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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第二章 -Near-
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-Epilogue 02-

 望月と別れて、帰ろうとしたところでリア充グループに放課後、戻ってくるように言われていたことを思い出す。嫌々ながらに、教室に顔を出すことにした。望月に連れ戻されるはずだったのに、自分から別れてしまったせいで、一人切りで入らなきゃならなくなった。これほど心細いこともない。

「お、来てくれたな」

 僕に気付いて、彼は近寄る。

「それで、望月とはどんな話を?」

「……当たり障りない話、をしていた、かな。別に告白とか、そういう大それた話、じゃない、よ」

 僕のしどろもどろの答えに対して「そうか」と言って、彼は笑いながら僕に教室の奥まで入るように促される。

 殴られるんだろうか。それとも恫喝でもされるんだろうか。今、現金は幾らぐらいあったかなぁ。


「お前さ、大丈夫か?」


 僕を教室に促したクラスメイトとはまた別の男子が、不安そうな面持ちでそう訊ねて来た。

「え……と、どういう、意味?」

「なんかクラスで孤立してるだろ、お前。だから、大丈夫かなと思って」

「望月と話しているところとか、ほら別の高校の女子と話しているところとか、そういうのがあって、クラスが変に立花を避けている感じになってんだよ。だから、大丈夫か、って。俺、前にお前を呼び止めたのはそれが聞きたかったからなんだけど」


 ……ああ、そんなこともあったっけ。あのときは怒り心頭、恨み骨髄だったから頭がよく回っていなかった。呼び止められても、すぐに適当に相槌を打って帰ってしまった。

 それで、心配されたのか?

 いや、それよりも前――倉敷さんとこの高校で話していた頃辺りから、気に掛けていた?

 なんで?

 どうして心配されなきゃならないんだ? たかがクラスメイトの一人が孤立していたところで、リア充グループのみんなには、迷惑なんて掛からないだろうに。


「あんまり、気にしなくて良いよ。僕、ちょっとおかしいから。孤立するのは、仕方無い、みたいなところ、あるから」

「えーと、な。立花には俺たちがどう見える? それ、聞いておきたいんだよ。言ってくれ」

「……リア充。この単語の意味は、言わなくても分かる、かな」


「分かる分かる。俺たちもよく使ってるから」

 さっきから教室に促された男子としか喋っていないんだけど、他の二人には悪いイメージでも与えていないかと不安だ。

「でも、これ言っておかなきゃならない。それ、すっげぇ勘違い。俺たち、リア充じゃないから」


 ……は?


「え、あ、えと……は?」

 思考と言動が珍しく一致した。主に混乱という部分で。

「俺たち、リア充っぽく見えるけど、そうじゃない。クラスにはもっとリア充なグループがあるから。立花が自分を低い位置に置きすぎて、俺たちがリア充っぽく見えるだけ。クラスのグループの一つで、そこまで青春を楽しんでるわけじゃない。当たり障りない感じ。この感じに満足しているグループ。ほら、先頭立って指揮するような奴らとは、俺たち反りが合わないし」

 そういえば、僕のクラスにはもっとパッとした男子が居たような気がする。なんでもかんでも先陣切って、大騒ぎするような連中で、色んなイベントにも即参加、即応募するような集まりが、あったような。

 そのグループのメンバーは、ここに居ない。

「え……と、だから……僕に、そういう奴らの矢面に立て、みたい、な?」

 生贄になれって?

 なんかこう、面倒事があったら全部、僕に回すみたいな。

「そうじゃねぇって。それだったら放課後に声を掛けたりしねぇよ」

 ほぼ即答だった。

「ぶっちゃけて言うと、俺たちはあんまり立花のことが好きじゃなかったんだよ」

 ああ、そう。そういうの慣れてるし。どうとも思わない。


「陰口だって何度かしたよ。それで笑って、馬鹿にもした。でもさ、なんか違うんだよ。だってお前、ゲームの話をすると、すっげぇ饒舌だし、すっげぇ真剣に喋るし、真面目というか根が優しいっていうのが、頑張って話しているのが見て伝わってくんだよ」

