68.道中の出会い 3
「よ、良かった……」
サリエスさんが無事でほっとした。
俺一人だったら、これだけ多くの男性達を相手に戦うことなんて出来なかったかもしれない。例えばサリエスさんが襲われていたとしても、倒そうとして負けてしまうなんて情けないいことになった可能性の方が高い。
「そんなに心配だったの? 女一人で旅をしていれば、こんな存在は居るにはいるのよ」
「……なんか、俺は良い人も沢山いるんだなってそう思っているから、びっくりした」
地球に居た頃から、女性一人相手に複数人で襲い掛かるような犯罪者が居ないわけではなかった。ニュースなどでは見たこともあった。だけど、実際に目の前でこんなことが起こりうるなんて思ってもいなかった。
バレなければいいとか、そういう思考でもあるのだろうか。それとも今が良ければそれでいいとかそういう思考回路? 自分さえ良ければそれで問題がないと、そう思い込む人だって当然存在しているだろう。だからといって無理やり襲い掛かろうとする思考は俺にはさっぱり分からないけれど。
「ヒューガはこれまで優しい環境で育ってきたのね? それなのにこうして旅をしているなんて大変ね」
サリエスさんはそう口にしながらも、俺のことを聞いてはこない。……本当に敢えてだろうな。過去のこととか聞きたがる人ってきっといるのだ。こういう場面に遭遇して、あまりにも俺が世間知らずな様子を見せればそれだけ気になるものだとは思う。
実際にサリエスさんは俺のことを気にしていないわけではないだろう。……ただ、聞かないでいてくれているだけ。
だからこそ一緒に居て落ち着くというか、楽なのだ。
俺が今の状況で落ち着いているのも、サリエスさんが平然としているからというのもあるし。
「サリエスさん、この人たちはどうするんだ」
「無罪放免だと、そのまま同じことを繰り返すだけよ。だからこういう場合はこのまま見殺しにするか、しかるべき場所まで連れて行って罰を受けさせるかのどちらかよ」
そう言って、サリエスさんは俺の方をじっと見る。
「どちらがいい? 私はこのまま殺してしまってもいいけれど」
「……出来れば、ちゃんと罰は受けて欲しいな」
俺は結局、まだまだこの世界に慣れていないのだとは思う。どうしてもこう、出来れば人を殺したくないとか、無用な殺生はしたくないとかそんなことを思ってしまう。俺は甘いのだろう。それでいて恵まれているから、こういうことを望んでしまう。だってもっと切羽詰まっていればこんな風に誰かの命を助ける選択肢なんてきっと出来なかったはずだ。
……サリエルさんはこんなことを望む俺に、飽きれているだろうか。
「それならばこの男たちを脅して連れて行くわ」
「……脅す?」
「まさか、勝手についてくると思っているわけじゃないでしょう? 街へ連れて行くにしても説得をしなければならないわ。とはいえ、女性に襲い掛かるような存在が簡単に言うことを聞くわけないでしょう」
簡単にそう言われて、そこまで思い至らなかった自分に恥ずかしくなる。
……言葉を交わせば、何でも上手くいくなんて幻想である。確かに語り合えば分かり合うことは出来るかもしれない。
ただこの男たちは明らかに一線を越えているのだ。
未遂というわけではなく、実際にサリエスさんに襲い掛かったr年中だ。だからこそ、まともではない。というか犯罪者だ。サリエスさんにあれだけ躊躇なく襲い掛かったというのならば明らかに前科はあるだろう。
これまでどれだけの者達が泣き寝入りしたのか、命を落としたのかと考えるとぞっとした。
サリエスさんが戦う力があって、反撃出来たからこういう結果に繋がっているだけであって……そうじゃなかったら……。
俺のことも邪魔だと殺してしまったかもしれない。サリエスさんだって最悪な結末になったはず。
多分、そういうことってこの世界では割とありふれているだろう。本当に大変な世界にきてしまった……と改めて思った。
「じゃあ、俺も頑張る」
サリエスさんは俺の望みを聞く必要はない。この男たちをそのまま殺してしまったって誰も責めないだろう。だってこれは紛れもない正当防衛なんだから。だからといってサリエスさんに甘えてばかりではいけない。というか、それは俺が嫌だ。
俺はこの世界でこれからも生きて行かなければならない。帰る術などないし、もっとこの世界に慣れる必要がある。
いつか一人でこういった連中の対応をしなければならなくなる日もきっとくるだろう。
――その日に備えなければならない。俺は一人でもなんとかできるようになりたい。
そう思ったから男達への脅しは頑張った。なるべく威厳を出して、恐ろしい風に思わせて……。といっても上手く行ったかといえば微妙。大分、サリエスさんの力は借りた。
彼らはサリエスさんに恐れをなしたらしい。
ちなみに街に到着するまでの間に襲い掛かってこられたりもしたけれど、なんとか対応した。
サリエスさんが居てくれてよかったなとそう思った。




