みっしょん! 魔王様名刺
看板作りの日に戻ります。
クックック……今日は仕立て屋パウリーで看板作り見学の日……。だが! 私は見事自由を勝ち取ったのだ! ふはははははは!
これは先ほどの朝食時……。
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「えー! ニーナ見学会行かないのー? お客さんが集まるんだよ⁉ 絶対楽しいよー!」
どうやら見学会には魔王様とアーニャ、お兄ちゃん、ラウンツさんが行くみたいだ。
フッ……私はアーニャみたいに飛んで火に入る夏の虫にはならないぞ! 誰が喜んで修羅場なんかに行くもんですかっ!
「私はメイリアさんとエルドラドで重要ミッションがあるから遠慮しておくよ……。いいですよね? 魔王様」
しおしおと魔王様に目で訴えかける。
「おう。あ! 今朝やっとオルガ国王とアレイル国王の会談の日が決まったぞ、5日後だ。俺が食糧をバラ撒いたから早まったみたいだな、ははは! メイリア、卵は孵化しそうか?」
魔王様……二国の王様まで振り回してる……。
「……まだ分かりません……」
「そうか、まぁこればっかりは仕方ねぇな」
「卵の観察ならお任せください! メイリアさん今日も頑張りましょうね!」
私とメイリアさんは卵の観察と魔王様名刺の作製が最優先重要ミッションなのだ!
「……ん……」
「ちぇー。カリンちゃんが暴れたら教えてあげるね!」
アーニャは無視してササッと食器を片付け、メイリアさんとダイニングを後にした。
「午後は暇だからムーバーイーツ行こうぜ!」
魔王様がなんか言ってたけど、すでに階段を下りていた私にはよく聞こえなかった。
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「ククク……やっと、やっと魔王様名刺が作れますね! メイリアさんっ!」
今、私とメイリアさんはエルドラドのリサさんのお家へ向かっている。溜まっていたナイトさんの名刺を受け取るためだ。
そしてフフフ……。
「……ん……リサさんの絵……楽しみ……」
そう! 自由を手に入れた私達は、やっとリサさんが大量に描いた魔王様の素描の中から名刺にする絵を選べるのだ!
魔王様は午前中、仕立て屋パウリーで採寸の見学会。ならば勝負はお昼までの短期決戦だ!
リサさんのお家に着いたので中へ入れてもらった。
「ニーナ、メイリアおはようコン!」
「おはようございます! リサさんっ! 魔王様名刺の絵を! 魔王様が帰ってくる前に早く!」
「う、うん、テーブルの上に用意してあるコン」
リサさんに断りを入れ、一目散にテーブルへ……素描を描いた紙の束が山積みになってる!
「こっちの束がニーナリクエストの『魔王様の微笑み~あの日の思い出~』で、こっちの束はメイリアリクエストの『戦場へ向かう魔王様~凛々しさと切なさと心強さを添えて~』、あとこの1枚はリサ用の『キラキラ魔王様~魔眼の気まぐれ風~』コン! リサのだけもうドルムさんに作ってもらってるコン」
リサさんがピラリと見せてくれたリサさん用のは、素描どころかもはや完成された肖像画として出来上がっていた……。白黒だけでこんな立体的に描けるなんて!
クッ……! リサさんの「キラキラ魔王様~魔眼の気まぐれ風~」も欲しい……でも! 私は子供の頃に見た魔王様の優しい笑顔がいいのだ!
カサカサという音で隣を見ると、すでにメイリアさんが血眼になって素描を選別し始めていた。
「……ッ! ニーナ! 選びきれない! 魔王様が帰ってくるまでに選別出来ないかも!」
メイリアさんがハキハキ喋ってる! 思っていたより時間が押しそうらしい、私も早く選別しなければ!
メイリアさんに短く返事をし、私も素描の選別に入った。
「くっ! こっちの顔は斜め45度! こっちは正面! ……ハッ⁉ う、上からの見下ろし視点……だと……っ⁉」
「……はぁ……はぁ……全部素晴らしすぎる……クッ! ……」
「無理! 無理ですっ! 選べませんっ!」
「……これは史上最高の難題……ッ! ……」
「リサも寝ずに悩んだコン……気持ちは分かるコン……」
そして私とメイリアさんははぁはぁ言いながら震える手で一生懸命1枚1枚素描をめくり、選別していった。
……ミアさん名刺を選んでいた時のアルディナさんの苦悶が手に取るように分かる。1枚しか選べないなんて! 他の素描はどうなっちゃうのっ⁉
「ニーナ、メイリア、そろそろ2時間くらい経ったコン」
「ハッ⁉ もうですかっ⁉」
「……ニーナ、選べそう? ……魔王様は多分暇さえあれば私達をムーバーイーツに連れて行くから……早くドルムさんに頼んだ方がいい……」
メイリアさんの言葉に背中がヒヤリとした……ひぃ! ムーバーイーツ忘れてたっ!
