表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/68

32

 ピスカートルの大部分は公用語が通じるものの、異国の人が普通に生活しており訛りもかなりある。

 ダーリーン達はその通訳にイヴェットを駆り出そうというわけだった。

 それはいいのだが、異文化に敬意を持たずゲテモノ扱いするダーリーン達には辟易した。


「イヤーッなにこれ! きもちわるい!」


「こんなの食べるの? 蛮人ねえ」


「ひもじいものを食べてると心まで薄汚くなってしまいそう。やあねえ」


 言葉が分からずとも態度は通じるのだ。

 見た事がないものに対して大声で悲鳴を上げたり馬鹿にする様にイヴェットは毎回肝が冷える。

 その場その場でイヴェットが説明して気分を損ねたであろう相手に謝罪をしているのだ。

 ダーリーンはそんなイヴェットにお構いなしで次々冷やかしていく。


『ウチの商品をあんな風に扱われちゃ困るよ。どうしてくれるんだ』


『すみません、ご気分を害してしまいました。商品は勿論買い取らせて頂きますわ。それとあの、私用にも少し包んで頂けますかしら。美味しそうな香りがずっと気になっていて……』


『何だねえちゃんは話が分かる人だな。買い取ってくれるって事だしこっちの付け合わせもおまけしとくよ』


『えっそんな! それじゃあお詫びにならないのでは……。あ、ありがとうございます』


 ピスカートルの店主たちは気が荒く、優しい人達だった。

 大量の人、物流がある中限られた時間で交渉する癖があるのだろう。

 王都ののんびりした雰囲気とはまるで違って、それがイヴェットには面白かった。


(お義母様とではなくトレイシーと一緒に歩きたかったわ……)


 何しろまずは謝罪から入っているのだ。

 滞在期間中に自由に動ける時間があればその時気になる所を回る事にしようと思うイヴェットだった。


「お義母様、今日はまだ護衛をつけておりませんのでそろそろ戻りましょう」


 昼は人通りが多いため、大通りだけを歩く分にはあまり問題はない。

 しかしすぐに裏路地に入ろうとするパウラや喧嘩をふっかけて歩くダーリーンを御しながら歩くのは困難を極めた。

 

 ピスカートルに着いたのが昼過ぎなので冷やかしはそう長い時間ではないのだが異常に疲れたのである。

 理由をつけてドームスに戻ろうと提案すると、買い取ったもので塞がっている手にさらに荷物が重ねられた。


「そうね。空気がごみごみしていて疲れちゃったわ。戻ってゆっくりしようかしら」


 そうしてダーリーン達は荷物でもたつくイヴェットをおいてさっさと歩きだしてしまった。


(あ、あの人達……!)


 既にトレイシーも限界以上に持っている。

 よろめくイヴェットを見ながらダーリンたちは笑っていた。

 途中で街馬車を拾いなんとか人心地着いたものの、気分転換には程遠かった。


「ついでに買ったこの……串料理かしら? これがおいしいのがせめてもの救いよね」


「そうですね奥様。これおいしいです」


 普段使用人と一緒に食事をする事はないが、旅行先であるし誰が咎めるわけもないので共におやつとして食べている。

 一生懸命もぐもぐと串に食らいついているトレイシーは可愛い。


「スパイシーさと醤の香ばしさがお肉によく絡みついて、最高ですねこれは」


「……また買いに行きましょうか」


「良いんですか?」


「もちろんよ」


 食事は基本的にドームス内にあるレストランで行う事になっている。

 夕食の為にイヴェット達はそこへ向かった。

 

 すぐさまピスカートル名物の魚料理や珍しい果実などがテーブルに並べられる。

 皮はパリッと、身はふっくらジューシーに焼き上げられた新鮮な白身魚は王都ではなかなか食べられない。

 ソースは白ワインを基調としたバターソースで、さっぱりとした味付けの魚に絡めて口に運ぶと素晴らしい調和を示してくれた。


「魚? 魚など食わん! 肉にしろ!」


 と叫んで肉料理を選択したグスタフやパウラも、運ばれてきた魚料理を羨ましそうに見ている。


(きっと明日からは大人しくお魚を食べるわね。私も明日からは少しコルセット緩めようかしら)


 食事が進む中でイヴェットが口火を切る。


「事前に説明させて頂いた通り、明日はピスカートルの有名な観光地を周ろうと思います。ガイド兼護衛を一人つけて、まずは馬車でピスカートルの鐘へ向かいます。そこである程度自由に過ごした後船でピラート島へ向かいます」


「島? そんなところに何位があるのよ」


「海賊の歴史的な信仰建築物があるそうよ」


「お母さま、海賊とか建築物に興味あったっけ」


 パウラが不思議奏にしている。


「私の知り合いがピスカートルに行くならそこに行くべきだって言っていてね。有名な所に行ってないって思われるのもなんだから」


 どこまでも見栄の為だというのがダーリーンらしいが、ピラート島は確かに有名な観光場所だ。

 潮の流れが速いため熟練の船乗りしか近づけない為、海賊の異教信仰の跡が色濃く残る島である。


「少し歩くようなので明日はその二か所で切り上げる予定です。お渡しした資料の通り明日、明後日は皆で有名どころに向かいますがその後はほぼ自由ですわ」


(ピスカートルの事は事前に調べておいたけれどそれにしては興味がなさそうなのよね)


 ダーリーン達はとにかく楽しく過ごしたいという割に下調べに関して興味が無かった。

 常に「それはあなたの仕事でしょう」と言って現地でイヴェットに働かせる心づもりらしい。


 有名どころは抑えたいというダーリーンの要望に従って予定を立てたものの、いまいちピンときていないようだ。


(まあ観光スポットっていう考え方が出来たのも最近だし当然かもしれないわね。実際に見てみたら実感がわくかしら)


 イヴェットも話を聞いているだけでどんなところなのか、なぜ有名地になったのかはよく分かっていない。

 同行者に気が滅入るのだからせめてこの土地を楽しもうと思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