熱と震えと 中編
村人視点→ニーナ視点になります
……嘘だろっ⁉
「皆の者、顔を上げてください」
「ディッ! ディディディオッ!」
「わたくしはディオルフィーネ・ロレーズ・アレイル。アレイル国王太子妃として、そしてオルガ国第一王女として皆さんへお話しをしに来ました」
やっぱりっ! ディオルフィーネ様のお顔はご成婚の際にこんな農村にまで姿絵が出回ったから覚えてた!
何で魔族と一緒にいるんだ⁉ でも魔族はビックリしてるぞ⁉ っていうか、たかがウチの村に話ってなんだ⁉
周りから「ディオルフィーネ様……」というつぶやきが聞こえてきたから俺も恐れながら顔を上げた。
……ディオルフィーネ様はレースやフリルでフワッフワのなんかすげぇ白いドレスを着てるけど、俺だってこれくらいの事は何となくわかる。……あれはドレスなんかじゃねェ、たぶん王族にとってはただの寝巻だ!
だって髪は姿絵で見た時とは違って一本の三つ編みになってる、王太子妃が平民みたいな髪型をするわけがねェ。
ただ一つ王族っぽかったのは、アレイル国を象徴する二頭鷲のペンダントが胸元にある事。昼だったらどんだけ眩かったか見てみたかったぜ。
そんでお顔は美しすぎて見てるだけですんげぇ罪悪感に襲われる。俺なんかが見たら汚れっちまう気がした。
ディオルフィーネ様の緑がかった薄茶色の大きな瞳は俺達一人一人の顔を確かめるように……目が合った! 思わず下を向く。
……それにしても誇り高い王族が、こんな易々と民衆の前に姿をさらすなんてあり得ない。よっぽど事情があるのか?
「……今まで皆さんには辛い思いをさせてしまいました。この先の未来について絶望しているでしょう、国に憤りを感じているでしょう。……王族であるのにもかかわらず……私に出来る事など何もありませんでした。でも、ここにいる魔族のニーナさんが今までオルガからの食糧を運んでくださっていたのです。無断でアレイル国内に侵入するという強行的手段を用いてでも、皆さんに生きてほしいと」
……は? ディオルフィーネ様は俺達のためだけに来てくださったってのか⁉ んで魔族と知り合い⁉
「いい魔族ってのは……本当だったのか? あ、いや、本当だったんですかい?」
ボビー! ディオルフィーネ様に発言を許されてないぞ! あと言葉使いが多分どっちも間違ってる!
「私はニーナさんを信じます。……ですが、だからと言ってニーナさんの行動は善なのかそれとも罠なのか、それはニーナさん以外誰にも分からないのでは? これは皆さんがご自身で答えを見つける必要があるのです」
「「「…………」」」
確かにディオルフィーネ様の言う通りだ。ディオルフィーネ様がそう言うからと魔族を信じて、もし誰かが死んだりしたら俺らは魔族だけじゃなくディオルフィーネ様まで恨むことになる。
誰かに答えをもらって、いざという時にその誰かのせいにしちゃダメなんだ。俺らが自分で答えを見つけて自分のケツは自分で拭かなきゃならねェって事か……。
「村長はいて?」
「は、はいっ! わたくしめですっ!」
村長がビビリながら俺たちの前に出てきた。
「……事情は言えません。知らない方が幸せな事もある、というのは世の常でしょう?」
村長がブンブンと首を縦に振った。どういう事だ?
「ですから、わたくしに出来る事はお願いをする事だけなのです」
……うっそだろ⁉ ディオルフィーネ様が地面に膝をついた! 王族がこの態勢になるのは国王様の前か神に祈る時だけだ! あああ! 高そうな服が泥で汚れっちまう!
「この村に運ばれる食糧は、わたくしの祖国オルガ国の民が育てたものです。アレイル国は、魔族が勝手にオルガからアレイルへ運んでいるという事を認識しています。どうかここにいる魔族、ニーナさんのお話を聞いてください。誰よりも早く皆さんの窮地に気が付いたのは他でもない、ニーナさんだという事だけは事実です」
そう言ってディオルフィーネ様は下を向き、胸の前に組んだ両手に額を付けた。
……つまり俺たちの方を見て頭を下げたんだ!
