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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第二章 -Near-
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とても簡単なこと

「今度は、こっち……ですか」

『“妹”の動きが乱れてるのは、テメェがなんか吹き込んだからか?』

「先にメンタルを削りに来たのは向こうなんですけど」

『っるせぇな。連携に支障が出るんなら、さっさとテメェは始末しねぇとな』


「……大変ですね」

 電磁ネットの拘束から逃れて、呟きながらバイオに語る。

「兄で居ることはとても、大変なことですよね」


 何気なく発した「大変なことですよね」。本当に、僕も体感していて大変だなぁという想いから零れ出た言葉であって、癇癪に触れる気なんて一切無かった。

 そのたった一言で、バイオの怒りを買った。通信による返答は無いが、明らかにアンブッシュの動きに変化があった。


 アンブッシュが隠れてジャマーをばら撒き、時にシュートネットで時間を稼ぎ、ヴァルフレアが空中機雷で捕らえてショットガンやレインボムで仕留める。そんな連携とは掛け離れた動きを見せた。


 つまり、全速力で、真っ向からアンブッシュがオルナに驀進(ばくしん)して来た。その予期せぬ動きに俊敏には対応できなかったものの、間髪入れずに振るわれた短刀をソードで受け止めることはできた。

 右手はシュートネットが占有しているため、どうやら近接戦闘は左手で行うらしい。


『つくづく、人の癪に障ってくるよな、テメェは!!』


 鍔迫り合いはしない。短刀をすぐさま離して、生じたウェイトをブーストを掛けることで殺してまた振るって来る。それを僕もまたウェイトを殺して、素早くソードを振るい直して受け止める。

「ドンピシャだったりしましたか?」

『はっ!! テメェには、分かんねぇことだよ、一生な!!』

 どうだろうか? バイオは僕も抱いたことのある劣等感に今も尚、苛まれているのだろうか。露骨な反応だからこそ、勘繰ってしまう。大体、劣等感は表面化するようなものじゃない。ちょっとやそっとの発言で発露するものは、劣等感ではなくただの短所だ。

 この場合、バイオの短所であるところの短気な面が表面化しているだけのように思える。


 短刀による斬撃を数度、受け止め、しっかりとしたカウンターを込めて剣戟を見舞うが、アンブッシュは短刀だけでそれを上手く受け流す。近接戦闘をこのまま続けても、きっと届かない。ならばと引き下がり、エネルギーライフルでビームを連射するのも考えたが、ちょっとでも離れるとあのシュートネットの餌食になりそうだ。


 さすがに四度も電流を浴びたくはない。ただでさえ、全身は未だにピリピリとしていて、皮膚も内側から剥がれ落ちようとしているような感覚に見舞われている。そのせいで集中力が散漫となっているのだ。僕の“直感”が明らかに鈍っている。

「出来の良い妹が居る。それはとても、誇らしいことじゃないですか」

『あんなのを“妹”だなんて呼びたくはねぇよ!!』

 それは嘘だ。だって、今もシャロンのことを“妹”と呼んでいる。バイオは無理をしている。本音を口にしていない。僕が追及すると見越しているから、意識して喋らないようにしている。


『兄さんから!』

 真上からの攻撃を示すアラート音。同時にアンブッシュが距離を取った。

『離れろ!!』


 レインボムによる空中爆撃。それはもう、上部からの攻撃を示すアラートが鳴ったときから気付いている。だからアンブッシュがなにもせずに引き下がったのを見て、オルナをフルスロットルでその空域から脱出させる。刹那に響く轟音は爆撃によるものだ。そして、爆煙とマップの特徴である霧に紛れてヴァルフレアとアンブッシュを見失ってしまった。

