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第九話

おひさしぶりの「ふれんず」です。


流れのままに書いたので、いつか修正するかもしれませんが、お楽しみください


 高円みどり、ふれんず内では「妹」キャラで通っているが、現実として彼女は一個人である。

 悩みもあるし困惑だってする。


 そう、目の前の少女達に言い寄られて困っているのもそうだが、彼女たちが共通の問題を抱えている上にその一件をすべて解決してほしいと頼られているのだ。

 彼女たちの問題は「結婚」。

 それも一人の王に妾として嫁げと求められ言われているのだ。

 それを断れば、西の大国である軍事国家の力で無理矢理併呑されるというのだ。


 受け入れても平和に併呑、断れば戦争で併呑。

 全く選択肢がない彼女たちであった。

 で、ゲームとは言え非道が許せない性格の彼女もまた苦しんでいた。

 せっかく伸び伸びとゲームができていたのに、ここで氏族を巻き込んだ戦争に突入させてしまうのか、と。

 悩みに悩んだ末にエルダーである兄に相談したところ、ニコヤカに微笑まれた。


「そんなゲス野郎は逆さつりだギロチンだぁ」

「え?」


 おもわず兄の顔を見るが、ニコヤカな笑みのままだった。


「まず、みどりとタカネちゃんで陸戦部隊ね」

「わかりましたわ、エルダー。熊の海(ベアーズ・シー)ですわね?」


 なんとも頼りがいのある笑顔のタカネ様。


「俺とガンさんと鶴見ちゃんは海から、こう、鯱に乗った少年風で」

「おっけーです。ところで、シャチミサイルはアリですか?」

「あれ、単に投げてるだけだろ?」


 にこにことした鶴見ちゃん、疲れた顔のガンさん。


「後の皆さんは、出たとこ勝負の流れ任せと言うことで!!」

「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」


 深い悩みに中にあった筈の少女は、いつの間にかギロチン祭りの企画提案者としての位置に収まり、タカネから貸し出された「熊神輿」の上で、姫たちをはべらす「何か」にされていた。




 時を同じくして、西の果てまで紛れ込むことに成功したエルダー連合は、ここで初めて「氏族:斜め下」の影響の無い地域に到達したと喜んでいた。

 加えるに、斜め下の物資であるシャチ・熊・トラ等の素材も流通していないことから、エルダー連合素材も十分通用し、その価値と財貨を高め始めていた。

 ここに着て初めて、エルダー連合は「ふれんず」内人間をNPCではなくネットワーク人類という感覚で見られるようになっていたのだが、いまだ成熟にはいたっていない不幸もある。

 ゆえに、こんな話も信じてしまう。


「・・・つまり、周辺各国との有効のための婚姻外交をしたが、すべて断られてしまっている、と?」

「ふむ、われらは友好と融和を求めているだけなのだがな」


 現実的な話で言えば、「融合併呑」と「同化侵略」なのだが、そんなことを正直に言う侵略者はいないわけで。

 西の国の常備軍よりも遥かに強力な兵力を持つ「エルダー連合」と同盟を結び、周辺各国からの圧力に対して対抗する手助けがほしいという話を、そのまま飲み込んでしまったエルダー連合。

