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Ꮚ・ω・Ꮚメー (パンの耳)  作者:


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14/21

【振り返り】食べられる宇宙

 アイテムボックスから出したフルーツサンドの鑑定データは、


 六合りくごうのフルーツサンド

 食べられる宇宙

 天魔すらも大悟へ導く

 レアリティ :レジェンダリー

 品質    :無窮

 食事効果  :バイタル全回復

        メンタル全回復

        覚醒(1時間)  


 となります。

 六合というのは上下と前後左右、つまり全方位、全宇宙をさす言葉だそうです。

 食事効果の覚醒については長押ししても何も説明が出ない謎の効果となっていますが、フルーツサンドをンメンメンメンメンメメメメメメ、と食べたバロメッツたちが一時的に虹色に光り、普通の羊くらいの大きさまで巨大化。

 私のほうは頭の芯が冴え渡るような感覚とともに、頭に金属製の猫の耳のようなものが二つ生え、プライバシーキャップが外れてしまいました。

 同時に、


『注意力』

『判断力』

『洞察力』

『集中力』

『実現力』


 というランク表示のない謎のスキルが一時的に付与されます。

 注意力は知覚・認知能力の強化。

 判断力は判断速度の加速。

 洞察力は理解、推論能力の強化。

 集中力はプレッシャーや思考ノイズなどの無視。

 実現力は他の四つの能力で導き出した結論を実行するためのステータス強化となるようです。

 一応最初に作った時に食べているので、初見の効果ではありません。


 メラメー  (覚醒の時来たれり!)

 メララメー (今我ら、新たな領域に至らん!)

 メラメラメー(羊三匹集まらば刮目して見よ!)


 丸い目を燃えるように輝かせたバロメッツたちが空高く駆け上がっていきます。

 実際のところ上昇する必要は特になかったそうですが、そういうテンションだったそうです。

 その間に私も上着を脱いで、アイテムボックスに収容しておきます。

 三匹は空中で光の粒子に変わって急降下、私のところまで降りてきて。


 メエェ! (ホワイトコート!)


 まずはワトソンが白いコックコートに。


 メメェ! (ブラックエプロン!)


 続いてレストレイドが黒いエプロンに。


 メェ!  (アッシュベレー!)


 最後にホームズが灰色の帽子になって私の頭に乗りました。

 生えてきた猫耳を通す穴も開いてます。

 六合のフルーツサンドの効果で従魔としての格が一時的に上昇し、装備化という能力が発現したそうです。

 元々が木綿の塊のようなモンスターなので、変化できるのは自動的に衣類となります。

 

「バロメッツ三匹が装備化!」

「最上位の従魔しか持っていない稀少能力となります」

「これはコックコートにエプロンと帽子……かわいい」

「……完成度が高いですね。このタイミングで出てくるのは明らかに場違いではありますが、今回はもうメイドさんやメ神やマッチョマンやヤクザやメスガキなどが出てきていますので今更でしょうか」


<やはり美少女であったか……>

<メカニカルネコミミキッチン装備とは思わぬ属性が生えたものだ>

<真顔かあいい>

<いや、確かにかわいいけど……そこは問題じゃない>

<存在感がおかしい>

<配信越しでも明らかに圧が違う>

<ゴーシュの旦那の演奏がまだ止まったままだ>

<チェインバー様も止まってる>


 実況やコメントが届いていたわけではありませんが、人前でこういう「お料理をします」というような服装をするのは初めてです。

 少し気恥ずかしくなりましたが、今やるべきことは決まっています。


「動きます」


『集中力』を活かして羞恥心をカット。移動を開始します。


「P選手移動を開始! アーマード・ウィッチを破壊したチェインバー池照を標的に定めた模様」

「アスリート系の冒険者を思わせる速度で戦域に突入!」


<なんだこの動き>

<脳がバグりそう>

<古のTASみてえ……>

<つーか縮地スキル使ってねぇか?>

<壁走りも少し>

<どういうクラス構成になってんだ>


『注意力』『判断力』『洞察力』で選んだ最短コースを『実現力』で補正をかけて走った結果、アスリート系の走行スキルや武術・忍術系の歩法、走法スキルの挙動が入った怪しい挙動になっていたそうです。

 全速で舞い戻ったのですが、その時にはもう、アーマード・ウィッチは動かなくなっていました。

 その巨体はひしゃげて半壊、両足首はちぎれ飛び、右の手首から先も吹き飛んでいます。

 パワードスーツの末端部なので『中の人』の切断面などが見えていないことが救いでしょうか。


「……戻ってきちまったか」


 やはり大きく変形した格好で転がり、煙と火花をあげていたアンモナイオが声をかけてきました。


「大丈夫、ですか?」


 大丈夫には見えませんが、他の言い回しが思い浮かびませんでした。


「こいつは遠隔操作モジュールだからな。全壊しても問題はねぇ。ウィッチのほうも中身に怪我はない。あんただけは逃がしたと思って気持ちよく気絶してる状態だ。このまま終わりでも本人的には納得できてたんだが、戻って来ちまったか」


