幕間 獣が広場を支配する
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「足りないなぁ、足りない足りない、全然足りない」
女の子は眼前で痛みにもんどりうっている男たちを眺めながら呟く。
「言ったじゃん。ボクに勝った回数だけ、ボクの体を自由にして良いって。そのための住所、メルアド、電話番号、なんでも教えて上げるって言ったよねぇ? なぁにぃ? 君たちの性欲って結局、大したことがなかったってこと? それとも、性欲を抑えられているから? 相変わらず、面倒臭いねぇ、この世界は。面倒臭い面倒臭い、物凄く面倒臭い」
「普通じゃ、ねぇ」
「ランク1だろ。まさか、セカンドキャラだったのか?」
痛みを堪えつつ、起き上がった男たちが女の子に訊ねる。
「初心者と語った覚えは無いんだけどなぁ。ボクは、君たちのナンパ紛いの脅迫に乗った。そして、君たちに一つ賭けをした。なのに、ちっとも足りなかった。ところで、賭けの内容は憶えているかなぁ?」
怖気の走る、常軌を逸した邪悪な笑みが男たちを捉えて離さない。
女の子はその笑みを崩さないまま、男の一人に近付き、その股間を蹴り飛ばす。
「はぁ~あ、この世界じゃ与える痛みも半減だよねぇ。だって、キャラクターにはそういう部位が付いていないから。けれど、蹴れば蹴るほど痛みは増す。ボクが君たちに勝ったのは、十回。良かったね、ゲームの中で。十回もリアルで蹴ったら、潰れちゃうから♪」
「それ以上の公衆でのバイオレンス行為を禁じる。一体、君はなにをしているんだ!?」
二発、三発と蹴りを繰り出そうとしていた女の子に騎士の服装を身に纏った男が駆け寄り、その肩に手を掛ける。
「ボクに触れるな」
「ならば、それ以上の暴力をやめたまえ」
眼光が鋭く男を突き刺すが、それでも彼は怯まない。
「……サールサーク卿、かぁ。相も変わらず風紀委員みたいなことをやっているんだね。まったく、君は良くも悪くも規律にうるさ過ぎる。“ルルブのジジイ”はなにをしているんだか」
「それは、私のギルドマスターを侮辱しているのか?」
「……ふ、ふふふ、ふはははっ、あははははっ♪ サールサーク卿、ちょっと話を訊いてくれない? 君のところのギルドにボクを入れてよ。アズールサーバーのランク1の初心者はまず『オラクルマイスター』に手ほどきを受けるって聞いているんだ。ボクをギルドに入れてくれたら、この男たちの股間を蹴るのはやめるよ。やめてあげる。でも、入れてくれないなら、続ける。どうする? GMでも呼ぶ? その方が良いかもねぇ。でも、ボクはこう言うよ? 最初に迷惑行為をして来たのは向こうだって。男五人で、か弱い女の子を取り囲んで、住所とメルアドと電話番号を教えろってうるさくて、それはもうナンパ紛いの脅迫だったんだから。ログもちゃんと残っているし、ボクのこれは完全な正当防衛だと判断されると思うよ。あーでも、君がGMを呼んだ際には、しばらく借りて来た猫のフリをしなきゃならないのかぁ。GMが居なくなったら、また蹴り飛ばすけれど」
女の子はサールサーク卿の手を振り払い、ログアウトしようとしている男の股間を蹴り飛ばす。
「なぁに逃げようとしているのさ。逃がさないよ、逃がすわけない。君たちって、最低最悪のプレイヤーだから、ログアウト妨害ぐらいは平気でやっちゃうよ。まぁしばらく、ここに居るサールサーク卿がボクを『オラクルマイスター』に入れてくれるまでは、ログアウトできないと思ってよ」
「私が肯かなければ、解放する気は無いと言うことか」
「そういうこと。ほら、また逃げようとする!」
今度は男三人の体を纏めて蹴り飛ばし、ログアウト妨害をする。
「ボクは“眼”が良いんだ。君たちを見ていないようで見ているから、少しでもログアウトの動作に移ったら、邪魔をする。蹴らなくても良いんだけど、でも、暴力を振るうのは、これがビックリ、嫌いじゃないから」
女の子は再び邪悪な笑みを浮かべる。
「さぁ、どうする? サールサーク卿。放置したら、ボクが飽きるまでこの五人はログアウトできない。放置しないようにするには、納得できないだろうけれどボクをギルドに入れるという話を飲むしかない。そうすれば一応は、ここの五人は解放されるからねぇ」
「GMを呼べば、ともかくそこの五人は君から逃れることができるだろう」
「分かっていないぁ、全然分かっていない。いい加減に理解してよ。ボクは、ギルドに入れろって言っているんだ。GMが来ようが来まいが関係無いよ。ボクは粛々と、淡々と、やりたいことをやるんだから。まぁ、でも、君がそんなにもボクをGMに任せたいのなら仕方が無い。仕方が無いから、GMが来るまで、ボクはひたすらこの男たちをログアウトさせないようにするよ。まだ股間を十回ずつ蹴り飛ばしていないし、ねぇ」