 それは、今まで関わらないことで避けていた、ひどい現実との対面といえる決断であることを誰も知らない。







 なんだろう、一面の熊が海のようで。

 熊の海(ベアーズ・シー)とはよく言ったものだと神輿の上で感心してしまった。

 すべては氏族を変えたタカネ様のスキルなのだけど、タカネ様は私の為ってことで喜んで熊の海(ベアーズ・シー)を指揮している。


「さぁ、わたしの熊ちゃんたち! 色狂いの軍事大国を倒しますわよ!!」

「「「「「ぐがぁーーーーーーーー!!!!」」」」」


 二本足で立ち、腕を振り上げる熊たち。

 ちょっ遅れたのは大熊猫。


「もう、白黒ちゃんってば・・・」


 いやんいやんと体をくねらすタカネ様が微妙すぎる。

 いや、真実を明かそう。

 私の周りに侍る姫たちが、微妙だ。

 なんかうちの学校の後輩みたいで。


「勇者様、勇者様、圧倒的勢力ですわね!」

「ああ、勇者様におすがりして正解でしたわ!!」

「このまま私たちを召し抱えてくださいませんか、勇者様ぁ」

「「「「ゆうしゃさまぁ~♪」」」」


 物凄く逃げたい。

 心の底から逃げたい。

 でも、このイベントで私が逃げたら、氏族全員から追われてしまう気がする。

 そしてぐるぐる巻きにされた状態で神輿に再び据えられて、全く自由の無い状態でイベント映像を眺めさせられるのだろう。

 うん、そんな状態になるなら、一応の自由のある状態で神輿に乗ってた方がましだわ。


「さぁ、全軍に声を!!」


 ほんのり頬を赤らめて出来上がった風のタカネ様に乞われるままに私は立ち上がった。

 視界の範囲全部「熊」。

 正直、これを従えたタカネ様ってチートだよね。


「・・・諸君はしっているだろうか? この世で許せぬ悪があるという事を。食事の途中で邪魔をする、寝ている時間を邪魔をする、そんな悪があることを知っているだろうか?」


 なんとなく適当に始めた演説に、熊たちの熱意が高まっているのを感じた。


「私は知っている。美味しいご飯の邪魔をする悪を、気持ちの良い昼寝を邪魔する悪を!!」


 盛り上がり欠けた熊を手で制する。


「・・・そして!! そして、おのが力によらない悪で女を得ようとする悪が居る。許せるか?」

「「「「「がぁぁぁぁぁ!!!」」」」」


 怒りの返答が帰ってきた。

 そう、彼らには許せないものだから。


「そう、それは悪だ。悪にはふさわしい結末が必要だ。我らは悪を叩き潰す一振りの爪だ。結末を描き出す大いなる爪だ!!」

「「「「「・・・・・・・・!!!!!!!」」」」」」


 声にならない叫びと言葉にならない波動が満ち溢れていた。


「熊、前進!!」


 その号令で熊たちは進みだす。

 いまだ見えない城壁を食い破る為に。


「素晴らしい演説でしたわ、ミドリさん」

「あー、まぁ、のりでした」


 悪乗り、かもしれないが、大いなる熊の海はそれに答えんと前進し、そして全てを呑みこもうとしていた。








 足こぎ戦艦は現在12隻。

 砲台はない代わりに帆もない。

 まるっきり武装がないかのように見えるが、実際は魔法の駆使や体術の駆使、そしてまんま凶悪な魔物を生かしたまま投げ込むという蛮族戦法を行うための空母のようなもので。

 この世界の軍艦とは真っ向から違う戦略思想であるが、ふれんずにとってはこれが最強であった。


 いや、「斜め下」にとって。


 すでに軍事国は海上封鎖されており、虎の子戦艦も5隻ほどあったが、今は海の藻屑。

 大量に投げ込まれた鯱に食い荒らされ、船も乗組員も全て海洋資源に還元されてしまっている。

 というか、船だろうと船員だろうとガツガツ食べる鯱の餌なわけで。

 で、レベルの上がった鯱を再び弾丸として使う「斜め下」は、鬼か悪魔かという存在に見えないことも無い。


 やっていることはさて置き、斜め下の氏族は笑顔で、深い闇を秘めた笑顔で侵攻しており、その恐怖が海洋軍事国内に響き渡る。


 なぜ、そんな悪鬼がこの国を襲うのか?

 なぜ何もしていない我が国が襲われるのか?

 各国はこの蛮行を見逃している理由は何か!?


