21
そうこうしている内に料理が運ばれはじめた。
やや青ざめていたダーリーンはそれに気づくと露骨に口角を上げる。
イヴェットに以前伝えたグスタフ達の「好物」は真っ赤な嘘である。
グスタフは幼い頃から豚肉が大嫌いであった。
子供の頃は太っていて、あだ名が豚だったのである。
豚肉を出されると自分を馬鹿にされたと感じ我慢がならないらしい。
それでも豚のソーセージやハンバーグなどは普通に食べるのだから、ダーリーンは兄のそういったところを小ばかにしてた。
なんにせよグスタフの逆鱗に触れイヴェットは仕置きを受けるだろう。
それが今から楽しみだ。
カペル夫人もきのこが嫌いだ。細かく刻んであるものもちまちまと避けていく。
本人には死活問題なのだろうが正直見目が良くないとダーリーンは見下していた。
きのこはまあいい。好き嫌いなのだから好きにしたらいいのだ。
問題は卵の方だ。
夫人は卵を食べると口の周りが赤く腫れてしまうらしい。
さらには蕁麻疹も発症し、数日は人前には出られないとダーリーンは兄から聞いていた。
確かに夫人の料理にだけは卵がなかった。
卵そのものでなく、卵を使ったソースなどもないのだから本当なのだろう。
そんな危険なものをイヴェットが出したらどうなるか。
いくら意図したものではないとはいえ客を危険にさらしたのだ。
イヴェット・オーダムの評価は地に落ちるだろう。
もし夫人が卵を口にして医者にかかる事になればこの家から運ばれることになる。
そうなれば社交界での地位も危うい。
パウラもそうだ。
パウラはわがままだが、それ以上に今はコルセットを付け始めた事でダイエットに傾倒していた。
親切心から甘いお菓子をたっぷり出したりなどしたら、パウラは所かまわず暴れるはずである。
一度頭に血が上ったパウラは手が付けられないのだ。
ダーリーンは抑えきれずふふ、と笑ってしまった。
イヴェットは美しく着飾って一泡ふかせたつもりだろうが関係ない。
むしろ気取った事によってこれから慌てふためく姿がより滑稽になるというものだ。
夕食の始まる少し前、イヴェットは厨房にいた。
ざっと見渡し、大体の事を使用人と料理長に確認する。
豚肉は吊るされており、きのこ、卵がそれぞれバスケットの中に入っている。
今焼きあがったのか風通しが良い場所にケーキの土台が置いてある。
「良い香りね。食べる時が楽しみだわ。あれから問題はないかしら」
「はい、奥様。仰られたように準備いたしました」
「カペルご夫妻もそろそろご着席されるようです」
「そう、ありがとう。ここまで順調にこられたのもあなた達のおかげよ」
その会話をダーリーンは物陰から聞いていた。
計画が上手くいっているのを知り、ほくそ笑んでそこから離れる。




