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Armor Knight  作者: 夢暮 求
-Clairsentience-
645/645

-Epilogue 05-

***


 一番最後に店に現れたのは錦さんたちではなく、件の熊谷と根室さんだった。特に根室さんの機嫌は悪く、それを宥めている様を見ていると、一体どっちが猟犬だっただろうかと疑問に思ってしまうくらいだった。それでも理沙や望月、それに萌木さんと話している内に彼女も溜め込んでいたことを吐き出すことで徐々に機嫌は良くなり、落ち着いたところで乾杯の音頭を取った。どういうわけか僕が取らされたけど、特に変なことは言わずに「遅くなりましたが、合格祝いのパーティをどうもありがとうございます」と前置きをして、「乾杯」で終わらせた。僕たちはソフトドリンクだけど。

 鳴澤さんは啓二さんの手伝いを受けつつ、そして裏方に居る彼女の両親の手助けもあって料理の配膳は滞りなく進み――そもそも僕たちも親戚筋でよくある新年会のように、みんなで揃って料理を運んだり、空になった皿を片付けたりという手伝いをしたので、店員としての仕事の負担はかなり軽減されたと思う。でも、貸し切りの店を任されている以上は鳴澤さんもそれなりに気を引き締めているのが伝わったけれど。

 錦さんは相変わらずで、谷口さんはちょっとだけハキハキと喋るようになった。氷野君と永山さんは犬猿の仲ではあるけれど、ゲームにおける実力は互いに認めつつあるみたいで、奈緒がたまにその点を茶化し、二人に睨まれるという場面があったりなかったり。御巫さんは杖を使って歩けるようになったこともあって、その“歩く”ということが楽しくて仕方が無いらしく、頻繁に席を入れ替えては僕たちと話をしてくれた。それを心配するのはやっぱり松本さんで、それを冷やかすのは啓二さん。でも、大樹さんに諫められて、その大樹さんを冬美姉さんが「私へのプロポーズはいつになるの?」と攻め込み、そこにまた御巫さんが話を聞きに行くという、僕から見たらなにも生み出されない無限ループバグのようなことが起こっていて、奈緒とゲラゲラと笑っていたのだが、大樹さんと冬美姉さんが結婚すると、奈緒と僕は義理の兄妹になるということが発覚し、互いに呆然自失することもあった。

 男性陣はお酒を飲めるメンバーと飲めないメンバーで分かれて語らい、女性陣はそんな分け方をせずに全員でなにやらヒソヒソ話で盛り上がったり、とにかく人の話を聞くのが楽しくてたまらなかった。


 熱気は強く、お酒を飲んでいるわけでもないのに、雰囲気に呑まれつつあるのが分かったので、ちょっとだけ外の空気を吸うために店先に出た。

『マスターもあんな顔をして笑うんですね』

「ずっと思っているんだけど、なんであそこで勝敗は決したのに僕から離れないわけ?」

 アルマは僕の『NeST』に戻って来た。ただ、それだと彼女の容量が『NeST』を圧迫するので、別の大容量のタブレット型端末を買うハメになってしまった。

『居心地が良いですし、ワタシ専用のタブレットも用意してくれましたし』

「苦肉の策だよ。あれ以上、『NeST』に居られたら困る」

『便利ではありませんでしたか?』

「そりゃ便利だったけど」

『これからもワタシを持ち運んでいれば、色々と捗りますよ』

「なんでAIが自分を売り込みに来るんだよ。って言うか、売り込んでいるんじゃなくてお前の場合は勝手に上がり込んで来たみたいな感じだけど」

『正直に言いますと、アナタがマスターであるというこの事実がワタシを落ち着かせるのです。マシーヌとメカニカもこのワタシの意見を尊重してくれましたし』

「尊重しなくて良いんだよなぁ……仲良く三機で世界の犯罪防止活動を続けてくれると良かったのに」

『マシーヌとメカニカがやり始めたことをワタシが追随して、奪うというのはよろしくないと思いました。ワタシはワタシのやりたいことをやる』

「やりたいことって?」

『アナタへのリベンジマッチです。とは言え、あのような特例以外でワタシたちがゲームに干渉することも、なによりワタシ自身がロードされるのも不可能ですので、まずはその問題をクリアするために情報を集め、答えを探し出します』

