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フランシスが当番にあたった近衛隊遠征任務はピスカートルだった。


「海か~! 楽しみだなあ。俺見た事ないからさあ」


「潮風で金属の手入れが大変らしい。後で説明があるからちゃんと聞いておけ。サボるなよ」


「了解です、隊長!」


 調子のいい同僚にくぎを刺しつつ自室に戻り、先ほど配布した資料に自分も改めて目を通す。



【魔獣ナックラヴィー】

 目撃場所 ピスカートル ピラート島内樹林地帯

 当魔獣は結界により島外に出られず、目撃証言も少なかったが近年ピラート島が観光地化した事で討伐対象となった。


 鱗の生えた巨大な馬型。対象の肉体を破壊し魂を食らう。

 弱点は金属。

 完全に討伐を確認するまで鎧を着用する事。

 討伐手順に関しては過去討伐したバイコーン、ケルピーなどを参照に……



 会議室で作戦は周知され、後は小隊規模の実践を想定した訓練で練度を高め作戦の穴をつぶしてから実践に臨む。

 小隊長としての責任は重いものの、人気のない島内から出られないのであれば簡単な方だ。

 今の騎士団の練度であれば問題ないだろう。

 フランシスは資料を机に置いてベッドに転がった。

 ここ最近目を閉じて思い出すのはあの日の庭園でのことだ。


(イヴェット様)


 普段参加しないパーティーにいたのは、先ほどの同僚がパートナーを見つけられず友人としてついていったからだ。

 正直なところ女性は苦手だった。

 嫌いなのではない。

 ただ戸惑ってしまう事が多いのだ。

 立ち回りの上手い兄たちは後腐れなく遊んでいるらしいが、それでスキャンダルにはならないのだから上手くやっているのだろう。

 

 しかしフランシスは女性の真剣な感情に対して軽薄に接するのはどうしても気が咎めた。

 そうして真面目に付き合えない旨を伝えると泣かれてしまう事もあった。

 泣かれるとどうしたらいいのか分からない。

 運悪く人に見られてしまえば噂になる。


 自分にできる事は思いつかないし、嘘をついて気のある言葉をかけるのもおかしい気がした。

 その内踏み込みすぎない程度に人当たりよく接しては逃げるという、あまりにも情けない人付き合いをするようになっていた。

 

 当たり障りのない言葉で立ち回っていたのだが、婚約や結婚の文字が身近になるにつれそういった態度は自分の首を絞める事になっていた。


(いつまでもこのままというわけにはいかないんだが)


 そんな事を悩んでいる時に出会ったのがイヴェットだった。



 三男といえど王家にも関りあるコルボーン伯爵家となれば、とにかく縁談や熱い視線には事欠かない。

 さらにフランシスは長身の美形なのだ。

 有り余る女性たちの熱量に圧倒され、フランシスは早々にパーティー会場から庭園へと足を向けた。

 よく手入れされた庭だった。


 豪華なシャンデリアよりは、庭の方にこそ屋敷の主人の趣味がうかがえる。

 導かれるように歩くとやはり鑑賞者を休ませるための場所があった。

 会場からは木で影になっており好都合である。

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