「それを馬鹿にするとか、なんか間違ってね? って俺たちは思ったんだよ。でも、お前は他人の優しさなんて絶対に裏があるって、そんな風に人を信じてねぇっぽいじゃん? 俺たちも、まぁ共感するところがあるし。なのに、最近ちょっと孤立気味だろ? 女子にも変な噂、立てられてるんだよ。でも、お前って全くそういうの否定しないし、我関せずだし、そのせいでどんどん噂が大きくなってる。俺たちは違うって分かってるよ。でも、お前が否定しなきゃ、その噂は無くならない。陰口言ってるとき、思ったんだ。これ、もっと言うようになったら人間終わりだなって。どんどん歯止めが利かなくなって、あの、なんつーか、イジメ? それになって、その主犯格みたいに俺たち、なっちゃうのかなって思ったら怖くなった。ああ、物凄ぇ怖い。震えて、『もうやめようぜ』ってなったんだ。だから、女子がその歯止めの利かなくなる状態になる前に、ちゃんと立花の口から違うって言ってやろうぜ。俺たち手伝うから」

「手伝、う?」

 それで、この三人に利益が生み出されるとは思えない。

「それと、辛いと思ったら声を掛けろよ? ほら、昼食とか一緒に食べてやるから。なんにも喋んなくて良いし、気なんて遣わなくて良いし、話も俺たちは振らないから、取り敢えず、その孤立している感だけは無くそうぜ?」

「言われる筋合い、無い。僕は別に孤立したって良いと思ってる。それは社会じゃ当然のことだから。でもそれは、僕が悪いことであって、みんなに気を遣われるようなことじゃない」


 裏がある。

 絶対に、この話には裏があるに決まっている。

 誰も僕になんて、優しさなんて向けないのだ。このクラスメイトだって、きっと僕に罠を張っている。罰ゲームかなんかなんだろ、これ。


「でも弱い奴は強い奴に守られるだろ。俺たち、そんな強い人間じゃないけど、立花自身が弱者と言い切れるほどに、俺たちは弱者じゃないと思ってる。だったら、立花を守ってやるのは、普通のことじゃ、ないか? あれ、なんか変なこと言ってんな。おかしいな……もっとこう、分かりやすい感じで、分かってもらおうって思ったのに。どう伝えれば、良いんだろ」

 そう言って、三人が僕の前で相談を始めた。こうすれば良いとか、こうしたらどうだとか、色々な案が飛び出して、そしてその突拍子も無い案はすぐさまに却下される。

 却下されても、どうにかしたいという意思から、どうにかできないかという想いから、様々な意見が出る。


 その姿を見て僕は、気付いたら涙ぐんでいた。


「御免……御免」

「え、や……ちょ、俺たちなんか傷付けるようなこと言ったか? おい、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。僕は、疑う心の塊に満ちた鬼なんだ。でも……ありがと。聞いてて涙が出るってことは、辛かったのかも知れない。みんなの気遣いは、とっても助かる。頼りたいときは頼る。物凄く、虫の良い話だけど……辛いときには手助け、してもらえる?」

「お、おう! そっか、そう言ってもらえて安心した。なんかよけいなこと言って、それで立花に嫌な思いをさせてしまうんじゃないかって、不安だったんだ」

 僕はまだ、人を信じても良いのかも知れない。

 いや、信じるべきなのだ。裏切られることぐらい、誰だってあることで、僕だけが特別なわけじゃない。誰だって特別な事情があって、裏切らなきゃならない人もまた、特別な事情を抱いてそれを実行する。