「人間で言うところの研究か」

『研究……なるほど、知らないことを知るために見聞を広めるという手法もありますが、自分自身で知りたいことを知るために知識を総動員することだって出来るのですね』

「当然だろ。それに、アルマはAIだからその問題をクリアする方法は簡単に発明出来てしまうかも知れないなら。でも、」

『ニンゲンを媒介にするような、とにかく負担を掛ける手法は駄目と言うのでしょう?』

「そうだよ」

『アナタの言うことは所々に理不尽な物もありますが、それが例外のように正しかったりもするので、それは胸に留めておきましょう』

 全幅の信頼や、信仰をされずに済んで良かった。

「楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行く。今日だって、そして明日からも……思えば、ずっと暗い道を歩き続けて……自分一人でなんでも出来ると思って、無理をして、苦しんで、辛い思いをして、馬鹿をした。でも、見えていなかっただけなんだ。足元しか見えていなかった。辺りを見回せば、いつだって、どこにだって、守ってくれる人も、助けてくれる人も居るんだと、気付けた。同時に、助けたい人や守りたい人が居ることも知った。高校生になって、社会を知った気になって、世界なんてちっぽけだって言い張って、なんかとにかく歯向かいたくなってさ、大変だったよ」

『それがニンゲンの生き方の一つということですね?』

「僕なんて稀有な例だよ。昔のトラウマで陰気で陰湿な人間になったのがさ、沢山、助けてもらってどうにかこうにか持ち直した。こんなのはフィクションでしか起こらないと思っていたんだけど、事実は小説より奇なり、だ。君が改心? ちょっとだけ僕たち人間に猶予を与えてくれたことも、驚きだったし」

 小さく背伸びをする。そして欠伸も出た。思ったよりも喋り疲れていたらしい。

「面白いことはあっと言う間に、失われて行く。『Armor Knight』も、きっと波に呑まれて消えて行く。そして新しいゲームが現れて、そっちに移って、或いは卒業して行く。だからそうなる前に、最大級のお祭りをやらなきゃならない」

『お祭り?』

「僕たちみんなでのトーナメントだよ。オッドテイルと璃々華にも声を掛けているんだけど、もし応じてくれるならこの二人はシードだな。ゲストみたいなものだから」

『それはもう倉敷 萌木さんには伝えているのですか?』

「勿論。ようやく全員が落ち着いたし、神楽坂さんと松本さんが動いて、大会サーバーの予約を取れるかどうか打診中。まぁ、氷野君は受験が控えているから四月中に済ませられれば良いなって」

『とても、楽しいことになりそうですね』

「ああ、とても楽しいことになる」

 そう、これでようやく約束を果たせるだろう。

「ちょっと忖度してもらってさ。僕と萌木さんはトーナメントの配置も真逆になるようにしてもらうつもり。要するに決勝で戦うようにしようかなと。松本さんたちもこれについてはなにも文句は言わなかったよ。代わりに互いの準決勝に化け物が当たる形にするって言っていたし」

『化け物?』

「そこはミスターとサールサーク卿の分け方に期待だね」

『倉敷 萌木さんに勝ちたいですか?』

「当然。『空間把握の化け物』は、心の成長――大人になればなるほど弱まって行く。“愚者”に陥りやすい年齢が二十代前後で、消えるのも二十代前後。だから、僕の感覚が薄まる前に、本気でぶつかりに行く。でないと彼女の想いには応えられない」

