第五章 攫われた番い ⑤発見(グウェン視点)
本日は3本更新予定です。まずは1本目。
引き続きグウェン視点です。
自分の魔力を辿ってキリアを探し始めたところからです。
◆グウェン視点◆
目を瞑って、キリアの中にある私の魔力を辿る……。
サージェストの領地や屋敷には、私自ら結界を張っているので、私の魔力が充満しているのは当たり前だが、この王宮内にも私の魔力で結界を補強している場所が何箇所かある。
そんな場所を避ける形で探し始める。
魔力を辿るというのは、本来とても難しいものだ。
だが、今回はすぐに見つかるだろう。
私は獣人で、魔力が純人とはかなり異なる。
今まで誰かに対して魔力を与えたことはなく、番いであるキリアが初めてだった。
──あの時。
キリアが制約魔術で苦しんだ際、私は治癒魔法で彼女を癒そうと試みた。
ところが、魔力抵抗がほぼ無い状態の彼女に獣人である私の魔法は強すぎた。
そのため拒否反応が出てしまい、さらに制約魔術を強める事態になってしまった……。
──正直、私はとても戸惑った。
そこで、枯渇している彼女の魔力炉(魂にある魔力の根源)に私の魔力そのものを与えたのだ。
それによって、制約魔術は落ち着いたのだが……。
本来獣人の魔力は特殊で、純人には強すぎて害を及ぼしてしまうため、普通の人間に与えることはできない。
だが魔法であれば、魔力から変換する際に調整できるので、まだそんなに問題はなかった。
それに人に直接与える魔法など、そもそも治癒魔法くらいのものだ。
問題なのは、魔力そのもの。
強過ぎる魔力は、普通の人間に与えると、身体はもちろん、魂を侵食していく。
だが、番いは特別だ。
番いの場合は、魂自体が普通の人間とは異なる。
獣人は、番いの契約の際に、番いの魔力(魔力炉も含む)を自らの獣人の魔力で染め上げる。
そのために、番いの魂は、自身の番いである獣人の魔力に対しては抵抗が無いのだ。
だからまさか番いであっても、枯渇状態で私の魔法を浴びると、拒否反応が出るとは思わなかった。
あの日の翌日、ジェイシスに詳しい話を聞いたところ……
どうやら身体に魔力が巡回していない状態だと、普通の人間と同じ反応になるらしい。
それを知らなかったせいで、彼女を苦しめてしまった。
咄嗟の判断で、魔力炉に魔力を与え、なんとかなりはしたものの……。
いずれは番いの契約をして、私の魔力で染めるつもりではいるが、まだキリアから承諾を得ていない。
そんな状態で、応急処置とはいえ、勝手に染める準備を進めてしまったのだ。
後からそれに気づき、キリアに対して後ろめたい思いを抱えていたのだが……。
まさかこんなことになろうとは──。
だが、そのおかげで、キリアの中にある魔力は私自身とほぼ変わらないほど濃度が濃い。
僅かな量の魔力であっても、発見することはできそうだ。
目を瞑ったまま、さらに範囲を広げていく。
──見つけた!
思った通り、あっという間に彼女の位置を特定できた。
キリアは、とある国──我が国ルナリアの属国アテルナ帝国との国境付近にいることが判明した……。
「アテルナ帝国だと!?」
「アテルナですと!?」
見つけて思わず出た私の声に、アーヴァイン公が反応する。
そして、彼にはそれだけですべてが伝わったようだ。
アーヴァイン公と視線で会話し、ふと横を見ると、おずおずとジェラルドが声を掛けてきた。
「……殿下、まずは国王陛下にご相談を……」
彼の進言もわかる。
だが、国境付近ということは、国を出られてしまっては、厄介だ。
すぐにでも動かなければ……!
それにこれはもう『番いとして攫われた』とほぼ確定したようなものだ。
アテルナ帝国は側妃であった我が母の祖国であり、私が番いを得ること、力を得ることをもっとも切望する国なのだから──。
「陛下には念話で大丈夫だろう。すぐに出る!」
私がそう告げると、公爵が侍従に指示を出しながら反応する。
「先にアテルナとの国境を封鎖する手配をいたします!」
「ああ、そちらは任せた!」
私の返事に公爵は頷き、キースを連れて部屋を出て行った。
アテルナの名前を出しただけで、公爵とキースは犯人に気づいたらしい。
──もうすっかりいつも通りのアーヴァイン公だな。
そして、どうやらカインはこちらに加わるつもりなのか、私をじっと見つめている。
「国境へ向かうぞ。我が番いを攫った愚か者どもにわからせてやらねばな!」
「私も共に参ります! 殿下、ご指示を」
カインはそう言って跪くと、アーヴァインの騎士団ごと私の指揮下に加わった──。
お読みいただきありがとうございます。
ようやくキリアを見つけました。
そして、犯人も、その目的も見えてきました。
この章はここで終わりです。
次の章は再びキリア視点からスタートです。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