やめてくれ! 気がおかしくなりそうだっ! 胸が苦しい! 頭がカッとなって熱い! ブルブル震えてる俺の身体はどうなっちまってんだ⁉ なんで俺は泣いてんだ⁉ これは何なんだっ⁉
俺が声にならない声をどうしたらいいのかと口をモゴモゴさせていると、魔族が喋った。
──────────────
ひぃ! お姫様が泥だらけになって跪いてるよぉ! どどどっどうしよう!
「ディ、ディオルフィーネお姫様、あの、た、立ってくださぁい……私どうしたらいいか分からないですぅ!」
私がそう言うとお姫様はゆっくりと立ち上がった。……このお洋服弁償しなきゃいけないのかな……魔王様に請求してもらおう! そうしよう!
魔王様めっ! なんでお姫様まで連れて来ちゃったのぉ⁉ せめて事前に知らせてっ!
「ニーナさん、お話をどうぞ」
「へっ⁉」
お姫様は無言で微笑んでいる……なんかハードルが上がってるよぉおおお!
……でも今なら村人もお話を聞いてくれそう……よし、さっさと終わらせて帰ろうっと!
「あ、あのっ! ですね……ど、毒は入れる意味が無いんです……だから本当にただの食糧です。人族を殺すならもっと簡単な方法があります。あっ! 人族は殺しちゃダメって魔王様に言われてるのでししし、しないです! あと、魔族は殺人が好きな訳ではないです……戦うのは好きだけど。あっ! 私は戦うの嫌いですからやめてくださいね⁉ そ、それで……だから人族が死んでも魔族にいい事って無いんです……土地を奪っても管理できませんから魔王様は面倒臭がって領土拡大とかしないと思います……だから殺しません。えっと、それで、私がご飯を食べてもらいたい理由は……よく分からないけど子供がお腹を空かせてるのは嫌だなぁって。……私はお乳やご飯をくれた今のお父さんお母さん、拾ってくださった魔王様がいなかったら死んでたんです。捨て子だったので……」
……ん? あれ? 何で私の身の上話までっ! むぅ人族めっ! 私の過去を知ったからには焼き払うしか!
「う……うおおおおーーー! ご飯無かったら死んじゃうよなぁ! ニーナちゃんはご飯の有難みをよぐじって……ヒック! じっでるんだなぁ! うぅっ……グスッ……!」
えぇ……ボビーさんが泣きながらすごい感動してる……なんかごめんなさい。
私は魔王様に拾われたからその縁でおそばにいられる事が多くてラッキーだし、お父さんお母さんのおかげでかなり裕福な生活をさせてもらってますなんて事実はこのまま隠しておこう。
ふふふ……隠し事なんて魔族っぽいぞ私!
「ディオルフィーネ様、ニーナさん……お二人のお話は我らの心に響きました。自分でよく考え、自分で答えを出すとお約束いたします……」
村長さんらしき人がまた地べたに跪いて深々と頭を下げた。
「ありがとう、私の愛する民よ。ではこれで──」
「イルマ! イルマ! ダニーーー!」
どこからか女の人の叫び声が聞こえた! と思ったらボビーさんの隣にいたお兄さんがどこかへ飛び出していった。
「何事です?」
お姫様がそう言いながらお兄さんの後を追って行った。村長さんやボビーさんも走って追いかけてる……。
私、もう帰っていいのかな? ……でも気になるから〈集音〉。
「ダニー! イルマが白目でけいれんしてるの! どうしよう! 死んじゃう!」
「イルマ! ウソだろ⁉ 死ぬのか⁉」
あっ! 死にそうな赤ちゃんがいるって魔王様が言ってた! その子じゃないよねっ⁉
私もお姫様が向かって行ったお家へ走った!
9/29(水)はお休みします(∩´ω`∩)




