煙幕。視界を遮れるが攻撃力は皆無。……CR
【召喚・焔鳥ヴァルビー】×1……カウント3。伝説の怪鳥の幼体。マップ索敵能力が高い。戦闘能力はない。……R
【魔法:ビッグフェイス】×1……カウント3。指定した者の顔を、質量はそのままに巨大化させる。攻撃力はない。……C
【魔法:スコープ】×1……カウント1。両手の親指と人差し指で四角形を作ると、四角形内の景色が拡大して見える。手を広げると更にズームする。……C
【剣・巨人殺しの大剣】×1……カウント7。最高品質の素材で作られた巨大な剣。威力は高いが扱いが難しい最上級装備。……LR
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「勝つ気ある?」
「これでもだいぶマシになったんです……」
「そのでっかい剣召喚して、自滅した奴見たことあるぜ」
「絶対呼ばないでねそんなもの」
「はい……」
口々にデッキを非難され、聖也がシュンと肩を落とした。
その紙束が今の僕の精一杯なんです。
「そういえば狙ってくる相手ってどんな人かわかる?」
「ええ。この人」
スマホで開いたのは、とある半導体メーカーのホームページ。
那由多は役員紹介のコーナーから、一人の男性を指で示した。
「ロイド・クラフト。この会社の経営管理を担当している男よ」
栗色の顔の面長の外国人男性。年齢は33歳とあるが、端正な顔立ちのおかげか、あと5歳くらいは若く見える。
若くして重役を任されるということは、その経営手腕は確かなものなのだろう。
「あれ、ここってこんな小さい規模の会社だったっけ?」
同じホームページ内に記されていた、会社概要が目に留まり、聖也が思わず疑問の声を上げた。
聖也が以前所属していたプロチームの、ゲーミングPC部品を提供している会社だったので、会社を調べたことがあったのだが、その時よりも資本金や従業員数が大幅に減っている。
背景に映る本社の画像も、建物の規模が1周りほど小さくなっているようだ。
「うちのお父さん、この会社の技術開発リーダーだったの。お父さんが開発した最新技術がこの会社を世界有数のメーカーに成長させたんだけど」
「あ、お父さんがいない世界になったから」
「そう。今じゃ他の企業との技術競争に負けてしまって、会社買収の話もあるそうよ」
確かにそんな話をネットニュースか何かで見た気がする。
もとは世界有数の半導体メーカーだったのに、技術者一人の損失で、ここまで会社の経営が変わってしまうとは。
「ロイドが狙っているのは、私が持つお父さんのメモリーカード。メモリーカードで記憶をたどって、技術を盗んで会社を立て直そうとしているの」
「執拗に狙われるわけだ。相手の契約戦士はわかる?」
「ええ。大きな翼を持った、アーサーとは違うタイプの真紅のドラゴン。喉が大きく膨らんでいて、翼や口から溶岩みたいなブレスを吐いてくる」
相手の契約戦士はおそらく『溶岩竜 ヴォルバーン』。
カウント6。近~中距離戦闘を得意とする飛竜型の契約戦士。
4枚の翼に備わる噴射口から炎を吐いて自在に空を飛び、空中で一定の距離を保ちながら、ブレスや炎の鉤爪で攻撃してくる厄介な相手だ。
「相手の攻撃を耐えるだけならアーサーはできるんだけど、飛んでいる相手に攻撃する手段がないの。機動力が高すぎて感電矢も当てられない。だからリウラの力が必要なの」
リウラの力、と言われて聖也の心臓がどきんと跳ねた。
「いくら相手が速くてもリウラのワープだったら追いつけるでしょ? それにあの発動すれば勝ちの範囲攻撃! 作戦は私たちが聖也君を守るから、リウラのカウントが溜まったら――」
「な、那由多さん。そのことについてなんだけど」
那由多は明らかに、リウラの力を前提にした作戦を立てようとしている。
だから那由多には、事前にリウラの現状について話しておかなければいけない。
「実は今リウラは――」
話を遮るようにスキャナーから大きな鐘の音が響いた。
ゲーム開始3分前のスタート地点が選べるようになる合図だったか。
「「……」」
那由多と聖也は話を中断し、一瞬だけ顔を見合わせてから『上を見た』。
「誰だ⁉」
聖也と那由多さんのスキャナー、そしてもう一つ。同じ音が橋の上から響き渡っていた。
二人が急いで橋の下から駆けあがると、そこにはもう誰もいなかった。
同じ音がした。イコール、さっきまでここに聖也たち以外のプレイヤーが存在していたということだ。
「もう逃げた……?」
――いや、まだ近くにいる可能性がある。
那由多さんにはともかく、他のプレイヤーにまでリウラの現状について知られるわけにはいかない。
小声で話せば大丈夫か? 筆談とかならバレないか?
そんなことを考えているうちに――
「聖也君、スタート位置だけでも決めなくちゃ!」
那由多がスキャナーのマップを示した。
スタート地点を選ばなかった場合、ランダムな位置での開始になるらしい。同盟を組んでおいてバラバラになるのはまずい。
マップを見ると、まだ誰もスタート地点を決めるピンを立てていなかった。
どうやら皆ギリギリになってから選ぶようだ。
「何処にする?」
「人がなるべくいなそうなエリアってある?」
「だったら運動公園のエリア。市街地と比べて開けた場所が多いから意外と人気がないの」
他人が立てたピンは見えるので、ピンを立てるのはカウントダウン終了の直前。
結にスマホで自分のスタート地点だけ連絡しておいて、いざというとき【転移】で飛んでくるよう伝えておく。
「あと10秒」
9……8……7……6……とカウントが進んでいく中、5秒を過ぎたあたりから一斉にピンが立ち始めた。ピンの位置は駅前広場や市街地など隠れる場所が多いエリアに乱立し始める。
3秒を切ったところで、那由多さんと同時に運動公園内にあるテニスコートにピンを立てた。
カウントが0になると、視界が一瞬スパークし、気が付けば聖也と那由多は、指定したテニスコートの中に立っていた。
ドーム球場やサッカーコート、屋内プールなど、様々な設備が立ち並ぶ『運動公園エリア』。
以前戦った駅・商店街エリアに比べると開けた場所が多い印象だ。
「とりあえず隠れよう」
聖也は那由多の手を引いて、運動公園エリアを囲うようにして植えられている、茂みの中に連れ込んだ。
「那由多さん、話しておかなければいけないことがあるんだけど――」
ゲーム開始前に伝えられなかった話を切り出そうとした時、聖也は何者かに、背後から大きく蹴飛ばされ、大きく倒れこんでしまった。
「っが⁈」
「ぐあっ‼」
突然背後から現れた男に、那由多も頬を殴られ吹っ飛ばされる。
「ハローレディー。いきなりマッチするなんて運がいいね」
倒れる那由多にマウントを取り、首を絞めようとする栗色の外国人男性。
「ロイド……⁉」
因縁の相手といきなりマッチングしてのゲームスタート。
リウラの事を話す間もなく、最悪の形で戦いの幕が開けた。




