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闘技場 ラウンド2

開始の合図と共に、若獅子は剣を両手で握り

正眼に構え、ゆっくりと距離を詰めて来る


(ちっ…なんでえ、沸点が低い奴だから、突っ込んでくるかと思いきや…つまんねえな…)


俺は心の中で、悪態をつきながら、ゆっくりと右方向に

若獅子の回りを円を描く様に回ろうとするーーーがーー


「 セェアァァッ! 」


裂帛の気合と共に、若獅子が剣を凪ぐように、斬りつけて来る

半歩後ろに下がり、その剣を避ける

空気を裂く音を響かせながら、剣が唸りをあげ、腹部の辺りを過ぎてゆく


(こりゃ、凄えもんだ! しかし大振りすぎんぜっ!)


俺は、自分の得物の射程に、若獅子を捉えようと

間合いを詰める


「 かかりましたねっ! 」


若獅子が叫ぶと同時に、避けた剣が、唸りを上げて

腹部を凪ぐために、戻ってくる

先程より、鋭く、必殺の威力を秘めて


(初撃はフェイントかよ!誘いに乗らされたのはこっちか!ちぃっ!)


下がって、避けていては間に合わない

メイスを両手に握り変え、力一杯、唸りを上げる剣に叩きつける


『ガンッ!』


若獅子の剣が、闘技場用の刃を落とした剣だった事が、俺を救った

剣の軌道を、上から叩き付けたメイスで変える事に成功はしたが

剣戟の威力に、両手が痺れる


そして、俺は、わざとーーメイスを、地面に落とす


「なんて威力だ…くそっ!手が痺れちまった…」


俺の呟きに、若獅子は、口を歪め、笑う


「 弾いただけでも、称賛されますよっ!セェェアァ 」


今度は、剣を上段に振りかぶる、

若獅子は、これで決める気だ


(せっかちなやろうだな…こいつは、まだ開始してすぐじゃねえか)


上段から迫る剣戟を、大きく避ける回避行動に移ろうとして

やめた、若獅子はさっきも、連撃を繰り出してきた、

ならば、コレもフェイントで次が来るのだろう

その証拠に、上段からの斬り下ろしに

先程の二撃目程の勢いがない


(さっきの攻撃で、俺がフェイントを読めないと甘く見られたか)


半身になり、剣戟を避ける

まだ、若獅子の間合いで、避けた俺はメイスを拾おうとするーーフリをする

ちらりと、自分の左手首に嵌めた皮のリストバンドを見て


(さて、まだ早いんだが…こいつがこんなにせっかちなら、しょうがないか…)


左手首のリストバンドに仕込んでる悪役ヒールセットを使うかねえ…


「 貰いました! 決まりです! 」


振りおろした筈の、若獅子の剣は

切り返すされ、凄まじい勢いで、下段から斬りあげられる


斬り上げられる剣戟を半歩下がり避けようとするが

剣の軌道に、角を生やした兜の角が残るーーーわざとがだーーー


鈍い金属音を残し、俺の兜が弾け飛ぶ

俺も、後方に向けて仰向けに倒れ込むーーー

ーー左手首を、口元に来るようにしながらーー


勝負を決めたように見えた一撃に観客席が、轟音の唸りを上げて、湧きかえる


「 さすが若獅子っ!すげえ!一人で五人抜きするんじゃねえか?! 」

「 きゃあっ!さすが若獅子様っ!」

「 賭けは俺の勝ちになりそうだな!ハッハー! 」


それぞれが、若獅子の見事な勝利を確信し、若獅子を褒めたたえる

ーーーそんな中、一部の闘技場マニアだけが、苦笑を浮かべていた


「 よくやるよ…こんな大舞台でアレやるなんて… 」


湧きたつ闘技場の真ん中で、若獅子は剣を正眼に構え直し

倒れた俺に近づいてくる


(おお…頭がぐわんぐわんするぜぃ…今度は兜はすぐ割れるタイプにしよう…)


心の中で悪態を呟きながら、口元に置いた、リストバンドから

二つの物を取り出す

一つは、豚の腸に詰めた紅い液体

二つ目は カミソリだ


(ふふん…俺は古典的悪役ヒールだからな…流血ジュースはお約束だろ…)

(まあ普通は、流血するんじゃなく、させないといけないんだけどな…)


そっと、額をカミソリで撫ぜる

熱い何かが顔を這う、ここをカットするといい具合になるんだぜぇ…

さあ、早く近くに来いよ、若獅子…ショータイムだぜ…

口に、赤い液体を含んで、俺はゆっくりと、うつ伏せから起き上がろうとする


「 さあ! 勝負は決した! 」


若獅子は、うつ伏せから起き上がろうとする俺に

右手に握った剣を突き付ける

立会人も横に並び、俺からの参った!の声を聞き逃さないように努めている


(本当に気が早いな…コイツは…)


苦笑しながら、ゆっくりと、若獅子に向けて顔を上げる


「 なっ… 」


若獅子の驚きの声と共に、観客席からも女性の悲鳴が多数上がる

顔を上げた俺の顔が、鮮血で真っ赤に染まり

更に流血で、顎のあたりから、血は滴り落ち、皮鎧をどす黒く染めて行く


そして俺は、立ち上がろうとしては、ふらつき倒れて

腰が砕けた正座の様な形で座り込む


「 さあ早く参ったと!立会人っ!戦闘不能ではないのか? これは? 」


叫びながら立会人に確認を取るが、立会人は首を横に振る

俺は、気を失ってもいないし、立ち上がろうとしている以上

戦闘の意思ありと、立会人は止めれない


「 くっ…ならば参ったといえ!その怪我では危ない!さあ早く! 」


なんだ…俺を心配してくれてんのか?

