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「なによ、私を疑うつもり!?」


 まだ距離があるだろうに彼女の金切り声はよく聞こえた。

 カペル夫妻も何事かと丁度やってきた所らしい。

 場所は、イヴェットの父の部屋だった。


「奥様……」


 使用人たちが助けを求めるように到着したイヴェットを見る。

 父の部屋の中には一人の使用人メイドとパウラが立ちすくんでおり、入り口には他の使用人たちがはらはらと様子を見守っている。

 イヴェットは既に事情を聞いていたが、その場で改めて説明を求めた。


「何があったの?」


「実は……」


「この女がこの部屋に入って宝石を盗んでいたのよ! 私はそれを咎めようと思っただけ!」


「そんな! 違います奥様!」


 パウラは説明しようとする使用人を遮り、指さしてわめいた。

 指し示された使用人の顔はどんどん白くなっていき、絶望しているのは明白だった。


「わ、私は……」


 使用人の窃盗は貴族の中でも常に頭の痛い問題だった。

 世間的に罰はどんどん厳しくなっていくものの、雇い主の目を盗んで悪事を働く使用人は後を絶たない。

 証拠があれば厳罰は免れないが、今回のような証言をされる事も使用人の恐怖であった。

 雇い主が使用人と客人、どちらを信じるかは分かり切っているからである。


「こんな事があって残念だわ。宝石ってどんなものだったか教えてもらえるかしら、パウラさん」


 イヴェットの信用を得たパウラはこれ幸いとまくし立てる。


「ダイヤモンドよ! 金の装飾があって、手に収まるくらいのブローチだったわ。使用人がこんな事するなんて信じられない!」


 震えていた使用人がえっ、という顔をした。

 部屋の外にいる使用人たちも同様だろう。

 イヴェットだけは悲しそうに声のトーンを落とす。


「確かに父はそういうものを部屋に置いていたわね」


 イヴェットの発言を聞いてパウラはますます饒舌になる。


「はやくこいつを罰しなさいよね。鞭打ち? 斬手かしら? 騎士団に突き出してもいいわよ。そうなったら窃盗犯は死刑か流刑ね!」


 使用人は神妙な顔をしていた。

 窃盗は場合によっては殺人より罪が重い。

 直接手を下すより隠れて行う事が出来る窃盗の方が卑怯だと考えられているからだ。

 貴族は邸内で独自ルールを科している場合もあり、パウラはそのことを言っているのだろう。


「おい、早くその使用人を罰したらどうだ」


「そうですわね。さすが、お手柄ですわパウラさん。その前にきちんと調べなければなりません」


「そんなの必要ないわ! 私が見たのよ!」


「この子を疑うというのか? 客人だというのに! これだから礼儀を知らん女は。おい、ヘクターを呼べ」


 事態を把握したグスタフが憤然として抗議する。


(その文句を言う隙を嗅ぎ分ける嗅覚とその反応の速さ、もし「世界いちゃもん選手権」があればいい所まで行けるわね)


 ヘクターもこの騒ぎを聞いているのかもしれないが、面倒を避けて寝たふりでもしているのだろう。

 ただでさえ今日からしばらく愛人の元へ行けないという事で不貞腐れ気味だ。


「この屋敷で必要な手順なのです。後世を期すために夫人にもお手伝い頂けますか?」


 わめくパウラやグスタフをぴしゃりを黙らせて、トレイシーとカペル夫人に調べてもらう事にした。

 夫人も何事か言っていたが、パウラが関わっている事で結局は手を貸してくれる事になった。

 

 使用人はその場で立たされて丁寧に調べられていく。

 もう震えておらず、どちらかというと不思議そうな顔をしていた。


「何もありません、奥様」


「安っぽいハンカチはあったけど、それだけね。どこかへ隠したんじゃないの?」

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