#とある番組での一幕#
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「VRゲームについて賛否両論あると思いますが、今回は反対派の意見をご紹介させて頂きます。よろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「本題に入る前に、前回の復習を致しましょう。そもそもVRゲームとはなんなのか。VRとはヴァーチャルリアリティの略。つまり、VRゲームとはヴァーチャルリアリティゲームということです。我々がよく知るゲームというのは、ゲーム機にディスクをセットし、テレビに映し出された世界で、主人公と呼ばれるキャラクターをゲーム機それぞれのコントローラーで操作する、というものでしたね」
「昔はカセット型でしたね。その頃は3Dではなく2Dと呼ばれる、平面上をキャラクターが動くというものがほとんどでした。3Dでは、奥行きが生まれ、立体的となり、動かすキャラクターを前後左右どこからも見渡せるようになり、こういったゲームに慣れ親しんでいなかった私などは、そのカメラワークを動かすたびに気分が悪くなったものです」
「はい、我々もその世代です。ですが、もう3Dは当たり前の時代です。では、3Dが当たり前の中でのVRゲームとはなんなのか。これはゲームをコントローラーで操作するのではなく、自分自身――即ち、自身の意識をゲーム内に落とし込むことで現実と遜色無い仮想世界を体感できるというものです。その間、体は一切動かせません。あくまで動かせるのは、ゲーム内の自分自身を落とし込んだキャラクターの体というわけです」
「客観的か、それとも主観的かの違いでもありますね」
「そして、このVRゲームは現在、ゲーム機での登用が難しいため、主にパソコンゲームに限られるようになっております。そして、MMOとMOと呼ばれる、ネットを通じて他のプレイヤーと協力して戦う、或いは敵対関係にあって戦い合うといったものが主流のようです。ここまでは前回のおさらいですからねー、テレビをご覧の皆さん。これらを踏まえて本日の話題へと移りましょう」
「それではまず、このグラフを見て下さい」
「これは、一体なにを示したグラフなのですか?」
「我々が独自に調査した、VRゲームをプレイしている方たちの、ある統計です。質問内容は『VRゲームをプレイ後に痛みを感じる、或いは痣が出来たことがあるかないか』というものです。これに対し、半数以上の方が『ある』と答えています。その回答の中には『知らない間に出来ていた』や『リアルでぶつけた覚えが無いのに痣が出来てしまって、友人に心配された』などというものもありました」
「つまり、VRゲームをプレイすると怪我をすると? しかし、そのようなことがあれば大々的なニュースになり、VRゲームは規制されるのではないでしょうか」
「これはあくまで質問への回答であって、直接的なデータではありません。そして半数以下ではあれ、『覚えが無い』と答えている方もいらっしゃいます。我々も独自に、VRゲーム内で意図的に体をぶつけたりと調査をしてみましたが、結果は大ハズレ。誰も痛みを感じる、或いは痣が出来るということはありませんでした」
「では、半数以上の方が『ある』と答えた方たちは嘘をついていると? VRゲームは精神を電子的なものに落とし込むということで、仮想世界で死んだ場合、現実世界でも同様に死ぬのではないかという噂もありましたね。意識不明になり病院に運ばれた人が居る、ゲーム内で死んだらHMDを被ったまま自室で死亡するなど、どれもこれもSFでよくありがちな内容であったと思うのですが。この半数以上の方も、そういった噂、嘘に振り回されていると?」
「いいえ、中には面白半分で『ある』と答えた方もいらっしゃるとは思いますが、一部は必ず『痛み』や『痣』を認識しているのです。つまり、これは嘘でも偽りでも、噂でもありません。しかし、ならばどうして『ある』と『ない』で分かれるのか。次に我々は、『ある』と答えた方々を年代別にグラフ分けしてみました。それがこちらのパネルとなります」
「これは……十代、二十代の方たちの『ある』が半数以上を占めますね。三十代からは大きく減ってはいますが、それでも『ある』と答えている方は居るには居ますが」
「そう、つまりVRゲームは十代、二十代の少年少女、或いは成人してまだ間もない方たちにゲーム内の『痛覚』を現実の『痛み』や『痣』へと変えてしまう可能性があるのです」
「変えてしまう、とは? プラシーボ効果、というものでしょうか? しかし、あれは先入観、思い込みに囚われると起こるものでしょう? 十代、二十代の皆さんが全員、『VRゲームで受けた軽い痛みは現実のものとなる』と思い込んではいらっしゃらないと思いますが……だから若者の中にも『ない』と答える方がいらっしゃるということでは?」
