-Prologue-
【-0-】
勉強はそれなりにできる。それなりだから、特別できるってわけじゃない。なんとなく授業を受けて、なんとなく宿題をやって、なんとなく予習と復習をして、それでなんとなく学年平均より上の成績を取っている。自慢じゃない。「凄いね」って言われるのはもう嫌だったりする。先生からも「あなたは基礎が出来ているから、勉強に興味を持てば、もっと伸びて、良い高校に行けると思いますよ」と言われたけれど、そんなのって正直、私の勝手じゃんと思ったりする。思うだけで、言わないけれど。
けれど、勉強と友達とゲームをすることのどちらかを選べと言われたら、私は勉強を選ぶと思う。それくらい、友達とゲームをするのはつまらない。
だってみんな、弱いから。
据え置きゲームでも携帯型ゲームでも、みんな弱いから。「あれが倒せない」とか「みんな速過ぎ、追い付けない」とか、そんなのはもう聞き飽きた。
もっと真剣にやれば倒せるのにって思う。もっと真剣にコース取りを考えれば、っていつも思う。けれど、そんなことを口にしたら「なにゲームに本気になっちゃってるの?」と言われちゃう。
だから言われないために自分に嘘をつく。
対戦ゲームだったらわざと友達の攻撃を受ける。レースゲームだったらわざとコース取りに失敗する。狩りゲーだったら、みんなと一緒にわざとてんやわんやする。そんな感じ。
そうやって、わざと負けたりわざとやられたりして、騒ぐだけ騒いで、いつも冷めた自分が後ろから自分を見つめている。
なんでこれが楽しいの? って。真剣にゲームをやって、ギリギリのところで勝ったり負けたりするのが楽しいんじゃないの? って。勝てないボスに何度も挑戦して、何度も負けて、そのあとに色々と見直して研究して、ようやく勝てた時が、一番楽しかったりするんじゃないの? って。
でも、そんなことを言ったら「遊んでいるだけなんだから」って言われちゃう。
なにか違う。
私とみんなとではなにかが違う。
だから、お母さんに誕生日プレゼントで『NeST』とHMDを買ってもらった。パソコンは中学生になった時にお父さんからおさがりで、型落ちはするけれど譲ってもらった。今のところ、おかしな挙動を起こすことも無いし、動作も軽い。
PCゲームを――それもVRゲームをやってみようと思ったのは、小学校の時、同級生で、今もたまに全力でゲームで遊ぶ友達に誘われたから。スマホで『最近、みんなとゲームをしてもつまらない』ってメールしたら『VRゲームだとみんな本気だよ』っていう返事が来たし、その子がやっているゲームを遊ぶことにした。月額制だから、始める前にはちゃんと両親と話した。成績を落とさない、友達と疎遠にならない、ご飯の時間になったらちゃんと部屋から出て来ること。この三つを徹底して守るなら、って許してくれた。
多分だけど、両親は私にとても甘い。それはきっと、なんとなく勉強をして、なんとなく平均点以上を取って、三者面談でも先生に悪いところを指摘されることなんてほとんど無くて、家族団欒を私も大切にしているからだと思う。だから、大人になったらちゃんと恩返しするんだと決めている。ちょっと、知らない人と話すことに抵抗がある、人見知りなところがあるけれど、それでも、両親のためならアルバイトや仕事には就かなきゃなって思う。
私を誘ってくれた友達の言う通り、『Armor Knight』のプレイヤーは誰もが全力だった。「アズールサーバーがちょっとガチ過ぎるんだけどねー」とは言われたけれど、私にはそれくらいが丁度良かった。
チュートリアルを挟んだあと、初めて対人戦をした。ガッチガチに緊張して、負けてしまった。でも、なんだか心がザワザワした。
武者震いが止まらなかった。
一生懸命にやって、それでも負けた。こんなに楽しいことはない。だったらもっともっと一生懸命になれば、もっともっと戦い方や操縦の仕方を研究して、突き詰めて行けば、もっともっと楽しくなるに違いない。その先で手に入る勝利は、きっと物凄く嬉しいはずだ。
負けることは怖くない。負けてもチームメンバーのせいにしたことは一度も無い。いつだって自分が悪いと思い、どういう動きが悪かったのかを反芻する。友達に勧められて戦闘ログの閲覧をし、自身の見たものを動画として保存する公式Modも適用すると、客観的に、そして主観的に自身の操縦を見ることができて、色々と研究することができた。
楽しくて仕方が無い。物凄く楽しい。あーここは駄目だったなとか、ここは少し攻め過ぎたとか、ここは味方に任せるべきだったとか、もっと通信で位置関係を把握しておけばなとか、もうたっくさん見つめ直すことがあって、心は昂ぶった。
