ティアの方向性
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「なかなか起こらないなぁ、レアイベント」
五回ほどミッションを二人でこなしたところで、ティアが大きく溜め息をつきつつ、呟いた。
武装には通常派生と特殊派生という二種類の改造パターンがある。『Armor Knight』ではミッションをクリアしていれば改造の素材は大体は揃うようになっている。しかし、特殊派生の武装はロックされていて、それを解禁するためにはミッションクリア後の特別な演出を見なければならない。それを僕らはレアイベントと呼んでいる。『レア』と付くだけあって、RPGでいうレアアイテムのドロップ率と同様、なかなか発生しない。
発生するミッションやそれで解禁される武装の特殊派生などは各種情報サイトで詳しく纏められているので、狙いを定めてミッションをこなしていれば確実に発生する。ついでに、一年くらい前のマイナーアップデートでミッションのクリア回数を増やせば増やすほど発生率も若干だが高くなっていく仕様に変更された。ルーティの銃爪も特殊派生の一つだが、通算三十回目に発生した。
けれど、剛剣『ダイダロス』や剛鎗『クルラーナ』といった武装に関して言えば、マイナーアップデート後でも発生率のアップが行われていないとか。ついでに、まず剛剣の特殊派生イベントを起こし、次の改造にもまたレアイベントを起こして行かなければならないので、最終段階に至るまでに大概のプレイヤーは挫折する。まさにやり込みプレイヤーのみが手にする武装である。
ただ、こういったレア武装は強武器――要するに持っていたら対人戦でも強い、というような代物では無い。数値で言えば、剛剣『ダイダロス』も剛鎗『クルラーナ』も特殊派生後の通常改造による最終形態と数値上はほとんど変わらない。エンチャントの面でほんの僅か有利不利が出るぐらいだろうか。でも剛剣『ダイダロス』はエンチャント不可だし、剛鎗『クルラーナ』は氷結属性しかエンチャントできないので、通常改造後の剛剣や剛鎗には劣っているかも知れない。
大きく異なるのは見た目である。特殊な武装の展開方式や、特殊な紋様が入っているなど違いは様々だが、とにかく特殊派生の武装は濃い特徴を持つ。そして、そういった武装を持ち、更には巧みに操るプレイヤーは目立ち、結果的にそのサーバーの有名プレイヤーとなるわけだ。
「前みたいに剛剣への特殊派生の解禁を狙ってるの?」
「んー、確かにあのミッションでは剛剣のレアイベントも起こるけど、それはもう発生しちゃってるから」
「それなら、なにを狙ってるの? 今後のティアのプレイスタイルは、あのラクシュミみたいなパワースタイルな戦法じゃなかったりする?」
僕の問いにティアは「う~ん」と唸りつつ、ぎこちなく肯く。
「あんまり前と同じプレイスタイルにはしたくないの。剛剣での戦いもちょっと飽きていたところがあったし……だからって、慣れた戦法を変更するのは大変だから、心のどこかでは変えたいと思いながらずっと使い続けていた節もあった」
あの扱いにくい剛剣に、相当の時間を費やしていたに違いない。要するに、それ以外の武装での戦い方にもチャレンジはしたかったけど、戦績を気にして、変更ができなかったのだ。有名プレイヤーだったし、剛剣使いというイメージが付いてしまっていたせいも相まって、別の武装へ切り替えるタイミングを逸したとも言える。
僕としては、薄い装甲で流線型を描くフォルムの機体でありながら、剛剣を力強く振るう様は好きだったんだけどな。アニメや漫画の少女や女性が大剣を振り回すイメージみたいな。ああいうのってどうして、男はちょっとした憧れを抱くんだろう。意外性があるから、なのかなぁ。
「じゃ、ティアとしてはどんなプレイスタイルを目指して行きたいと思っているの?」
「……剛鎗、とか?」
「それは……茨の道というか極端過ぎない?」
「冗談。私には『氷皇』ほど剛鎗を扱える気はしてない」
チラッと僕の心の奥を見るような視線を向けたのち、ティアは前を向いた。
