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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第一章 -Encounter-
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用意は良いか?

 準備時間に移行し、テトラの調整に入る。

「ルーティ、聞こえる?」

 その最中で、確認とばかりに声を発する。

《聞こえるよ。あと、パッチペッカーさんはちゃんと観戦可能にしたみたい。おかげで観戦サーバーに移れているから》

 そこを反故にしてしまえば、もうあとが無いと思ったんだろう。

「ネットに依存し過ぎた結果、ネットでの居場所が無くなることが怖い……か」

 けれどそれは、倉敷さんも同じなのだ。パッチペッカーと倉敷さんは大元のところで、考えていることが一致している。だから僕がパッチペッカーを倒すと、当然のことながらパッチペッカーにもこのゲームでの居場所は無くなってしまうだろう。

 だからって、一方的に片方だけを追い出すようなやり口を認めるわけには行かないわけで……そう考えるならば、パッチペッカーが受けるべき苦しみは当然の報いであると僕は思う。

 誰が正義で、誰が悪というわけではない。倉敷さんは居場所をシェアしたが、パッチペッカーはそれをテリトリーと捉えた。ただその一点の違いが、こういう面倒臭いことを引き起こした。

「一応の確認だけど、前のプレイヤー主催の大会みたいに僕がコンソール画面に映っていたりする?」

《さすがにそれは無理っぽい》

「良かった」

 胸を撫で下ろす。目立ちたがり屋ではない僕には、あの仕様は耐えられない。今回も大会と同じようになっていたならば、緊張で操縦も覚束なかったかも知れない。


 機体を動かしている内に、そんなことも気にならなくなるとは思うけど。


《あと、合同通信も聞こえないと思う》

「盗み聞きされることもないのか」

 今まで観戦可能という設定で対戦をしたことがないので、その辺りがイマイチ分かっていなかった。なんだか自分の手の内を晒すようで嫌だったし、何度も言うが僕は目立ちたがり屋でもなかったので、自身の腕前を他人に見せ付けるということもしたくなかった。けれど、ルーティとのやり取りでなんとなく観戦可能な対戦の設定がどういったものかは把握できた。

 今回はマップもルールもパッチペッカーに任せることになったが、果たしてどこまで合法を貫いて来るだろうか。

 前回のプレイヤー主催の大会で、パッチペッカーは非公式なModを導入していたことを僕はその後、調べて分かった。あの違和感のあるバックダッシュの正体がまさにそれだ。


 『Armor Knight』はアップデートで様々な機能の導入を続けているが、プレイヤーの痒い所に手が届くということが滅多に無い。サーバーの維持、武装や装甲の数値には繊細且つ大胆な修正を加えるが、それ以外の機能拡張といった面では少し冷めている。そのため、プレイヤーが独自に作成したModの導入を公に認めている。勿論、作成したModは公式に送る必要がある。『Armor Knight』を作ったゲーム会社と第三者機関による入念なチェックによって、許可が出たものが公式Modとしてサイトでも公開されるようになっている。僕も理沙も、そしてきっと倉敷さんも『Armor Knight』のゲームデータに公式Modを導入している。そうしたものは主にコンソールの拡張や機体のカラーバリエーションの追加といった、一般的に入れておくと便利な物がほとんどだ。『NeST』のUIでは、『Armor Knight』内では少々、不便になってしまう。だから公式Modを適用することでゲームデータ側で、専用のコンソールに変えている。


 ただ、これらは全て公式なModの話である。公式Modがあるということは当然、非公式なModも存在する。さすがに裸Modや服を透けさせるModなどは無い。これらのキャラデータは誰も破ったことのない『NeST』のセキュリティによって保護されているためだ。なので、もっぱらパッチペッカーのような輩が用いるのは機体の異常な推進力や行動の終了判定の短縮化、などである。公式を通さなければ導入することさえ不可能なはずなのだが、何故だか非公式Modは無くならない。暗号化や複合化など複雑なデータを掻き分けて、それらは非公式であるにも関わらず公式であるかのように偽装されて入り込んで来る。こういったものは挙動がおかしいため、通報されれば即座に利用者のアカウントが凍結されたりするのだが、パッチペッカーは未だにゲームを続けられている。


 世の中にたまに居る。危ない橋を渡り続けられるタイプの人間が。周りは捕まるのに、自分だけ捕まらないという(おご)った存在が。恐らく、パッチペッカーもその類の人間に違いない。

