第三章 離宮暮らし ②折衷案
中途半端な部分で止めてしまっていたので、同日更新することにしました。
よろしくお願いいたします。
「――つまり、キリアは殿下から離れられないということになるのか……!?」
説明を聞いた父様は、この世の終わりかのように悲壮感たっぷりの表情で、ジェイシス様に詰め寄る。
そして、キース兄様も語気を強め、畏れ多くもグウェン様に詰め寄っていった。
「殿下! キリアの意思を尊重するのではなかったのですか!? これでは王命となんら変わらないではありませんか!」
確かにキース兄様の言い分は正しい。
けれど、私は仮誓約を結んだときにグウェン様とずっと一緒にいるとすでに決めている。
だから、私としては特に問題はないのだけれど……。
それに本来は婚約した段階で相手の家に入るのが普通だと母様も言っていたし、むしろ実家に居続けるほうが外聞が悪いのではないかと思うくらいだ。
「キース、私は既にキリアの意思を聞いている。キリアは私と共にありたいと、ずっと一緒にいると言ってくれている。だから、何も問題はない」
私も思っていたことではあるけれど、グウェン様の口からハッキリ言われてしまい、思わず頬が熱くなる。
「き、キリア、それは本当なのか?」
「……はい、本当です。仮誓約の後に、そうお伝えしています……」
私が赤くなりながらそう言うと、キース兄様は愕然として、崩れ落ちた。
カイン兄様はというと、私を抱えたまま泣き始めてしまった。
「キリア〜〜」
そして、父様はジェイシス様の肩を掴んだ状態で、呆然とこちらを見て固まっている。
肩を掴まれているジェイシス様はなぜか若干嬉しそうだ。
「き、キリア……」
「まあ、そういうことだ。だから問題はない。むしろ、私と離れて今回と同じような事態になることは避けなければいけない」
「……それはそうですが」
「すなわち、キリアにはしきたり通り、我がサージェスト公爵邸に入ってもらう。王都の屋敷であれば、私が王宮で仕事をしていても問題ないだろう」
意気揚々と嬉しそうに話すグウェン様に、父様たちは苦虫を噛み潰したような顔になっている。
「……殿下、例え王都であっても、距離を取ることに問題はないのですか?」
キース兄様の質問に、思わず私もハッとする。
どれくらいの距離まで大丈夫かという実験もしていないのだ。もちろん、そんな実験をするつもりはないが。
現状、王宮と王都の郊外にあるアーヴァイン公爵邸までの距離はダメだということははっきりしているけれど、どこまでなら大丈夫ということはわかっていない。
それに、その距離がずっと一定であるとも限らない……。
「ジェス、どうなんだ?」
聞かれたジェイシス様は、眉間に皺を寄せ、唸り出した。
数秒の沈黙が流れたのち、眼鏡をくいっと上げながら、言葉を選んで話し始めた。
「……正直、ハッキリしない点が多すぎる。安全を考えるのであれば、なるべく殿下との距離を離さない方が良い。殿下が公務や仕事をせず、同じ屋敷で過ごすのであれば問題ないが……立場的に難しいだろうな」
「では、どうすれば良いのだ!?」
てっきり王都内であれば大丈夫だろうと踏んでいたグウェン様が、慌てて声を上げた。
「現状、はっきりしているのは、王宮と離宮の距離であれば問題がなかった、というくらいです」
そう言ってから、ジェイシス様は何かを思いついたようにポンと手を叩く。
「――では、いっそのこと、離宮に住むというのはどうでしょう?」
急な提案に、私は思わずグウェン様を見る
同じように私を見たのか、なんとも嬉しそうに破顔するグウェン様と目が合ってしまった。
――相変わらずイケメン!! じゃなくて、離宮で二人で暮らすってこと!?
