リハビリ
「ニーナちゃん……帰ってきて……」
優しい声がする……。あったかい手が私の身体を揺すってる……。この声は……。
……救世主様っ!
目を開けるとそこには、最強装備・死蝶を纏った悪魔ではなく慈愛に満ちた微笑みの聖母様がいた。
「ル……ルルさん……ルルさん……私、生きて……」
「大丈夫、生きてるわ。アーニャちゃん達も」
キュッと真剣な顔になったルルさんが皆の生存報告をしてくれた。
ラウンツさんの最強装備で心に消えない傷を負った私達全員を、ルルさんが優しく起こしてくれたようだ。
「もうお嫁に行けません……」
「大丈夫、封印が解かれたところまで見ていないわ、未遂よ。さぁ朝ご飯を食べましょう?」
「ひゃい……」
あの二匹の蝶々の封印は解放されてしまったのだろうか……。いや、もう考えるのはやめよう……。
着替えてダイニングへ行くと、フリフリハートエプロンのラウンツさんがキッチンに。
テーブルには魂の抜けたアーニャ、メイリアさん、お兄ちゃんがいた。そしてコーディさんまで肩を落としている。なぜ?
しかしその疑問はコーディさんの言葉ですぐに解消される。
「皆さん昨晩はお疲れ様です……。実は昨日の朝、ラウンツさんと魔王様二人だけの会話が僕にも聞こえてしまっていて……でも皆さんに言う勇気もなく……本当にすみません……っ‼」
……どうやらコーディさんはラウンツさんの四天王装備を知っていたらしい。
って、ラウンツさんすぐそこにいるけど⁉
ルルさんがコーディさんの肩にそっと手を置き聖母スキルを発動。
「コーディ……私も全てが終わった後に事情を知ったわ。けれど、あなたが止められるものではなかった。そうでしょう?」
「はい……っ! くぅっ……!」
コーディさんは知っていながらラウンツさんを止められなかった事を私達に懺悔しているようだ。
コーディさんの目にうっすら涙が……。
「コーディさん……コーディさんも被害者だって事は分かりました。気にしないでください」
お兄ちゃんがみんなの気持ちを代弁してくれた。確かにもう終わった事として記憶を闇に葬り去りたい。私もアーニャもメイリアさんもうんうんと頷く。
……あの最強装備に正当な理由があるはずないけど、事情があるというならあれは不幸な事故だったのだ。
「みなさん……っ! 僕を許してくれるんですか……! この贖罪はいつか必ず!」
コーディさんがバッ! と顔を上げニチャァ……っと笑った。
……この顔は! 本気で謝ってないな⁉ 多分すでにラウンツさんルルさんと話してる! コーディさんがラウンツさん側に付いたっ⁉ だから念話じゃなく今ここでお話しを⁉
私達がコーディさんの笑顔に訝しんでいると、ラウンツさんがみんなの朝食をテーブルに運んで来てくれた。
「昨日はみんなバッタバッタ死んでいって楽しかったわぁっ! ちょっち刺激が強すぎてゴメンなさいネッ☆ これからもいいリアクション期待してるわよぉっ!」
……え?
ラウンツさん……私達がラウンツさんのせいで死んだ事を知ってたの⁉ こうなる事を知っていて死の蝶に⁉
「……ふふっ! くくくくくっ! ラウンツちゃんと魔王様のサプライズは大成功ね!」
ルルさんの言葉に、私含め被害者のみんなが愕然となる!
「ギャーッ! ウソでしょ⁉ 魔王様ついにおネエに洗脳されたね⁉ やっぱり悪魔祓いを完成させておくんだったよ!!!!!」
「クソッ! ハメられたぜ!!!!!」
「魔王様めっ!!!!! 止めてようっ!」
「……サプライズは大体喜ばれないもの……身をもって知った……」
「僕は四天王戦に参加できなくて命拾いしました!」
「うふふっ! さぁ、気持ちを切り替えていきましょう? 今日は久しぶりに完全お休みですって!」
えっ! そうなの⁉
……魔王様、きっと私達への罪悪感でそうしたな。でも私は騙されないぞ!
「みんなのおネエダメージを回復するためネッ! アタシはディメンションへ出勤しようかしらっ☆」
ハッ⁉ ディメンション!
「あっ! 私も出勤したい! イケメンで目の保養が必要なんだよね!」
アーニャ……婚約したお兄ちゃんの目の前でも相変わらずなんだね。
でも確かにナイトさん達を見たら目の保養にはなる。……リハビリが必要だっ!
「わ、私もたまには出勤をですね!」
他のみんなも私に続き、全員出勤することになった。わぁい、楽しみ!
「ウフッ! コーディちゃんっ! みんなで久しぶりに出勤よぉっ☆」
「みんな喜びますね!」
一昨日の婚約祝いでナイトさん達に久しぶりに会ったけど、みんな私達がお店にいなくて寂しいって言ってくれたんだよね!
あ……ルーガル行き……この事はいつ言うんだろう……?
