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 離婚が成立するのに手続きは色々とあるのだが、最も大事なのは教会からの許可だ。

 神の名によって結ばれた二人は神の赦しがなければ分かたれる事ができない。

 許可を得るにはまず裁判でイヴェットの潔白とダーリーン達の罪を証明しなければならない。


「お嬢様はそのために証拠や根回しをしているんですよね」


 トレイシーはイヴェットのことを「奥様」と呼ばなくなった。

 昔の様にお嬢様と呼ぶ。

 彼女なりの意思表示なのだろう。

 夜着に着替えたイヴェットの髪を梳く彼女はどことなく嬉しそうだ。


「そうよ。証拠は問題ないけれどこのままだと心証と大衆へのイメージで、傷物としてまともに外を歩けなくなる。そうすると我が商会にも痛手だわ。だからこそ人々を味方につける必要がある」


「それが今噂になっている『騎士団長と悲劇の令嬢』ですね」


 いつの間にかそんなタイトルまでついて広まっているらしい。


「他のお屋敷の侍女にも色々聞かれましたよ。お仕えしている主人が噂の細かいところを知りたがっていると」


「苦労かけるわね。なんて答えたの?」


「いえなにも。ただ悲しそうな顔で微笑んでおきました」


どうやら役者は身近なところにもいたらしい。


「では今が良いタイミングかしらね。あまり長引かせれば、今度は関心自体がなくなってしまうでしょうから」


ダーリーン達は騎士団監視の元グスタフの葬儀を行い、そのまま騎士団所有の牢に入れられた。

殺人容疑がかかっているので当然だ。

代言人とともに神聖裁判所に訴状と証拠を提出し、あとは本人と戦うだけだ。


彼、代言人はイヴェットの代わりに裁判を進めてくれる存在だ。

裁判にはそれなりの形式や進め方があるので貴族同士であれば慣れている人に頼むのが一般的だ。

ダーリーン達にいないのでは公平ではないので、あまりない事らしいが代言人雇用費は渡している。

代言人が被告であるダーリーン達の罪を明らかにできれば、そのまま控えている騎士団に渡さる手はずだ。


「噂の『悲劇の令嬢』の真相はこうだったんですね」


代言人はイヴェットから事のあらましを聞いて頷いていた。


「ご存じだったんですか?」


「新聞を読んでいれば自然と」


(そうだったわ、『騎士団長と悲劇の令嬢』は新聞に載っていたのよね)


 離れに住んでいたイヴェットの元にも新聞は届けられた。

 普段から経済紙もタブロイド紙にも目を通していたが、特にタブロイド紙の方はイヴェットの話題で持ちきりだったように思う。


 メイナードが流した噂よりかなりドラマチックに脚色されたそれは、イヴェットの知らない「情報通」なども出てきてもはや一体どうなっているのか分からない状態だ。


「裁判で真実が分かれば皆様がっかりするでしょうか」


「それはないでしょう」


 代言人、アンカーソンはロマンスグレーが印象的な柔和な紳士だった。

 相当実力があるらしく、王家からの紹介だった。


「がっかりするような内容であれば人々は興味をなくすだけです。ですが今回は正直申しまして真実の方が悲劇的ですよ。むしろ好感度から同情をひけるでしょうね」


「悲劇的、ですか」


「おや、ご自覚がないのはあまりよくありませんね。あなたは事実殺されかけました。裁判が終わればとにかくゆっくりと療養して気持ちを回復するのが大切ですよ」


 アンカーソンは真面目な顔になる。


「今は忙しく、裁判に集中しているので麻痺しているのかもしれませんが……。本来であれば休むべきなんですよ」


「ええ、そうらしいとお聞きしましたわ」


王宮に保護されていたのはそれも大きな理由らしい。

外部刺激をなるべく減らして穏やかな日々を過ごすよう王妃も計らってくれたと聞く。


(でも、今は本当になにも感じないわ)


 たしかに、気を緩めたら悪夢に囚われる予感がある。

 それが嫌だからこそ裁判にむけて走ってきたのだ。

 そもそもダーリーン達がいないというだけで不快感はなく、快適すぎて嬉しいのだ。

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