三人称:強制三国会談 終了、そして裏側
「……ところでよぉ、アナーキーは誰の策略だったんだ?」
アレイル国王にとって魔王の言葉は寝耳に水であった。
「アナーキー? 策略とは……」
「アナーキーの混じった香がただの香としてアレイルから高値でオルガの市場に入って来てんだよ。商人が儲けてんのか国が儲けてんのかまでは知らねぇけど。オルガの人族をキマらせてから叩く作戦だろ?」
アレイル国王は魔王の言っている言葉の意味が一部分からなかったが、現在進行形でとんでもない疑いをかけられている事だけは分かった。
「香……高値……私は知らぬ……大臣!」
「分かりかねます!」
「誰でもいい! 分かるものはいないか⁉」
アレイル国王が後ろに控えている護衛達へ鬼気迫った顔で唾を飛ばしながら振り返る。
「……噂でも何でもいい! 知らぬのか⁉」
「……あっ! あのっ! 知人が少し気になる事を言っていましたっ!」
一人の女性魔術師が手を上げた。
「話せ!」
「はいっ! 北部国境警備隊第九班の知人の話です! ルーガルからの荷は食糧が減った代わりに茶や香が増えている気がすると申しておりました!」
「またルーガルか! すぐに調べろっ! 大臣、念話で指示を!」
「はっ!」
「やっぱルーガルかぁ~。イリアとかフレーナから入って来てる可能性もあるけど十中八九ルーガルの仕業だろうな~」
魔王の言うイリアはルーガル西に位置する国、フレーナはルーガル東に位置する国である。
「ハッシュウェート国王、アナーキー交じりの香のオルガへの流出を対策してもらえぬか?」
アレイル国王は、魔王とオルガ国王が自分の言葉を信じてくれた事に安堵と感謝の念を抱いた。
「全力を尽くす……すまぬ……。ルーガルめ、市場をも使って罠を……」
「アレイルの市場にも流通していないかが心配じゃの……」
「毒見の魔道具融通してやろうか?」
「早急に調査する……感謝する……」
(オルガ国王と魔王は今まで知っていながら我が国と対立しないよう沈黙を貫いていたのだ……その上我が国の心配まで……。それとは反対に食糧の輸出を最小限に減らしアナーキーを仕掛けたルーガル……やはり私の判断は間違っていなかった!)
「じいちゃん、大変だろうけど一花咲かせてからあの世に行ってくれよな、ははは! あ、そうだあと一個だけ話があんだけどさ」
「まだあるのか⁉」
「いや、悪いニュースじゃねぇ。あのな──」
「……分かった──」
かくして、魔界・オルガ・アレイル三国会談は無事に幕を下ろした。
元・剣であったくまさんうちわが、のちにそれを下賜された近接護衛の幼い子供達に大人気となり、紆余曲折を経てその魔法の精度から魔術師や鍛冶師の研究材料としてプレミア価値が付くことになる未来は誰も想像できなかったであろう。
そしてペガサスデコはアレイル国王の私室に飾られ、オルガ国王が「そういえば儂もデコが欲しいのじゃ! アリアとハッシュウェート国王だけ映えてずるいぞ!」と駄々をこねたのは両国の微笑ましいエピソードである。
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時は遡り三国会談当日の朝。
ニーナとメイリアはエルドラド二階層の実験場に来ていた。
「メイリアさん……まだ孵化してないですね。……どどど! どうしようっ! 今日が会談の日なのに!」
「……ん……もう埋めてから15日目……普通の飛蝗でもそろそろ孵化しておかしくない……変異種は孵化が早いはずなのに……」
ニーナは「お願い生まれて……生まれて……いややっぱり生まれてほしくないぃ! でも生まれないと魔王様の交渉が不利に!」と心の中で葛藤しながら念じ続ける事しか出来なかった。
そして何も出来ないまま時間は過ぎていき、魔王から念話が飛んでくる。
『おいニーナ! 何とかしろ!』
『ぎゃぴっ! 魔王様⁉ ななな、何とかって言われてもぉっ!』
そして一方的な念話は一方的に切られた。
「……魔王様から念話で何とかしろって言われましたぁ……うぅ」
「…………実験環境が外と違う? ……ダンジョンだから? ……土が違う……結界が違う……」
メイリアがブツブツと実験に問題点が無いか見直し始める。
「……ニーナの結界って何を防いでるの? ……」
「えっ⁉ そ、それはよくわからないです……」
「……普通の結界は光や空気を通すから、一定以上の質量もしくは分子を通さない細かい網の目のようなものだけど……」
「あ! 確かにほとんど景色が変わらなくて呼吸が出来るのはそういう事なんですね! ……実は私、結界についてよく知らなくて……自然に身についていたから……」