 捕まらないから、バレないから、公式の求める世界観を壊す行いが正しいということはない。そんなものは暗黙の了解ですらない。

「ルールは時間無制限のデスマッチ、マップは……『ワンダースフィア』か」

 パッチペッカーに任せてしまったが、正々堂々としたルールだ。もう一悶着あると思ったけど、サールサーク卿やグッド・ラック、そしてにゃおが居たことで委縮でもしたのかも知れない。

《観戦者が結構多いよ。ねぇ、リョウって意外と有名人だったの?》

「主に悪い方で有名だった」

 もう忘れられていると思ったのに、ルーティの言い方だと『リョウ』を見るために来たプレイヤーも居るということになってしまう。

「あー武装はこのままでも良いとして、あとはどうしよっかなー」

 下方修正された装甲は別の物に変えよう。昔よりも重量制限は引き上げられているから、あの時は装着させられなかったものも選べる。

「無難に行くよりは、昔のプレイスタイルに合わせるべきかな」

 呟きながら準備時間をたっぷりと使う。

「操縦桿のボタンやスイッチに割り当てた操作は……そっか、そういうマクロも組んでいたっけ」

 一つ一つのスイッチに触れて、機体の挙動を確認する。そしてスズでプレイしていた時の方がしっくりと来るボタンやスイッチの割り当てに一部は切り替えつつ、一番大切なマクロ機能を載せたボタンはそのままにしておいた。

《スズ――今は、リョウだったっけ》

「くらし……えーっと……どうして?」

 確か、倉敷さんのファーストキャラの名前は……ティア、だったっけ。

 彼女の突然のチャットに驚いてしまった。

《親にやるなって言われてたけど、無理やりログインした。ログイン広場でのやり取り、全部見てた》

 だったら一声、掛けてくれれば良いのに。

《……私のこと、憶えてる?》

「なにが?」

《……終わったら、話す》

 なにやら含みを持たせた言葉だったけど、それ以上に僕はティアの精神状態を気にしなければならない。

「言っておくけど、僕がこれから相手をするのは君の理想が捻じ曲げられ、変わり果てたラクシュミの偽物だ。それを見る覚悟はあるの?」

《そんな醜いラクシュミなんて、壊してしまって構わないから。私の求めたテオドラも、ラクシュミも、全部全部まとめて、ぶち壊すくらいの勢いでやって》

 さすがに本物のラクシュミに抱いている彼女の理想を壊すつもりは無いんだけど、とにかくも許しは出た。

「分かった」

 色々と調整した結果、機体の耐久力は昔よりも下がった。でも、オルナと違ってテトラはテンプレ装備でも、オールラウンダーな機体でもない。だから、耐久力の低下はさほど重要視することじゃない。むしろその数値を気にして、昔よりも防御面が落ちてしまったら、それこそ僕のプレイスタイルが崩れてしまう。

 機体調整を終えて『出撃しますか?』の問いに対してYESを選択。全てのコンソールが閉じられて、コクピット内に駆動音が木霊する。そして視界を司る全てのモニターが情景を映し出し、マップ画面や各種計器類が発光して起動を強調する。


 『ワンダースフィア』。空中戦専用マップで、全ての機体が巨大な球体の中で戦う。よって、中心を軸にすれば上昇限界と下降限界の地点が常に一定であるのに対し、少しでも中心軸から逸れれば、上昇も下降も限界点が縮まる。円の直径と弦の直径が異なるのは当然だが、この違いのせいで、端まで追い詰められると、上昇も下降もままならず、相手の猛攻撃から逃れるのが至難の業となってしまうという一癖も二癖もあるマップだ。けれど、割と1vs1では好んで選ばれるマップでもある。


『俺に喧嘩を売ったことを後悔しろよ、ガキ!』

「そういうことは今まで何度も言われたことがあるから、ああそうですか、程度の感想しか出ないな」

 勝手に笑みが零れ出てしまう。

「“私、男の人と付き合ったこともないですから”」

『お前、っ!? まさか!』

 良い反応だ。面白すぎて変な笑い声が出て来てしまいそうだ。

「僕みたいな底辺プレイヤーに騙された気持ちはどんなものかな?」

 (あお)るだけ煽ったところで、カウントは0となり、戦闘開始のアラートが鳴り響いた。

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