ちょびっとだけ胸がキュッとなった。
「んもうっ! みんな元気になったなら自分で朝ご飯を運んでちょうだいっ⁉ なんだかんだアタシの装備を楽しんでたのは知ってるんだからネッ☆」
「「「あ、はい……」」」
クッ……! 確かにおネエの毒はクセになる!
黙って朝食を運び終え、いただきます。
もぐもぐしながら今日の予定を考えたけど……ラウンツさんの事に全部頭を持って行かれるよぅ!
これからはよりオープンになったラウンツさんが意図的に私達へサプライズを仕掛ける可能性がっ!
四天王戦第三弾だけは私達の中で永遠に続くんだ……!
──────────────
朝食後、私は久しぶりにニャンダフルに出勤する事に。
今は少しでも癒しが必要だ……っ!
メイリアさんは魔界のキキュー育成に行きたいと魔王様にお願いしたみたい。ルルさんと一緒にディメンションに残った。
……キキュー育成焦ってるのかな。……今日はせっかくお休みなのに。
お兄ちゃんとアーニャ、ラウンツさんの前衛組はダンジョンに潜るみたいで、私も一緒にディアブロのお店へ転移した。
なんだかドブグロの方が騒がしいけど、まぁいつもの事だ。
「あっ! おは~!」
「あら、みなさんおはようございます」
「おはようございます! 今日も寒いですね!!!」
キャロルさんとシャナさん、クレイドさんがすでにディアブロの店内にいた。クレイドさんは相変わらず暑苦しいけど冬には重宝する。
「おはようございます。……あ、クレイドさんっ! ラウンツさんの最強装備で死人がですね!」
「ぐぁあっ! 聞きたくないけど聞きたいです!」
「ギャーッ! ニーナやめて!」
「ニーナちゃんっ! アタシの活躍を存分にお話ししてあげましょっ☆」
アーニャは無視だ!
私が昨夜のラウンツさん登場場面を話し、続いてラウンツさんが四天王戦をかいつまんで話し……。
私は想像以上の惨劇に涙した。アーニャはお兄ちゃんの影でガタガタ震えている……。
おネエが人族に史上最大のトラウマを! 勇者……生きてるかなぁ。
そしてラウンツさんのお話は、クレイドさん達ディアブロの三人に大盛況だった。
「ラウンツさんがいらっしゃると本当に毎日が飽きないですわね!」
「ウフッ! これがおネエパワーよっ☆」
「ラウンツさんパない!」
「恐ろしいですっ!!!」
四天王戦は聞くだけなら楽しいんだようっ!
「うふふ……あ! そういえばニーナさん、ナイトの本はまだ出来ないのかしら? 楽しみにしていましてよ!」
「あっ! 私も欲しいよニーナ! 初版買わなきゃ!」
シャナさんとアーニャが目を輝かせた。
え? ナイトの本?
「……あーーーーっ! 忘れてました! そろそろ印刷の納期だっ!」
私にはナイトさんの姿絵を本にして売るお仕事がっ! 忘れてたようっ!
急いでブブゼさんに念話し、納期の明後日に仕上がると聞いて一安心した。
そしてお兄ちゃん達前衛組はダンジョンへ。私はニャンダフルでモフモフを堪能。
お昼になったらディメンション二階へ帰り、みんなで昼食を食べる。
「ご馳走さま! 早くイケメンを見たいよ! もう行こう⁉」
「アーニャ……お前今日客として遊べば?」
「レイスター……理解のある旦那さんで私は嬉しいよ! 私がお客さんになる日は、このリハビリのためにとってあったんだね!」
ホスト遊び公認⁉ お兄ちゃん夫婦の倫理観がおかしい! でももう諦めた!
「あらあらレイスター、随分な自信ね? ルフランくんに取られないようにね! うふふ」
「アーニャの封印を理解できるのは俺だけですから大丈夫です!」
「そうそう! レイスターしか持ってないものがあるからね! ナイトくんに浮気したりしないよ!」
また新婚夫婦がイチャついてる……。もう下に降りよう……。
ディメンション一階への階段をみんなで降りる。
もう何度上り下りしただろう。……あと何回この階段を降りられるのかな……。
急いでバックヤードへ行ったアーニャが照明の魔道具を点けてくれたようだ。店内は瞬く間に彩と輝きを取り戻す。
私がフロアを見渡すと、そこにはほのかに薔薇の香り漂う、いつもの煌びやかで華やかなお城の世界が広がっていた。
……さて、ついに出勤! 久しぶりだぁ! 楽しみ!
やったね! ラウンツさんとニーナ達の距離が縮まったよ!
次回、ついにアーニャがホスト遊びを……。
なのですが……ノベプラのハロウィンイベント用の別小説(まおホス! 番外編)を、ノベプラとなろう両方に投稿します。
小説分けないと反映されないとか色々あって。お手間かけます、すみません。
題名
【ハロウィン2021】魔王様のホストクラブ作り!……に振り回されて大変です!
https://book1.adouzi.eu.org/n9517hh/
作者名のリンクから小説一覧開いてそこからもいけます。
11/13(土)11/15(月)はお休みします。本編再開は11/16(火)予定です(∩´ω`∩)