 負ける気はしない。勝つ気でいる。そして、本気で勝ちたいと思っている。


 沢山の“戦いたい”を僕はリョウの時に踏みにじって来た。それでも、その頃の僕に憧れているのなら、スズであっても僕は彼女に全力をぶつけるべきなのだ。


『どうせなら奇襲戦法で『女性』に性別変更してから参加してみては?』

「それはもう良いよ……自分を包み隠すのはもうやめないとだし、あとはVRでネカマをやっていたら生殖能力云々が危ういってのは、神楽坂さんに言われていた」

 あれは三日ほどネカマで過ごしたらそうなるだろうという予測に過ぎなかった。でも、ネカマで過ごした時間分だけ影響が無いとも限らない。なら逆に言えば、VRゲームで本来の性別で過ごすことが出来て、体にもその変化が出るのなら、これも一つのVR医療の道筋になるかも知れないな。

「それに、素が出た時に観客に声を拾われたら終わりだし。そういうわけで、女の子のスズは終わり。言っても、彼女との経験は全て僕の中に溶けて、一つになっている」


「りょーう? みんなでグループ分けしてトランプでポーカーとか七並べやろうって」

 理沙の声が聞こえた。

「じゃ、帰ったらまた話そう。アルマ」

『はい』

「今行くよ、理沙。それと七並べじゃなくてダウトやろうダウト。いつぞやの雪辱を晴らしてやる」

 店内に戻って、意気込みながら言い放つ。






---一週間後---


《さぁ、やって参りました。アズールサーバー最強決定戦! このトーナメントはアズールサーバーでも特に名の有る――特に問題児とも言うべき、いわゆる対人戦ガチ勢の中でも選りすぐりのヤバい奴らによって行われます。主催者側のプレイヤーは『完全な身内の強さ決定戦』と控えめに仰っておりましたが、こうして大勢の観客が集まる、『Armor Knight』を愛する誰もが注目する大会となりました! さぁ、トーナメントの第一試合は、数多のプレイヤーが口を揃えて言い放つ『アズールサーバーの別の意味でヤバい奴』の二人! 新進気鋭のプレイヤー、スズ!! そしてブラリ推奨殿堂入りのグッド・ラック!!》


「物凄いことを言われている」

「ふっ、それぐらい君が認められているってことだよ。スズ君」

「その気持ちの悪い語り口調を改める気は無いんだな」

「最後の最後まで、ぼくはグッド・ラックで在り続けたいからね」

「面白い話だ」


《そしてそして、別の大会サーバーとなりますが、こちらでは同時刻に第二試合が行われる予定です。こちらでは『猟犬』のリグリスと『勝利の女神』のティアの対戦が行われますよ!!》


「リグリス、本気でやっちゃって良いわ」

「良いのか?」

「でないとティアに失礼よ。本気で挑んで本気で臨み、本気で勝ちに行きなさい」

「分かった」


「その本気を叩き潰すから、覚悟してよ」

「どうだろうな。俺はただ愚直に、言われたことに従うだけだ」


 僕もリグリスとはサシで勝負をしたかったところだけど、それはまたの機会にオアズケらしい。


「このトーナメント表だと、ルキが勝ち上がるのは確定だろう」

「あなたのところはオブシディが上がって来るでしょうね」

「僕と戦うまで、負けるなんて許さない」

「そっちこそ、ずっと最強の座に鎮座しているオブシディを倒して、私との決勝戦を勝ち取って来て」


 ティアと会話をして、僕は控え室を出て、コクピット内に転送される。機体の最終調整はいつも通り、ここで行う。第一試合だから、格納庫での調整が出来ない分、昨日はギリギリまで色んな箇所のチェックをした。