「こういう場合はノーシーボ効果という表現が近いと思われます。
「ノーシーボ? プラシーボはよく聞きますが、そんな言葉が?」
「はい。プラシーボは思い込みの力で良い効果が出る場合などに用います。ノーシーボはその逆です。思い込むと、無害なものすら有害なものになってしまいます。反偽薬効果などとも呼ばれています。ですので、この場合はノーシーボ効果と呼ぶのがよろしいかと」
「確かに、『痛み』は決して、体にとって良いこととは言えませんね。ノーシーボ効果、テレビをご覧の皆さまも覚えておくと、ご友人と話をした際に『それはノーシーボ効果だ』と言えば、頭が良いと思われるかも知れませんよ? ……と、話題が逸れてしまいましたね。続きをどうぞ」
「我々はノーシーボ効果をまず最初に思い付きました。十代、二十代の若者に協力してもらいVRゲームをプレイしてもらいました。しかし、こちらでも思った通りの結果は生まれませんでした」
「では、『ある』と答えている方とVRゲームとの因果関係は無いんじゃありませんか?」
「いいえ。我々は思った通りの結果が出なかった際に、一つ考え方を変え、協力してくれた若者の皆さんにアンケートを取りました」
「その、ノーシーボ効果を意識してプレイしているかどうか、でしょうか?」
「違います。先入観ではなく、没入感。それがあったかなかったか。回答のほとんどは『調査の一環のため、ゲームに集中できなかった』というものがほとんどでした。ですので、ある企業が新作ゲームのベータテスターを募っていましたので、その企業に協力して頂き、ゲームをログアウトする際のアンケート調査に、我々の質問も組み込んで頂きました。その結果、初日に『痛み』を認識した方はほとんどいらっしゃいませんでしたが、日数経過に伴い、その人数は増えて行き、ベータテスト終了間際にはほぼ半数となりました。つまり、仮想世界に没入すれば没入するほど、『痛み』を認識しやすいのです」
「そうとなりますと、個人差は?」
「年代別に特に顕著でした。やはり若者世代はゲーム内だけでなく、リアルにも軽い痛みを伴うことが多かったのです。このことから、ノーシーボ効果ではなく、感受性の強い、特に思春期の少年少女がVRゲームの世界観に没入して行くと、現実の体に影響が出るということが分かりました。世代を経ても、感受性の強い方はいらっしゃいますから、三十代を過ぎても、VRゲームに没入してしまうと同様の痛みを感じる可能性があります」
「それでは、いつぞやの立体視のゲームが小さなお子様の目にあまりよろしく無い、そして成長しても目が疲れるため、長時間のプレイは控えるべき、という話があった時のようにVRゲームは小さなお子様だけでなく、若者世代は、そして特に十代の少年少女はプレイするべきではないということでしょうか?」
「はい。特にその年代は周囲の影響を強く受けます。そこにVRゲームという仮想世界を体感する、してしまうことで脳が現実で負った怪我なのか、それとも仮想世界で負った怪我なのか、判断が付かないのかも知れません。それが小さな痛みとして、或いは大きな痛みとして現実の体にまで至るのかも知れません。確かに、仮想世界は第二の世界でもあり、我々が知らない別の世界を体感することで、脳に新たな刺激が加わり、我々が想像しない新たな観点、考え方を得る可能性だってあります。しかし、逆に考えてみて下さい。脳に第二の世界の強い刺激が与えられることで、更にその世界へと深く没入してしまうことで、人格になんらかの強い悪影響だって出る可能性があるということを」
「子供はゲームで遊べば頭が悪くなるという意見も未だ根強いですからね」
「しかし、逆にゲームで遊んでいる子供の脳は活発化しているという意見もあります。だから我々も、反対派ではありますがVRゲームをやめろとは強く言えません。なにせ、全ての人が平等に『痛み』を感じているわけではありませんから。実際、全世界でVRゲームは全盛期にありますし、我々の調査結果なんて世界的に見れば少数ということになってしまいます。少数意見が潰されるということは決してありませんが、VRゲームを制作する企業の方は、少しでも念頭に入れておいて頂きたいと思っております。そして、大きな事態が起こってしまった際のリスクマネジメントもしっかりと組んでおいてもらいたいのです」
「まだお話を伺って行きたいところですが、そろそろお時間となってしまいましたようです。――さん、本日は大変お忙しいところをありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
「VRゲーム、大変面白いと聞いています。しかし、やり過ぎにはご注意下さい。それでは次のコーナーに参りたいと思います」