「速さ、はそこまで追及してない。でも、それなりに動けるスラスターは求める。それはランクを上げさえすればどうとでもなるでしょ? 問題はメインの武装。私はエネルギーライフルでのチビチビとした削りや、遠距離からのスナイピングは向いていないって分かっているの。エイミングが――エイム力があんまり無いから」
遠距離武装の場合、敵機体をレティクルの中央に来るようにしてから射撃を行う。動く物体を撃つわけだから勿論、こちらも機体を動かしてレティクルの中央に来るように調節する。この精確性をエイム力やエイミングと呼ぶ。要するに狙いを定めるのが上手いか、照準を合わせるのが得意か否かである。
VRFPSプレイヤーは特に気にしている。なにせ、今までのFPSと違って自分でアイアンサイトやスナイパースコープを覗き込むから、より一層のエイム力が必要となる。
『Armor Knight』の場合は遠距離武装を構えた直後にスクリーンの中央にレティクルが表示されるからそれに従うだけで良いんだけど、どうやらそういった補助があってもティアは遠距離戦闘が得意では無いらしい。
そういや、ラクシュミで戦っていたときにはほとんど剛剣でゴリ押ししていたっけ。エネルギーライフルも使っちゃいたんだろうけど、この言い方だとそれほど得意ではなかったんだろう。
僕もあんまりエイム力はある方じゃないけど、それよりも酷いのかな? そうなると、必然的にティアのプレイスタイルは狭まってきてしまう。
「どれくらい得意じゃないの?」
「動体視力はある。反射神経もあると思ってる。でも、なんかこう……ここだ、っていう瞬間がいまいち掴み辛い。近接戦闘は得意なの。レティクルに縛られているのかな」
そういう人はよく居る。狙いを定めることに縛られすぎて、敵を照準に合わせたは良いが、どのタイミングで撃てば良いのか分からないみたいな。そうしている内に逆に撃たれるのだ。狙いを定めた直後に動かれてしまって、また狙い直すことに時間を要してしまい、逆に追い詰められるパターンもある。
置き撃ちや偏差射撃を学べば、僕程度でも相手に当てられるんだけど、苦手って言っているんだし、今後も近接戦闘を重視した戦い方をして行きたいってところだろうか。
「スナイパーとか、シューティングタイプじゃないとなると、自ずとパワーやスピード、テクニック辺りにならない?」
「パワー系のプレイは剛剣でやってる。スピード系は、私に合ってない。ラクシュミのときだって、装甲を薄くしたのは泣く泣くだったの」
「じゃぁテクニック――操縦技術重視になるよ。益々、剛鎗みたいな技術力重視になっちゃうけど、良いの?」
彼女は小さく肯く。
テクニック系は近接戦闘を得意とするプレイヤーによる、クリティカル距離を重視した戦法のことだ。この手の武装はクリティカル距離で敵機体を捉えた時の威力補正が、他の武装より極端に高い。逆にクリティカル距離以外での斬撃、剣戟は極端に低くなる。
ダンジョンRPGでたとえるならば、速度を差し引いたアサシンとかかな。サムライやニンジャの職も当てはまりそうだ。
「あ、でも、刺して、貫いて、下降限界に叩き付けるとか、そんな人間離れした技術力は持ち合わせてないから」
「露骨に引き合いに出すのやめてくれない?」
テトラのことを彼女は何度でも口にする。張り合っているのだろうか。
「思ったのは、刀系かな。閃刀『ヒヒイロカネ』は刀系の派生の中でもクリティカル距離が甘めの武装でしょ? なら私は、クリティカル距離が凄く限られている長刀はどうかなと」
閃刀『ヒヒイロカネ』はどんなエンチャントも付けられる万能の刀で、人気もそれなりにある武装だ。比べて長刀の派生はエンチャントの幅が狭く、露骨に扱い辛くなっている。どうして剛剣といい、彼女はそう扱い辛い方の武装を選んでしまうのか。
「ティアは変態とかマゾとか呼ばれるプレイヤーになりたいの?」
「パージで防御して素早く立ち回る変態さんに言われたくない」
変態、魑魅魍魎、そしてマゾ。強い人ほどピーキーな性能に機体を傾けさせるから、周囲からは異端の目で見られやすい。リョウの時代から機体をピーキーな仕上がりにしていた僕にとって、その言葉への抵抗は少ないのだが、ティアはどうやら免疫が無いらしく、顔を赤らめて言い返していた。
「それで、長刀のなにが欲しいわけ……?」
「『クレッセント』」
僕は肩を落として、項垂れた。




