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イヴェットが帰って来た時にはダーリーンは酔いつぶれていた。


「奥様が出かけた後すぐ上機嫌でワインを開けてらっしゃって……。ご忠告差し上げたのですが飲みながら待つと」


「大丈夫よ。起きている可能性二割程度で考えていたから予測通りだわ」


 まずは日程の調整をすり合わせようと思っていたのだ。旅行に乗り気でいつも暇なダーリーンは後回しでも構わない。


「ヘクターはいるかしら。家族旅行らしいからあの人の予定を先に抑えておかないと」


「今はお食事を召し上がっています」


「ありがとう」


 イヴェットはダイニングへ向かう。

 ヘクターは最近二日三日連続で家を空ける事も多くなった。

 屋敷にいるよりは愛人の元にいるほうが楽しいのだろう。

 仕事もイヴェットに任せてなんの憂いもなく耽溺できるのだから羨ましいくらいである。


「ヘクター、久しぶりね。元気だったかしら」


「何か用かな」


 ちらりとイヴェットを確認したあとは、挨拶も無しに食事に戻る。


(彼、なんだかぼんやりしたような……小さくなった?)


 完全に印象でしかないのだが、なぜだかそう感じる。

 目には覇気のようなものもなくとろりと眠そうで背も丸まっていた。

 声もぼそぼそとしており髪もやや乱れている。


「あるわよ、用事。あなたのお母さまが旅行に行きたいらしいの。家族旅行らしいからあなたの予定を抑えておきたいわ」


「旅行かあ……。めんどくさいな」


(それは私が一番言いたいわよ)


 ヘクターは旅行の長距離移動というより、動くこと自体や予定の確認なども億劫なようだった。


「君だって僕と違って忙しいんだろうに、点数稼ぎに余念がないね。正直浅ましく見えるよ」


(親子だわ)


 ヘクターからの嫌味や悪口は久しぶりに聞いたが、内容に怒るより言い方が似ている事に奇妙な感動を覚えてしまうイヴェットだった。


「僕の予定は執事が把握してるから聞いておいて。君と違って僕は暇なんでね、空いてるところならどこでもいい」


「ありがとう。確認してお義母様と合意できたら早めに知らせるわね」


「……これは親切心からの忠告だけど、「家族旅行」なら人数をちゃんと聞いておいた方がいいよ」


「えっ?」


 それだけ言うとヘクターは食事を終えてどこかへ立ち去っていった。


「どういうことかしら」

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