「……魔術式に詳しい人以外はみんなそうだから大丈夫……じゃあどうやってこの結界に私を通してるの? ……」
「えっと、それは『メイリアさんだけオッケーな感じで』って念じたらなぜか出来ました……」
それは知っている、そうではなく理論を聞いたつもりだったのだが。とメイリアは思ったが、ニーナに理路整然とした解答を期待した自分が悪かったと思い直した。
ニーナの魔法は周りからすれば化け物級だが、本人からすればテキトーなのだ。
「…………確かにそんな事を言ってた……」
「あ、あのっなんかごめんなさい……」
いたたまれない雰囲気になる二人。
そしてメイリアがふと気付く。
「……飛蝗は? ……飛蝗には何か念じた? ……」
「えっ? 特に何も……早く孵化しないかなぁとは思ってますけど……ど……? ……あああああっ!」
「……? ……」
ニーナ、思いもよらぬ可能性に気付く。どうか自分の結界がへっぽこであってほしい、そんな願いを込めてメイリアに懺悔した。
「……あの……あの……飛蝗、うじゃうじゃ孵化したら嫌だなぁって……だから孵化してほしいけどしてほしくないなぁって……コッソリ思ってました……ごめんなさいぃい!」
「……そういえば結界を張った時に『飛蝗は絶対ダメッ! って感じ』ってニーナ言ってた……卵ひとつひとつが二重に結界で覆われている可能性が? ……」
「ええっ⁉ そんな高度な技出来ませんようっ!」
「……ニーナなら有り得る……ちょっと土魔法で囲いを作るから結界解除してみて……大丈夫、幼虫は飛ばない……」
ニーナは、犯人が自分である事を暴かれる前の罪人と同じ気持ちでメイリアの土魔法を見守る事しか出来なかった。
メイリアの魔法により結界の外周に腰の高さほどの簡易的な土の囲いが出来る。
「……ニーナ、解除を……大丈夫、幼虫は飛ばない……」
「ひゃい……」
二度も念押ししたメイリアの意図を汲み取ったニーナが「結界解除! 飛蝗は飛ばないから大丈夫! 出て来て!」と念じると、透明な結界の魔力は空中へ霧散した。
「ど、どうですか? メイリアさん……」
「…………」
メイリアはしゃがみこんで地面を観察しているようだ。
中で何が起こっているのか知りたくないニーナはしばらく囲いの外でモジモジソワソワとしていた。が、囲いに阻まれてメイリアの姿が見えない事に不安を感じたので恐る恐る近付き、そっと中を覗き込んだ。
「…………」
「…………孵化してないですね」
「…………ダメならまずは土ごとダンジョン外へ持って行って──あ! 生まれる!」
「えっ⁉」
ニーナはメイリアが指差した方へじっと目を凝らしてみるがよく分からない。
「生まれた! 茶色い! やっぱり変異種!」
「ひぃ!」
そこからはニーナにとって阿鼻叫喚の地獄絵図であった。
次々と生まれた小さい飛蝗がもぞもぞとうごめき、しゃがんでいるメイリアのブーツやスカートの裾に登ってくるものまでいた。
しかしメイリアは口元を三日月形に吊り上げ、あの猟奇的な笑顔で一心不乱に飛蝗をビンに詰め始め、殺虫剤の粉も投入した。
「……効いた! 死んでる! 魔王様に念話!」
「ひゃいっ!」
ニーナが念話しようとすると、こめかみに魔王とメイリアの魔力を感じた。メイリアがパーティ念話を繋げたのだ。
『ま、魔王様! 飛蝗孵化しました! 気持ち悪いですぅううう‼』
『……魔王様……実験成功です……十体すべて死滅、これから──』
『えぇ……早ぇよ……今じゃなぁい……早ぇよぉ……』
先ほど何とかしろと言ったのはこの男である。
『えっ⁉』
『…………』
『……何でもねぇ。メイリア、ニーナお疲れ……よくやった!』
魔王から念話を遮断されたメイリアは困惑した。
「……早い? ……十体では実験データとして不十分という事……ニーナ! 飛蝗集めて!」
魔王の言葉を勘違いしたメイリアが珍しくキリリと眉を吊り上げニーナにビンを手渡す。
「わ、私もそこに入るんですかぁあああ⁉」
「会談が終わる前に実験データの精度を上げないと! 早く!」
「ひぃいいいい‼」
そうしてニーナは、無意識に「飛蝗、ダメ、ゼッタイ!」結界を張ってしまっていた罪を償う事になったのであった。
ニーナの願いもむなしく、へっぽこニーナの魔法だけは残念ながらへっぽこでなかったのである。
明日も更新します(∩´ω`∩)
オルガ国王(バルフレアくん58さい しょくぎょうおうさま)はこっちの世界だったらインスタ使いこなしちゃってる系おじちゃん。
アリアの「のじゃ」はお父さん譲りです。
次回、魔王様が会談の後にどこか行くって言ってましたねぇ。
ていうかラウンツさん成分が足りないっ! 発狂しそう!