だからってリアルのことは疎かにはしない。勉強はそれなりにして、予習も復習もそれなりにして、友達とも遊んで、なんとなくゲームをすることになったら手を抜いて、時々、本気で勝ちに行ったりして、そうして両親の言い付け通り、見つけることのできた時間を使って『Armor Knight』の世界に没頭した。
勝ち方は分からない。けれど、勝つまでになにをするべきかは分かるようになった。自分の立ち位置、戦況の把握、引き際の見極め、そういったものを常に頭の中に入れて、勝利数を重ねて行った。勿論、負ける試合だって沢山あった。でも、それ以上に自分にとって、それらは有意義な対人戦で、そのおかげで勝利数は跳ね上がって行った。「ね、ここの人たちはみんな全力で挑んでくれるでしょ?」と友達に言われた。私は昂ぶる気持ちを抑えながら「うん、誘ってくれなかったら、こんな気持ちにはきっとなれなかった」って答えた。「現実で会う時より良い顔してるよー」と満面の笑顔で言われてしまったけれど、実際、リアルで会う時よりも楽しくてしょうがなかったので、「悪い気はしない」って言い返した。
やや月日を経て、友達にギルドに誘われた。『スリークラウン』という、対人戦に重きを置いたアズールサーバーでは有名なギルドの一つだ。友達がそこのサブギルドマスターであることと、誘われたことの二つに驚いてしまった。だって、『スリークラウン』は素質のあるプレイヤーしか誘わないところだから。「このゲームに誘った時から、ギルドにも誘う気だったんだよー。素質はあると思っていたし、絶対、強くなると思ったからさー」と言われ、私はなんだか小恥ずかしくなりつつもギルドメンバーになった。
そこから『スリークラウン』について調べるようになった。調べるって言っても、限られた時間の中だけど。リアルとゲームの比率は7:3ぐらいになるように徹底している。徹底できている。だから、ギルドメンバーになったからそのギルドの歴史を調べるって理由で、その比率を崩したりなんかしない。
最初に『クレイジーハンズ』と呼ばれるギルドがあったらしい。そこに通り名で知られる『雷神』――友達のお兄さんが加入して、『スリークラウン』に改名したのだとか。初期メンバーは『氷皇』と『炎将』。リョウと“紫炎”。
特に、『氷皇』は凄かった。チームメンバーという一切合切を無視して、なのにチームを勝利に導く。戦況を読んで、チームと共に勝つのではなく、協力を捨てて、自分自身だけで勝利をもぎ取る。確かにそのワンマンプレイは決して良いこととは言えないけれど、でもそれ以外の全てが、感動すら覚えるほどになにもかもに勝っているのだ。私なんて及ばないはるか高みに立っている。真似しようにも真似できない。特にパージのタイミング。戦闘中にほんの僅かに起こるラグすら考慮している。
みんなはリョウさんを悪く言うけれど、個人としての強さなら絶対的だ。だって、この人がメンバーに居るだけで勝ったも同然なのだから。チームとしての勝利のために、個人としての力を最大限に出し切り、そして自分だけ撃墜される。それってつまり、多数を相手取っても同等に渡り合えるだけの動きが出来ているということだ。
この人と、1vs1で戦えたなら、どれだけ心が躍るだろう。この人と戦ったら、負けるに決まっている。でもその敗北は間違いなく次に繋がる。
だから、いつか戦いたいと思っている。友達は「最近、また顔を見せるようになったよー」と言っていた。だから、会いたい。
会って話がしたい。色んなことを話したい。どうすれば強くなれるのか、あの時の戦闘ではどうしてあんな判断を下したのか、そういった一切を、知り尽くしたい。
パッチペッカーさんとの戦いのことにも話がしたい。直接、話をすることはできなかったけれど観戦サーバーで戦い方を見ていた。前半は偽者なのかと疑うくらい動きが鈍っていたけれど、後半は本物と確信できるくらいの動きを取っていた。
そして、この人のプレイングと近い人を私はそれより前に見ている。
プレイヤーネームはスズ。テオドラさんとのペアマッチに出て来た、とても初心者とは思えない強さを持つ女性。この人も、リョウさんと同じく、パージを用いる。
似通っている部分はそこだけだけど、もしもリョウさんのようにパージを防御手段の一つとして数えている戦い方ができる人なのだとすれば、必ず強くなる。
だから、『スリークラウン』に誘った。この人とも、沢山、話がしたい。一緒に高みを目指して行きたい。
貪欲に、まだ強くなりたい。だってゲームって、“カンスト”しない限りは無限大だから。