 まさか自国が周辺国へ軍事侵攻していたなどと知らない国民は、猛烈な被害者意識を膨らませていたが、その答えを持っている者はいなかった。

 なにしろ既に海洋軍事国への侵攻は商人たちの噂になっており、他国の商人たちは一様に姿をくらませていたから。








 エルダー連合は非常に困惑していた。

 放出した素材の売れ行きが落ち、各国の商人たちが居なくなり、そして軍事国の商人たちが買いたたきを始めたから。

 いや、エルダー連合の持つ他国の通貨を得ようと、どんどん売り込みに来てもいる。

 品物としては回っている感じはあるが、どちらかというと刹那的な商売に感じているものがあった。


 たしかにこの国は周辺国と事を構えているだろう。

 しかしそれは和平の道も存在するものだ。

 穏当に交渉しつつ交流をし続ければ、現状維持を続けられるはずなのだ。

 だが商人たちは逃げ出した。

 何を考えているのかもわからない、と、


 そんな中、兵たちが大慌てで城まで駆け込んでくる。

 何事かと事情を聴いてみれば・・・


「城の外の平原を埋め尽くすほどの熊が!!!」


 何の冗談かと城壁に上って驚いた。

 いや、背筋が凍った。

 そう、見渡す限り、視界の限り、地平線の彼方まで続く熊の海。

 大きいモノも居れば小さいモノもいる。

 白黒柄のモノもいるしヘルメットをかぶっているものや服を着ている者もいる。

 しかし、すべては熊。

 すべてが熊。

 そう、エルダー連合撤退決定の瞬間であった。



「く、く、くまーーーーーーーーーーー!!!!!(AA省略)」



 数多くの氏族を恐怖させ、エルダー連合が引きこもり状態になった主原因の熊の海。

 それが城下に展開しているとなれば、もう心は折れまくり。

 状況を察した氏族たちは次々とログアウトしてゆき、ポ-タル登録なしで完全撤退を決め込んだほどだ。

 それは死に戻りと同義であり、所持品の一部がばら撒かれることになったわけだが、経験値が失われる訳ではないと割り切っての撤退。

 恐怖やトラウマをガリガリやられたエルダー連合氏族たちの撤退は半数に上り、戦力は格段に低下することになったのであった。


 が、踏みとどまった氏族も続いて起きた怪異に怯えることになる。


 そう、なぜか空から鯱が降ってくるという怪異に。



「ぎしゃーーーーーーー!!!!!!」

「「「「「ぎゃーーーーーーー!!」」」」」



 まさかの逆境に半ば切れるように王宮に駆け込むエルダー連合であったが、まさかまさかの逆切れ。


「何のためにフレンズを結んだと思っておる!! この場で果ててでも我が国を守ってもらうぞ!!」


 この対応には正直やってられないと、幾つかの氏族が連合を抜けた。

 そして・・・。


「我々は今、逆境にあります」


 氏族会議は現状の打破を提案し、そして決意した。


「われわれはフレンズ契約を破棄し、撤退します」


 反対はあった、しかし我が身が可愛い事はリアルと同じく。

 というか熊が怖すぎた。

 一方的な条約破棄と違約金を支払って、エルダー連合は軍事国を早々に撤退した。

 帰還は始まりの街。

 何処よりもマシだという判断であった。


 そしてエルダー連合撤退の二時間後、熊と鯱と虎の集団に襲われた西端の地は廃墟へと変わった。

 住民たちに大きなけがはなかったが、このような事態を招いた国王たちは貼り付けにされ、まさに吊るされたのであった。



 有言実行、「斜め下」はかくありけり。








 周辺諸国連合勝利の式典において、「斜め下」選出の勇者は、各国の美姫との婚姻が結ばれることになった。


「なんでぇ!!」(妹)

「勇者だもの」(兄)


 冷たいエルダーの一言に打ちのめされたミドリ勇者であったが、周辺の姫たちはデレデレであった。

 ゲーム的に言えば、好感度マックス。

 というかゲージが振りきれて計測単位をクラスチェンジしてもなおマックスという状態のため、他の男を宛がうとかいう話になれば自害するレベルでもあった。

 各国王たちも姫をおっ付けることで周辺国との協調が取れるならよしという判断になっており、万歳三唱で送り出していた。


 各国の協調の地ということで、元軍事国の城下町が勇者が治める町として確保され、地位としても「公国」として認められた。

 つまり、


「公爵様だ、妹よ」

「・・・勘弁してください」

「勘弁しない」

「がーーーん」



 ともあれ、美人の嫁さん貰って国があって城があって、何が問題なのかとエルダーが聞くと、血の涙を流さんばかりに叫びをあげるミドリ勇者。


「あたしは、おんななんだぁぁぁぁ!!!」

「そういう結婚もあるでしょう?」

「ああ、珍しくないな」


 リアル両親出席の元、行われたネット内結婚式で、妹は大いに打ちひしがれることとなったのであった。



 合掌。



 ともあれ、妹命名:斜め下公国は現在絶賛活動中。

 軍事国が伸ばしていた海外交流にも割り込んで、大いに活動レベルを高めている。

 初めは抵抗していた妹も、最近では諦めたらしく自棄になって公務をこなしている影響か、嫁さんたちも機嫌がいい。

 うん、美人との生活だ、喜べよ妹。


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