「またどこかで、空中機雷を張り巡らせるつもりかな……」


『ほんっと、私という存在を無視していることに腹が立って来るわ。あなた、まだこれが協力戦ってこと分かってないんじゃないの?』


 オルナの後方からパールがやって来て、そして呆れ返ったティアの通信が入る。

「合流はしたじゃん」

『合流は、でしょ。合流しただけで連携取れると思っているの?』

「でも、連携を取ろうとして失敗した」

『失敗? ある意味で成功だったでしょう。あのシャロンにも、無理をしなきゃかわせない攻撃がある。それが分かっただけで、成功』


「それじゃ僕がまた囮になって、」

『アホかぁあああああ!!』


 それは通信であっても、まるで耳元で直接叫ばれたかのような大音声だった。さっきの爆撃よりも、そしてショットガンの射撃音よりもはるかに、うるさかった。


「あ……アホ、って。アホってなんだよ」

『もー良い。この戦いで、あなたの悪いところがなんなのかハッキリ分かった。チームに貢献しすぎて、自分を犠牲にする。個人での戦績よりもチームの戦績。それを協力と思っているんでしょう?』


「だ、だって! チーム戦ってそういうものだろ!?」

 思ったよりも声を荒げていた。

「チームで勝つってそういうことじゃないか! 個人の戦績よりも味方の勝率! 勝つためなら犠牲になることも(いと)わない! このゲームでの協力はつまり、チームのために自己を犠牲にして勝利に導くことだよ!」

『バーカッ!! あなたはどうしていっつも天秤に“チームの勝利”か“個人の戦績”を乗っけているの! 良い? 協力することって、天秤の片方に“チームの勝利”と“個人の戦績”の両方を乗っけることを言うの! もう片方に乗っけるのは“チームの敗北”だけ!』


 は? なに言ってんの、そんなの無理に決まっているだろ。両方を重視した立ち回りなんてできっこない。


「そんな都合良く戦況が進むわけないじゃないか」

『だから都合良く戦況を進ませるために努力するんでしょ! なんでチームの勝率が上がって個人の戦績が下がるとかわけの分からないことをしているのよ! キッチリと両方を取りなさい!』


「そんなの、僕には分かんないよ」


『……オッケー。どうせ今から協力しろと言ったって、あなたはあなたの中の“協力戦のイメージ”で戦うわけで、私の中の協力戦のイメージと違う動きを取られて迷惑この上ない。ここで教えたって付け焼き刃だし』

 パールが長刀の切れ味を確かめるかのように空を斬る

『だから、今回に限っては、この場で一番、私たちにとって戦いやすい状況にしちゃえば良い』

「戦いやすい、状況?」


『あなたも私も、一対一ならほぼ負けなしの有名プレイヤーだったでしょ?』


 …………ああ、そっか。

 それなら、分かる。それなら、ここから無理してティアを気遣う必要も無くなるし、逆転の一手も見えてくる。


「バイオは僕」

『じゃぁ、私はシャロン。あなたがバイオを選んでくれて良かった。シャロンには借りがあるもの。あと、乱暴な口調になっちゃって御免なさい。今後から気を付けるけど、あまりにもあなたのやり方が想像と掛け離れていたから」

「それは……僕が悪い、んであって、ティアが悪い、わけじゃない、し」

 八割ほど僕は悪くないと思っているけど、こう言わなきゃまた怒られそうだし、嫌いになられてしまいそうだから、形だけでも言っておく。

『シャロンにはバレているけど、バイオにはバレていないんでしょう? 言葉遣い、気を付けるように』

 どうやら気付かれずに済んだらしい。

「了解」


 まぁ、これで一安心ということにしておこう。うん、あとで絶対に文句を言われそうだけど、今はそれどころじゃないし。


 アンブッシュとヴァルフレア。その二機の連携に振り回されているのなら、その連携を崩してしまえば良い。どうして今まで、そんな簡単なことに気付かなかったのだろうか。

 マップは幸いにして『セカンドストーンヘンジ』。このだだっ広いマップで、本当に良かった。


 オルナの握るソードを左手に、そして右手にはエネルギーライフルを持たせて、前方の視界不良の霧を突き抜ける。

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