そして私とメイリアさんは最終的に残った何枚かのうちから、たった一枚を断腸の思いでリサさんへ差し出した……。
「ニーナ……手を放してコン……」
「……くっ! やっぱりちょっと待ってくださいぃいいい!」
「……ッ! ……私も……っ! ……」
そして私とメイリアさんは再び素描をじっくりと選び、やっと決断した。
「リサさん……私はこれにします。この絵の魔王様が私に語り掛けてくるんです……『ニーナ、すごいぞえらいぞ頑張ったな』って……ふふ……」
チラ、とメイリアさんを見ると、ふるふる震えながらまたあの猟奇的な笑顔になっていた……。
リサさんが私達を残念な子を見るような目で見ていたけどお構いなしだ。私は今、素描を通してあの日の魔王様と語り合っているのである。
「じゃぁ早速ドルムさんの所に行くコン! あとこれ名刺だコン」
名刺……忘れてた。リサさんへ名刺代金を支払い、三人でドブグロへ。
「ドルムさん~リサの名刺出来てるコン?」
「リサか! 出来ておるぞい!」
ドルムさんがカウンターの奥からバッ! と顔を出した。私達三人も奥の部屋へ。
「ほれ、これじゃ」
ドルムさんがリサさんへ金で出来た魔王様名刺を渡した。
「……っ! 神々しいコンッ! ドルムさんありがとうコン!」
「リッ! リサさんっ! 私にも見せてください!」
メイリアさんと一緒にずずいっとリサさんの魔王様名刺を覗き込む。……いいいいいなぁあああああ‼ 魔王様が5割増しで妖艶かつキラキラに描かれている! 私のも早く欲しいっ!
「ドッ! ドルムさんっ! 私達のもお願いします!」
「うむ任せるんじゃ! もうカードだけは作ってあるからの、次はリサが絵を彫って金細工や宝石で仕上げじゃ!」
「じゃぁ後の事はリサにお任せコン! 出来上がったらニーナとメイリアに念話するコン!」
「はいっ! 楽しみにしてます!」
「……フフ……フ……楽しみ……」
ちなみにリサさんの魔王様名刺は二つ作製したらしい。ひとつはドブグロに飾る見本にするんだって。
ククク……これで魔王様信仰が人族へもジワジワと広がる……。
私とメイリアさんはドルムさんに名刺代金を支払い、名刺発注の興奮もそこそこに今度はエルドラド二階層の実験場へ向かった。
「…………」
あれ? 急にメイリアさんの表情が暗くなった。選んだ姿絵をやっぱり別の物に変えたくなったのかな?
「メイリアさんどうかしたんですか?」
「……春まであと三ヶ月しかない……間に合わないかも……」
メイリアさん……キキュー育成と殺虫剤製造に焦ってるんだ。最初魔王様が半年かかるって言っていた気がする。
「……メイリアさんの試算だと殺虫剤生産完了までどれくらい時間がかかりそうなんですか?」
「……キキューの育成にかかる期間による……殺虫剤製造は二ヶ月かかるとして……キキュー育成は収穫も同時進行しながら一ヶ月以内で魔界とオルガ両方終わらせたい……」
「そうなんですね……」
メイリアさん、焦ってユニークスキルで無茶しないといいな……。
「……魔王様が会談に行く前に飛蝗の実験もしたいのに……」
魔王様が王様達と話をするには、殺虫剤の有効性を証明できた方がいいもんね。
「生き物の事ばっかりはしょうがないですよ……実験出来なくても何とかするって魔王様が言ってましたし!」
「…………うん……」
そうしてこの日はいつも通り、殺虫剤を撒いた土で作物の育成と卵の観察をして、お昼ぎりぎりにディメンションへ帰った。
メイリアさんと、部屋にいたルルさんと一緒に昼食を作って魔王様達の帰りを待つ。
ダイニングテーブルでルルさんに魔王様名刺の話をしていたら魔王様の転移でみんなが帰って来た。
「あっ! ニーナ! 見学会はチョー平和に終わったよ! カリンちゃんが暴れなくてつまんなかったー!」
アーニャが唇を尖らせながら報告してくれた。意外にも修羅場は無かったようだ。
……私はパウリーさん達さえ生きていればそれでいいよ。
「よーし! じゃあムーバーイーツいくぞー!」
ひぃ! 魔王様が張り切ってる! やっぱりメイリアさんの言う通りだった!
第五章が始まってから30話以上書いてるのに、小説内ではまだ四日目……だと? もうすぐ加速していきますw
ボソッ)ストックがヤベェ……ヤベェ……。




