“勝つこと”と“楽しく遊ぶこと”は別のベクトル
『凄い! さっすがスズ!』
「それ、褒めているよね? なんだろう、イントネーションの違い? 煽られているように感じる」
『捻くれ過ぎ』
そう貶されてしまったが、素直に賞賛の言葉を受け取れない捻じ曲がった僕の性格をよく知っているはずだから、逆にここで貶されることでその一つ前の言葉が真実だと分かる。
パージは通信のラグで展開速度が大きく変わり、無敵時間はそれに伴ってズレる。レールガンの一撃を防げたことは、奇跡のようなものだ。誰でもできるテクニックなら、『Armor Knightはパージゲー』とまでネットで書き込まれているだろう。
「レールガンの軌道からヒエさんの場所は分かるよね?」
少し声が震えているのは、危機を脱した高揚感からだ。
『うん』
「適当に追いやりつつ、他にどんな武装があるかチェック。落としちゃダメだよ。二発目のレールガンがすぐに来ちゃうから。ある程度の確認が取れたらキィルクさんを集中攻撃」
『ヒエさんの位置が分かったら報告するから』
「うん」
相手の一撃必殺を阻止したところで、パージした以上は僕の機体状況は非常に芳しくない。ここで一回落とされて、ルーティもなにかしらのミスで撃墜されれば、デコイを見破ったのもパージの成功も全て水の泡になる。
二回落とされたならば、キィルクさんを集中攻撃で三回落とせば勝利はできる。そういった単機を集中して落とす行為は低ランクと混じる野良では嫌われるが、チームマッチの2vs2程度なら戦略的にも必要な措置として受け取ってくれる……と思う。コクピット内で発狂してないかなぁ、怖いから合同通信にはまだアクセスしないでおこう。
「落ち着け……落ち着け」
相手にどう思われているかで震えているのではなく、気分が舞い上がっているせいで操縦桿を握っている両腕がガタガタと震えてしまっている。良いプレイングのたびに、妙に体は震える。
ゲームでの醍醐味はこういう、自身のプレイや采配で上手く勝ちを転がせたときに感じる高揚感にこそあるのではないかと思っている。
『まだ終わってないよ。なに突っ立ってんの?』
ルーティに言われ、我に返る。危ない危ない。棒立ちのところをキィルクさんに襲われたら早々と撃墜され、ルール上の不利になってしまうところだった。。
左右の操縦桿を握り直し、両足のペダルを踏んでブーストダッシュ。防御力がほとんど0の状態でも、突撃をやめないのは僕の悪癖かも知れない。普通は陰からちまちまと、こそこそと撃ち続けるものだ。でもそういうプレイを、これまで一度もしたことが無いし、なにより嫌いなのだ。
でも、好き嫌いで危険に飛び込む辺り、僕は自分自身でもバカだと思う。
キィルクさんの機体はダガーナイフを右手に構えて、一本を僕の方へと投擲する。左に機体を逸らしてかわし、更に詰め寄る。
もう一本、ダガーナイフを抜いて僕の機体目掛けて突進を仕掛けて来る。ようやく近距離戦闘に持ち込む気になったらしい。囮の役割が破綻した今、なんとしてでも僕を落とさなきゃ勝ちが拾えないことは相手も分かっているらしい。
僕を落として、あとは逃げ回る。或いはルーティを狙う。さっきのパージやらエネルギーランチャーによるショートカットで、僕がランク相当の強さではないと判断したのであれば、良いプレイヤーであるが、どうだろうか。
初心者を卒業してすぐのルーティと同じく、その凄さを知らないままかどうか。
「ここまでの自画自賛も珍しいな」
ボソッと呟く。そう、こうやって知り尽くしたゲームで遊んでいると、勝手に独り言が漏れ出てしまう。なにより、自分のプレイングが功を奏したときは特に酷い。突撃以上の悪癖だ。道理でリアルじゃ根暗と言われるわけだ。