 誰にだって理由はあって、誰にだって苦痛はあって、誰だって辛い思いに苛まれることはある。僕だけが、不幸ってわけじゃない。

「女子の間で流れている噂って、どんなの?」


「立花が望月と付き合っていて、前にこの高校に来ていた女と浮気をしている最低な男」


 それはまた、とんでもない噂が出来上がってしまったものだ。


「……うん、その噂を潰すの、手伝って。明日からで良いから」

「あ、やっぱ違うんだな。立花にはゲームでたくさん助けられてるからな。あんま俺たちにも気を遣ったりするなよ」

「ありがと」

 こうやってお礼を言えることが、とても心地良い。

「それじゃ、僕はもう帰るから」

 今度はしっかりと別れの挨拶をして、教室を出る。


 望月が言ったように、僕は僕が思っている以上に周囲のみんなに見られている。そして、気遣ってくれている。僕はもっと、自分を見つめるべきなのだろう。

 茨の道を踏み締めよう。痛くて辛くて悲鳴を上げて、それでもまだまだ続く人生の茨を、一生懸命に踏み締めて行こう。


「おい」


「えーっと、望月のお兄さんが、なにか御用ですか?」

 校門を出たところで大河内さんと出会った。大方、妹と今後のことを話し合うためだろう。そして、外されたピアスと黒に戻された髪が事実であったことを僕はこうして真実であると知ることとなった。

「テメェ、スズだろ?」

「…………はい。それで、それを脅しにして、僕を利用する気ですか?」


「……ぷっ、ふ……ははははっ! いいや、しねぇよ。こんな面白いことを他の奴らに話すなんて勿体ねぇだろ」

 悪役然とした顔は笑いに満ちる。

「俺の負けでテメェの勝ちだ。ああ、分かった。テメェみたいな年下に説教されて腹が立ったから、“母親”に苛々をぶつけてやった。まぁ、スカッとしたな。まだまだ苛々してることはあるが、ちょっと話しただけで苛々が少しでも減るんなら、復讐なんてつまんねぇことを考えんのも馬鹿らしくなった」


「妹さんにも言いましたけど、こんな僕でも通院できている臨床心理士の方がいらっしゃるので、病院に行くならそこをオススメします。ムカつく人ですけど僕らみたいな人間には慣れていらっしゃる方なので」

「あぁ、ああ。病院なんざ行きたくもねぇけどな。あの“出来た妹”の地位を失墜させたくねぇし、行ってやるよ。あと、あの“出来た妹”を通して、テメェにスマホの電話番号とメルアド、フレンド登録もさせっから、覚悟しておけよ」


「結構です。僕、あなたが嫌いなんで」

 こういうことはハッキリと言っておく。特にこの人は大嫌いだ。作り笑いや空笑いで誤魔化せるほど、この嫌悪感は小さなものではない。


「俺だって大嫌いに決まってんだろうが。だが、負けたからには、次は勝ちてぇからな。俺は勝ちにうるせぇ男だ」

「ただのしつこいストーカーでしょう」

「死にてぇのか?」

「僕を殺したら、“出来た妹”に泣かれますよ?」

「はっ、むしろ喜ばれるかもな」

 そんな傍迷惑な言い合いをしたのち、満足したのか大河内さんは校門の柱に寄り掛かる。

「俺のことは啓二って呼べ。親父のことを捨てたわけじゃねぇが、あの“出来た妹”のためにも、それらしく振る舞わなきゃならねぇからな。それだけだ、さっさとどっか行きやがれ」

 言われずとも、といった具合に僕はそそくさとその場をあとにした。


 大河内さんではなく、これからは啓二さんと呼べば良いってことか。要するに、あの人は『望月』という苗字を認めたってことで良いんだろう。


 たった一度の敗北で、あれだけ変わられたのではアドバンテージを大きく広げられた気分だ。でも、あの人は似ているだけで同類じゃない。


 人は簡単に道を踏み外す。

 踏み外したその瞬間に、踏みとどまれるかはその人次第。

 夕焼け空を見上げながら、物思いに耽る。


 僕は少しでも、進めているだろうかと。


 昔よりも、少しは成長できているだろうかと。


 明るく振る舞えと言われれば、それはできないと言い切れる。

 でも、自分らしく振る舞えと言われれば、それはできそうな気がする。


 それで良いんだ、それで。無理して嘘で自分を塗り固めなくて良い。


「人には平気で嘘をつくクセに、自分にはつかなくて良いとか、僕はどれだけ自分に甘いんだか」

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