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「イヴェット! どういうことなの!?」
イヴェットが少しでも業務を進めようと執務室に入ると、追いかけるようにしてダーリーンも入ってきた。
「お義母様、どうされましたか?」
「ど、どうされたかじゃないわ! 私がせっかく教えてあげたっていうのに全部無視したわね!」
「ああ、そのことですか。無視したわけではなく、料理の構成上しかたがなかったのです。助言頂いたのに十全に活かす事が出来ず申し訳ございません。……ですがおじさま達が喜んでくださって良かったですわ」
にっこりとイヴェットは微笑む。対照的に手の中の扇がギチギチと音を立てるほど、ダーリーンは激昂していた。
確かにカペル夫妻もパウラも、なんならダーリーンも大変な勢いで完食している。
オーダム商会が王城料理人の危機を何度か助けていたため、詳細持ち出し禁止の条件でレシピを教えてくれたのだ。
「何か至らない所がございましたか? ああ、もっと良い料理をご存じで?」
「くっ……!」
ダーリーンは顔を歪ませて執務室から出ていった。企てが頓挫した悔しさが足音に如実に現れている。
自分以外いなくなった部屋でイヴェットは呟く。
「あらあらお義母様ったら、そんな風に歩くものではありませんよ」
イヴェットが晩餐会の前に厨房にいた時の事である。
「良い香りね。食べる時が楽しみだわ。あれから問題はないかしら」
「はい、奥様。仰られたように準備いたしました」
「カペルご夫妻もそろそろご着席されるようです」
「そう、ありがとう。ここまで順調にこられたのもあなた達のおかげよ」
料理長と食材の仕入れ値や鮮度技術についての他愛もない雑談をする。
そこへトレイシーが現れた。
「……奥様。ダーリーン様が向かわれました」
「ありがとうトレイシー。お義母様は順調だと思ってくれているみたいね」
「そのようです。随分上機嫌でしたから」
先日ダーリーンに食材の口出しをされた後、不審に思ったイヴェットはすぐに使用人をカペル夫妻の住んでいる土地に向かわせた。
そして近くの市場や近所の人から聞き取り調査を行ってもらったのである。
「夫妻は豚肉、きのこ、卵は普段から購入しないと証言が取れました。特に夫人の方は卵を食べると体調が悪くなると周囲の人にかなりしつこく言ってまわっていたそうで、有名な話のようでした」
「まあ卵ってパンと同じくらい出てくるものね」
「パウラ嬢ですが、確かにお菓子に興味はあるようなのですが減量中らしく、お菓子を食べているご友人を睨みつけたりといった行為があるようです。たまにご友人のお菓子を盗んでトラブルになる事もあるとか」
「なるほどね……」
やはりダーリーンはとにかく妨害したいようだ。身内を裏切るような事をしてでもイヴェットの評価を地に落したいらしい。
そんな事があったので晩餐会は無事に終える事が出来たのだった。
「今回はお義母様に助けられたわね。普通に使いかねない食材だから危なかったわ。災い転じてなんとやらよ」
ほっとするイヴェットの元に、トレイシーが駆け込んできた。
「奥様! パウラ嬢が……」
「え?」