 アンモナイオはほろ苦い調子で言いました。

 戻ってこないほうが良かったような口ぶりに聞こえましたが、どういう意味か聞いている余裕はないようです。


「恐縮ですが、戦闘状況でのご歓談はお控えくださいますよう」


 静かに告げたチェインバー池照が、黄金の箒二本を左右に伸ばし地面につけました。


「双星棍最大出力、広域破壊洗浄を開始いたします。ご寛恕ください」

「他所様のことはいえねぇが、ロボみてぇな喋りだ」


 双星棍竜巻と渦巻が暴風と水流を噴き出してチェインバー池照の身体を持ち上げ、天高くそびえ立つ大渦と竜巻の複合体という、天変地異めいたものを作り出してゆきます。


 メェ (それはもう洗浄とは言うまい)

 メエェ(ただの破壊兵器だ)

 メメェ(これだから東京のメイドは)


 衣装モードになったバロメッツたちが軽口を叩きます。


「チェインバー池照、広域破壊モードに突入!」

「メイドさんVSパン屋さん! 字面はかわいいが破壊規模はかわいいでは済みそうにありません!」


 実況の声がヒートアップしていきます。


<いや、これはもう……>

<どうすんだこれ>

<派手でいいっちゃいいんだけどさ>

<レイドバトルとかじゃないと許されんだろこんなん>

<ラスボスだよこれ>

<ゴーシュの旦那連れてこい>

<同じ陣営なので無理である>

<メガネの暴走が止まったと思ったら今度はメイドが暴れておる>

<最後にはマッチョが控えている>

<もうだめだ>

<おしまいだ>

<ゾディアック持ちを制限無しで出しちゃダメってお母さんいったでしょ!>


 チャット欄は大勢は決したとの認識のようです。

 こちらはアイテムボックスからキャンプ用の給水タンクとハイテーブルを出して手を洗うと、未発酵の状態でストックしておいたアンパン用の生地を取り出しました。

 

「P選手、給水タンクとテーブルを出して、手を洗う……?」

「あれは調理用のバットでしょうか。中には小麦粉と、砂糖に塩、卵、牛乳の混合物……パン生地?」

「この状況で、パン生地?」

「さすがに理解の難しい挙動ですが成算はあるのでしょうか」


<いやいや……>

<さすがに意味わからんすぎる>

<ゴーシュの旦那のチェロじゃねぇんだぞ>

<逆に考えるんだ。ゴーシュの旦那クラスならなにか意味がある>

<ゴーシュの旦那クラスならな>

<あの、そのゴーシュの旦那がさっきから演奏止めて腕組みガン見の構えなんですがどう解釈すれば……>

<なにを見せられてるんだ一体……>


 実況サイドとチャット欄が混乱の声をあげます。

 ワイヤーフレーム型のアイテムボックスを使ってパン生地を瞬間発酵、パン生地をぽんと二倍にふくらませるような勢いで一次発酵を終了します。

 名前はアイテムボックスなのですが、ワイヤーフレームモードの場合は任意の座標に発酵用の特殊フィールドを構築できます。


<なんだ今の発酵速度>

<一時間分は時間を飛ばしたぞ>


 発酵工程の異常加速に気づいた料理系視聴者がそんなコメントを出していました。

 その一方で、目の前のチェインバー池照の大渦竜巻がその規模と勢いを増して行きます。


「チェインバー池照の大渦竜巻がさらに拡大!」

「大ガードエリアそのものを壊滅させる勢いです!」


<こんなお掃除は嫌だ>

<単なる災害である>


 拡大を続ける暴風、津波のような水流が巨大な壁のように押し寄せてきて、


 ドヤメェ   (残念だが、ここはキッチンだ)

 ドヤヤメェ  (安全セーフティーかつ平和的ピースフル文化的カルチュアルな生産的空間)

 ドヤドヤメェ(破壊的な行為は受け付けない)


 三角錐型の、見えない壁に阻まれたように通り抜けてゆきました。


「P選手、広域破壊洗浄を謎のバリアでやりすごし、調理を継続!」

「バリアというより空間定義を変更しているようです。P選手を中心に空間定義を戦闘行動禁止のセーフティーエリアに書き換え、PvPフィールドからの攻撃をシステムレベルでブロック」


 概ね皆頃シオンの解説通りですが、実際に書き換えを行ったのは衣装モードになったバロメッツたちとなります。

 当人(バロメッツ)たちによると、私の調理活動を補助し、試食し、調理活動を阻害する一切のものを排除し、満喫し、堪能する『厨房の守護羊』というべき存在になっているそうです。

 食べる要素がかなり多いような気がします。


<なんじゃそりゃ>

<空間そのものをハッキング?>


「……ありなのかよ、それ」


 皆頃シエルが視聴者を代弁するように呟きました。

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