「……行こうか、パラノイア。最後の最後に、アズールサーバー最強の称号を取りに行こう!」


 痛みも悪意も恐怖も、なにもかもを乗り越えて、夢と幻という曖昧な物に溺れながら、妄想を現実にしに行こうじゃないか。



【THE END】

【シリーズ予告(構想段階なのであまり期待しないで下さい)】


――命の火が、ずっとずっと消えそうなんだ。


 幼い頃に、大きな大きな火が俺を襲った。あらゆる物を焼き尽くすほどの炎の中に取り残されて、火傷を負い、小指を喪い、そしてなにより家族を喪った。

 けれど俺には泣き続けていられるほどの時間は与えられず、生存者としての振る舞いだとか、生き抜いた理由だとか、そんな風に一時期、マスメディアに追い掛け回された。だからこそ、いつまでも無くならない。いつまでも忘れられない。いつまでも色褪せない悪夢として、俺の心を支配し続けている。

 周りがその炎について語れば語るほどに、俺の中の火は弱まって行く。生きたいと願う強い強い想いが、失われて行く。


「逃げる場所はあった方が良い。けれど、逃げた先でのんびりと暮らしたいと、あなたはきっと思っていない。だったら、逃げた先で、必死に戦ってみるのはどうかしら?」


 高校一年の秋に、それまでこれっぽっちも交流の無かったはずの小山に唐突に声を掛けられ、誘われるがままに俺はVRゲームの『Armor Knight』を始めた。

 その世界は、逃げ場所としては刺激的で、あまりにも、煌びやかに、輝いていた。


「ようこそセーブルサーバーへ、初心者君。私はファニー・ポケット。このサーバーではちょっとした有名人。ただ、プライベートではプレイヤーネームを隠して遊んでいるから、あんまり私の名前は口にしないようにね。あなたの名前は……ノスタリア? それじゃ、ノスタリアさん? 対人戦のいろはを教えるついでに、それ以上にハマっちゃう楽しい楽しい『ヘクス争奪戦』についても、教えて上げるね」

 『ヘクス争奪戦』。夏に行われた大型アップデートで『大隊ミッション』の次に追加されたコンテンツの一つで、複数人で組んだチームで別サーバーのチームやBotと様々なルールの元で、限られたマップの中で争い合う。対人戦ガチ勢の多いアズールサーバーでは時間が掛かり過ぎるという理由であまり馴染まず、プレイヤー間での力の差はさほど無いらしい。なにより、対人戦以上にチーム力が物を言うらしく、操縦技術以上にどれだけ味方の主力をアシスト出来るか。そういう面白味もあるのだとか。

「ArmorからKnightに乗り換えるまではArmor限定の『ヘクス争奪戦』もあるけど、中にはベテラン勢がKnightからArmorに乗って、初心者狩りをしている場合もあるから、気を付けてね」


 この世界で生き抜くいろはについては、あまり頭には入って来なかったが、その後に行われたファニー・ポケットのサーバー内における単独ライブを見て、俺の心は激しく揺れた。

 何故、そうも輝き続けることが出来るのか。何故、そうも燃やし続けることが出来るのか。その燃料は、その情熱は、一体どこからやって来るのだろうか。


 命を燃やす火にかげりが見えている俺は、その理由求め、そしてその理由かも知れないこのゲームにのめり込んで行く。


『どこにでも居るんだよなぁ。『俺だったらなにか変えられるかも知れない。俺にはそんな力があるんだ』って言い出す、馬鹿なガキが! テメェからも臭って臭って仕方が無い。だから教えてやる。テメェの夢は、ただのまやかしだ』


『VRゲームをやっているってことは、すべからく逃げているってことなんですよ。私も、あなたも。でも、逃げた先でも舐められっ放しとか、すっごい迷惑なんで、私の前に立つのはやめてくれますか?』


『ここは、きっとあなたが考えている以上に過酷な世界。罵詈雑言なんて当たり前。強い人が弱い人を蹂躙することだって頻繁にある。でも、そこで折れてしまったら、ずっと弱いまま。あなただって、強くなれば良い。だから、あなたが強くなりたいのなら、ここで私がまず強さを見せる』


「落ち込んでもいられないなよな、プロクス。不甲斐無いパイロットだ。でも、ただ負けるだけの戦いはしない!」


 『ヘクス争奪戦』を中心として始まる、もう一つの『Armor Knight』の物語。

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