若獅子…いい奴だなおめえは…

若いなあ…眩しいくらいだ…

だけどな、戦場だったり、こう言う場ではその甘さが命取りになるぜ?

教訓代わりに覚えときな…


俺はふらつきながらも前に出て、若獅子の前で、また座り込む

地面に着いた手は、若獅子の足に既に触れそうだ


「………だ 」


俺は若獅子を見上げて、小声で呟く


「 立会人っ!何か言っているぞ!早く確認をっ! 」


若獅子が、立会人に向けて叫ぶ


ーーーー注意が避けたぜ?若獅子!


俺は、若獅子の足元にあった、右手を一気に振り上げる

腕は、若獅子の足から、内股を通り

ーーー男の急所へ


「 ?!!グムゥゥゥ… 」


若獅子は無防備のソコに打撃を喰らい

口をパクパクさせながら、股間を押さえ目を剥く


俺は何事もなかったかのように、さっと立ち上がり膝の土を払い

メイスを拾い上げる


「 若獅子さんよ…あんたはいい奴だ、だがな油断はしちゃいけねえ、例えどんな状態でも

勝負が決するまでは、敵は敵のまんまだ…」


若獅子は、目を剥きながらも


「 きっきさまっ…汚いまね…を… 」


その言葉に俺は、大きく肩をすくめる


「 なんだ?! 元気じゃねえか! 手加減はしてあるから二ー三日で動けるさ!

それにルールブックには急所禁止とはかいてないぜっ…これはオマケだ… 」


俺は、喉に右手を当て、一瞬の溜めを作る


(一応、毒霧の時のマナーだからな…謎の溜め時間は…)


口に含んだ、豚の腸に入った液体を破り、一気に吹きかける


鮮やかな鮮血の様な赤が、若獅子の顔を染める


「 ぐっ!ガァァ! 」


若獅子は右手で、目の辺りを押さえ仰け反る


(すまんな…若獅子さんよ、せめてこれを教訓にしてくれよっ)


俺は、半歩下がり、

全力で踏み込みながら、右手を振り抜く

全体重をかけて、全力を込めて腕を、若獅子の首に向けて振り抜く

ラリアット

シンプルかつ大胆な打撃

目が見えていたら簡単に避けられるだろう…だが若獅子は今、見えて無い…


肉を撃つ衝撃音が響き渡る

若獅子の身体は、重力に逆らう様に、浮き上がり

半回転し、地面に叩きつけられる

暴走する野牛に跳ねられたのだ


叩きつけられた若獅子は、そのまま微動だにしないーーー


立会人は、あまりの出来事に言葉を失う

観客席も、水を打ったように鎮まり返っていたが

立会人の勝者キョウジ!と叫ぶ声を聞いて


観客席からは怒号が爆発する


「 てめえ!汚ねえぞっ! 」

「 恥を知れ、恥を! 」

「 そんな勝ち方なんて俺は認めねえ!認めねえぞぉ! 」


怒号と共に様々な物も投げ込まれていた


「 おうおう…こりゃあ一気にトップ悪役ヒールだねえ 」


言いながらも鮮血に染まった顔に、笑顔が浮かんでくる

出血は、もう止まり始めている

俺は、投げ込まれた物の中に、水筒を見つけ、拾い上げる

肩を大げさに竦めて、水筒の水を片手に救い顔を洗う


「 親切な奴、ありがとうよ! ガッハッハッ! 」


大げさな身振りを交えて笑う


観客席は更に怒号が飛ぶ事になる



~~~~~~~~~~


ティダリア側控室では、五人の男が若獅子の試合をみていたが

その中で一人、苦笑している者がいた

自由都市が誇る最強の武将、ギルトラスという偉丈夫が肩を揺すりながら


「 若獅子の奴、相手を甘く見過ぎだ、代表に出て来る程ならそれなりの実力があるのだからな 」


その言葉を受けて、本来その場には居てはいけないはずの男が口を開く

ガゼッタ闘技場長で、かつては名を馳せた猛将であったミルラス

一見只の年老いた老人に見える


「 しかし、ギルトラスに若獅子の対戦相手にキョウジをと頼まれた時は驚いたぞ 」


偉丈夫は、苦笑を続けながら


「 うむ、若獅子はな、その若さゆえに甘い所がある、その弱点を克服できればいい将になるのだが

戦場に出てからでは、遅いからな、甘さを克服する前に、多くの者や本人が犠牲になるやもしれぬ 」


老人は、その言葉に苦笑で返す


「 それがキョウジをぶつけた理由か?若獅子には少し痛い教訓じゃったのお 」


「 そうだな…アレは痛いな…まあ後で事情は説明しておくさ 」


苦笑する二人の周りでは、次峰として闘う男が、怒気を孕んだ目で会場に通じる通路を睨む


(若獅子をコケにした責任をとらしてやる…)











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