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 ダーリーン達が王都に着いたのはやはり昨日だったらしいが、鍵がなく屋敷に入れなかったらしい。

 お金もなくあまりにひどい有様なので友人たちにも一晩泊める事すら断られ、物乞い同様道に座って夜を明かしたようだ。


「それで寝入ってこのお時間に? 貴族でいるよりよほど才能があるのではありませんか」


「お前、誰に向かってそんな口を……!」


「鍵は邸宅管理人が持っておりますわ。それなりにこの屋敷にお住まいでしたのに、そんなこともご存じなかったとは思わなかったのです。……ああ、座らないでくださいね。あなた方が触れた物は捨てなければならないので」


 貴族らしく傲慢に、優雅にお茶を飲みながら徹底的にダーリーン達を鼻で笑う。


「君は、誰だ? 本当にイヴェットなのか?」


 困惑したようにヘクターが問う。それはそうだろう。

 今まで良い貴婦人、そして良い妻として我慢していたのをやめたのだ。

 パウラもカペル夫人も信じられないといった顔でイヴェットを見ている。


「そう。私はイヴェット・オーダム。オーダム男爵家一人娘です」


 イヴェットの力強い瞳はダーリーン達を臆させる。

 女神のごとく神々しく光を受けて宣言をしたイヴェットに、誰も口が出せないでいた。


「そしてここは私の屋敷、オーダム男爵邸です。あなた方は出て行きなさい!」


 凛とした声がその場を支配する。

 誰も動けない中、イヴェットが窓際へ行き片手をかざすと待機していた傭兵たちが裏口から屋敷に突入する。


「な、なによアンタたち! どこから入ってきたの、何するの! やめなさい!」


 イヴェットに雇われた傭兵は事前の命令通りダーリーン達を屋敷の外に連れ出す。

 屋敷から少し離れていた所に待機させていた馬車に押し込んでそのまま出発させた。


「あの方々はどこへ……?」


 静かになった屋敷では、隠れて見守っていたトレイシーが疑問を口にしていた。

 主人として使用人たちを危険にさらすわけにはいかないので傭兵や馬車の手配をした後は隠れてもらっていたのだ。


「カペル夫人の家よ。グスタフさんの葬儀も済んでいないのだから血のつながった家族で過ごしたいでしょうし」


 本音を言えばとにかく追い出したいだけだ。

 しかしあんな風に力に物を言わせて人間を移動させるなんて、事情を知らない人間から見れば異常にも思えるはずだ。


 人目につかないようにはしたが、何かと目立つダーリーンがいなくなれば噂も立つだろう。

 心にもない事ではあるが、貴族は建前が重要なのである。


「後でお悔やみの手紙と葬儀代を送るから準備しておいてくれるかしら」


「分かりました」


(お悔やみの手紙の内容、正直殺されかけた事への恨み言にしてあげたいわ)


 本当にするつもりはないが正直棺桶を蹴り上げたい気持ちはある。

 とりあえず彼らがいなくなったことで使用人たちもほっとしたらしい。

 少なくとも仕事はやりやすくなっただろう。


(あとはこの平穏を確実に、永遠のものにするために戦うだけよ)


 イヴェットは窓から空を見上げながら決意した。


(もうこの家をあの人たちに好きにはさせない)


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