サージェス公爵邸でも二人で暮らすことに変わりはないけれど、公爵邸と離宮では大きさが違う。
元々第二王妃が住んでいた離宮なだけあって、立派な建物ではあるのだけれど……王族が与えられた公爵位の屋敷に勝てるわけがない。
離宮はあくまでも離宮なのだ。
そんなところで二人で暮らすなんて、前世の同棲とそう変わらないじゃない!!
「それは良いな! 私は賛成だぞ!」
眩しいほどの満面の笑みを浮かべ、グウェン様はノリノリだ。
一方の父様は、イケオジが台無しなほどに、凶悪な表情で激怒した。
「ジェス!! 離宮での二人暮らしなど、許容できるわけがないだろう!!」
「まあサイならそう言うだろうと思ったよ……」
父様の抗議に愛想笑いをしながら、まあまあと手をあげていなすと、少し考え込んだジェイシス様は再び何かを閃く。
「じゃあ、殿下にはこの王族居住区のお部屋に住んでいただいて、キリア嬢だけ離宮で暮らすというのはどうだ?」
「……う〜ん……それならまあ……」
凶悪顔のまま渋々という感じであまりいい顔をしない父様にジェイシス様がもう一押し言葉を付け足す。
「離宮であれば、ジェスたちも仕事のついでに気軽に会いに行けるのではないか?」
「……おお! 確かにそうだな! 王宮には毎日出仕しているし、いつでも会える!」
ジェイシス様と父様は私の気持ちなどお構いなしに、どんどん話を進めていく。
さらにはそんなやり取りを聞いていたキース兄様が嬉々として声を上げた。
「サージェスト邸でも毎日通う気でいましたが、離宮に一人ならきっと寂しいでしょうし、私たちが会いに行かねばですね、父上!」
「そうだな! 毎日会いに行かねばな!!」
先ほどの凶悪顔はどこへやら、ニコニコと嬉しそうにキース兄様と離宮訪問の計画を相談し始めた。
カイン兄様は状況がよく飲み込めていないのか、「え? どういうこと?」と私を抱えたままキョトンとしている。
とりあえず、カイン兄様に「私は王宮の離宮で暮らすことになるみたい」とだけ伝えてから下ろしてもらい、私はグウェン様の様子を見にベッド脇の椅子に腰掛けた。
カイン兄様は「え!? 何で??」とオロオロしていたけれど、それよりも私がどうなるかはグウェン様にかかっているのだ。
そんな思いを知ってか知らずか、グウェン様は私が近くに戻ってきたのが嬉しいようで、私の手を取ると、満面の笑みを向けてくる。
――ああもう、ほんとこの人がイケメン過ぎるのがいけないのよ……!
グウェン様がこんなイケメンじゃなかったら、いくら妥協したとしても、きっと番いの契約なんか結んでないだろうと、ふと考えてしまう。
するとそこへ、ようやく父様から解放されたジェイシス様が私たちに声をかけてきた。
「という訳です、殿下、キリア嬢。いかがでしょうか?」
ニコニコと笑顔でそう告げるジェイシス様の表情が、どこか胡散臭い。
「なあ、ジェイシス。なぜアーヴァイン公はあんなにも離宮で二人で暮らすのを反対しているのだ? 仮とはいえ、もう番いの契約を結んでいるのだ。何も問題ないではないか」
――ちょっと、何を言い出すの!? 狭い離宮に二人きりなんてまだ心の準備が……!
私の心の中で葛藤していると、ジェイシス様がその声を代弁するかのようにピシャリと言い放つ。
「大アリです! キリア嬢はまだ未成年ですよ。あの狭い離宮で二人きりなど看過できるわけがないでしょう。成人までは我慢してください」
「うう……」
強く言われたグウェン様は、しょんぼりと項垂れたものの、納得はしてくれたようで、一安心だ。
――ジェイシス様グッジョブ!
こうして私は離宮で、グウェン様は王宮で、それぞれ暮らすことになったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
あれよあれよという間に、離宮暮らしが決まってしまいました。
離宮で一人暮らすことになったキリアですが……一人で平和に暮らせるわけもなく、スタートからドタバタです。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
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