ソードを構えて、振られたダガーナイフにぶつける。力が拮抗し、打ち合い、そして剣身を重ねての押し合いまで展開する。右に、左にと剣身を滑らせてみるものの、その動きに見事に合わされて対処されてしまっている。ダガーナイフのような短剣や短刀の類は拮抗時に不利なようにも見えるが、相手のちょっとした動きでもすぐに察知できる上に、自身から仕掛ける場合には剣身の滑らせ方さえ工夫すれば。通常の剣や刀に比べたら圧倒的に相手を出し抜ける。
上手いな。
上手い。ダガーナイフの扱いが上手い。これは、押し切られるというより受け流される。
直感的に判断したときには、ダガーナイフがするりとソードを滑り抜け、そしてそのまま流れるような動きで僕の機体の右腕を切り落とされてしまった。
アラート音が響く。即座に肩部のジョイントを外して、離れる。臨界に達した右腕は明滅して爆発し、同時に衝撃が機体全体――コクピット内を駆け抜けた。
この衝撃も、この驚愕も、全て現実とそっくりそのまま。なにも違うところはない。むしろ違うところなんてあるわけがない。
仮想世界であることを忘れるような。仮想世界から抜け出したくなくなるような、そんな面白さ。これだからVRゲームは面白い。
焦りは無い。むしろ絶好のチャンスがやって来た。
「腕は持って行かれたけど、でもそのあとの硬直を処理し切れてないよ!」
左腕でもう一本のソードを抜いて、キィルクさんの機体に叩き付ける。腕でも足でもなく、腹部を狙って、そして確実に叩き切った。
バーニアで姿勢を戻し、バックダッシュでキィルクさんの機体から離れる。その直後、火柱を上げて爆発した。これで一機撃墜。でも、ストック制だから十秒後にはキィルクさんの機体はこのフィールドのどこかに戻って来る。
『ヒエさんの機体、私から逃げ回ってるよ? ということは、レールガンしか持ってなかったのかな?』
「レールガンは重量制限に引っ掛かりやすいけど、そう思わせておいて実は、ってこともあり得るよ」
『じゃ、一気に攻めるべきところ?』
「レールガンが復活するからダメ」
『良いじゃん、その方が面白いじゃん』
勝ち確をわざわざ自分から捨てるような行為だ。勝ちに拘っているつもりはないけど、勝てる戦いで負けるとか、そういうのは御免だなって思う。
『私は面白いって思う遊び方がしたい。それに、ぜーったい向こうが怒るよ?』
これはゲームだけど、人と人が機体に乗って戦う対人戦。卑怯とか姑息と、あとでネチネチと粘着されてはたまらない。キィルクさんもヒエさんも、どちらもそこまでの悪者には思えないけど。
でも、ルーティの言うことも分かる。むしろ、その考え方を尊重しよう。
「分かったよ。面白い方向で進めよう」
勝ちに拘るより楽しむのが大事だ。知らない人と組んでいるんでもなし、これで負けたってルーティは悔しがっても僕に責任を求めはしない。
そんな後ろ盾がなければ、こんな選択すらできないのかと思われてしまうだろうけれど、実際、負けた時のあの“負けた理由は誰だ”というような目線、視線、言葉は心を荒ませる。それが無いと分かっていなければ、面白い方を選択することは僕にはできない。
『うん、スズならそう言うと思った』
「ヒエさんを落とす前に落とされるなよ?」
『それはさすがにないと思う。空中戦じゃないし』
制限時間は残り十三分。ストック三つにしては制限時間を短く設定しすぎたかも知れない。レールガンの機体には不利な設定になってしまった。あとで相手側になにか言われたら謝ることにしよう。
自身の状態を改めて確かめよう。機体の右腕が切り落とされたのは痛い。左腕がまだ使えるけど、近接戦闘に持ち込まれたら落とされるのも時間の問題だ。エネルギーランチャーでは近距離は狙い辛いし、装甲をパージした分、一つ一つの動作には常に緊張を持たなければならない。慎重な操縦が求められる。
今はともかく、回避することに専念しよう。少なくとも、ルーティがヒエさんを撃墜させるまでは生存することを目標にする。
敵機体を撃墜した興奮を冷ますために、深く息を吸い込んで、そして吐き出す。
興奮で震える手を宥めて、次なる襲来に備えつつマップ画面を僕はジッと見つめた。




