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Armor Knight  作者: 夢暮 求
第二章 -Near-
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-Epilogue 04-

---


 兎のぬいぐるみの腕を縫い付ける女の子が居る。鼻歌を唄い続けながら、縫い続ける女の子が居る。


「ハッピバースデイ~トゥ~ユ~♪ ハッピバースデイ~トゥ~ユー♪ ハッピバースデイ~♪ ディア、“ス~ズ”~♪ ハッピバースデイ~トゥ~ユ~♪

 君ったら、ボクに内緒でセカンドキャラを作ってるんだもんなぁ。理沙ちゃんから借りた“聴覚”じゃないと、見つけられなかったよ。真似する限界ギリギリに君のことは見つけたからぁ、また借りに行く必要も無さそうで良かった良かった。ボクだって幼馴染みの聴覚をそう何度も何度もおかしくさせたくはないからさぁ。

 え、ミーちゃん、なにか言いたいことがあるの? うんうん、なになに? 『スズに寄って来た蛆虫(うじむし)はどうするの?』って?」


 針を兎のぬいぐるみの目に突き刺して、それまで縫っていた兎のぬいぐるみの腕を引き千切る。


「そんな分かり切ったことを聞いちゃったから、そうなったんだよ? もう、ミーちゃんったら頭が回らなくて困っちゃうなぁ。あ、でもこうやって(ねじ)れば回るかな。あはははははっ! あれ、取れちゃった。ま、いっか。蛆虫は全部、潰すに決まってるのに変なことを訊くから悪いんだよ。あははっ、あははははっ、御免ね。また縫ってあげるから。これで何回目だろ? 百回? 二百回? まぁ、良いよね。何回縫っても、君は治るんだからさぁ!!」


 兎のぬいぐるみを放り出し、その女の子は鼻歌を唄いながらHMDを被る。そして『NeST』をパソコンと繋ぐ。ディスプレイには『Armor Knight』の文字が表示される。


「待っててね、スズ。君が新しい君を見つけたのなら、ボクも新しいボクで追い付くから。安心して、スズ。僕には膨大な時間がある。ランク8で足踏みしている君になんて、すぐ追い付けちゃうよ。

 ミーちゃんの頭と腕を縫うのは、そのあとかな。だってミーちゃんより、君の方がずっとずっと大好きだからさぁ。あはははっ、あはははっ♪ 蛆虫もぜーんぶ、ぜーんぶ全部、潰してまた遊ぼうねぇ。リョウもスズも、涼も! 全部全部、ボクのだから。君に這い寄る蛆虫なんて、このボクが全て全て全て!」


 人差し指を血が滲み出るほどに噛む。


「いつか、“焼き払ってあげるから”♪ だって涼のためだもん。あはは、言っちゃった♪ 恥ずかし~♪ まぁでも、焼き払う前に玩具にしてあげるよ、ミーちゃんそっくりな、“兎の帽子を被った化け物ちゃん”?」

次回の予告的ななにか


――恋は人の心を蝕む猛毒さ。


 終業式を終えたあとに待っているのは夏休み。学生にとっては喜ばしいことこの上ない休日の連続。それはつまり、ゲームもやり放題ということだ。


 けれど、それを堪能できるような上手い話は無く……


 『Armor Knight』に大型アップデート到来。そして、それに合わせるかのようにアズールサーバー二大ギルドと『Re;Burst』を巻き込んでの新システムによる『大隊ミッション』が始まる。

 目標は『天骸』の破壊。どのチームがより早く超巨大機体を破壊できるかを競う。ただし、このミッションにはフレンドリーファイアが強制的に可能となる。

 涼はリョウとして、『スリークラウン』のチームメンバーに招集され、にゃおとラヴィット、そしてトモシビに協力を要請される。


「立花さんはどんな女の子が好みのタイプなんですか?」

「答えろよ、涼の兄貴。あいつはあいつなりに、必死なんだから」


 永山 羽織は良い子だ。生真面目でお淑やかで、きっと大人になる頃には大和撫子として周知され、男性からは人気者になるに違いない。


「努力すればするほど、自惚れる。でも、私たちって努力し続けないと、誰にも追い付けないから。だから、みんな必死に綺麗になろうとする。立花君はその辺り、どうなの?」


 望月の言う“その辺り”が僕にはいまいち分からない。だって僕は、僕自身を磨こうと思ったことなんて一度だって無いのだから。


「年下に表面上だけ好かれるっ……それ、本当に表面上だけ? 立花君って、内面がダダ漏れしてるし、それで好かれるのなら、きっと年下には、そもそも好かれやすい性質ってことなんじゃないの?」


 倉敷さんの言うことは不明瞭だ。年下の子と接してみても、僕の内面を見ているかどうかなんて定かじゃない。だって、誰も人の心なんて見ることなんてできないんだから。


「私のこと気にしてる暇があったら、自分のことを心配した方が良いって」


 理沙の言う“自分のこと”が僕にはよく分からない。僕にはたくさんの問題があって、その中のなにをまず最初に解決しなければならないのか。優先順位を付けることなんて僕にはできやしないのだ。


 けれど、まずしなければならないものがあるとするのなら、それはきっと、過去の自分との決別、ではないだろうか。


――人を魅了するのは簡単さ。そっと近付き、甘く囁くだけで、人は誰しも心に毒を仕込まれる。嫌いな相手からでも、好きな相手からでも、そんなことをされれば一生のトラウマか、はたまた永久(とこしえ)の想い出か。いずれにしても、心は蝕まれてダメになる。


 天柱 朽葉が僕の心の奥を掻き乱す。


大樹(だいき)君は普段からなにを考えているか分かんない人だったけど、一時期、拍車を掛けて分かんなくなったことがあるの。でも、そんなことを憶えているなんて、私ってやっぱり彼のことを気にしていたのかしら」

「あたしの兄貴は遠くの大学に行っちゃった。それがどうしてなのかは知らない。だって、あたしにはそういう難しいことはさっぱりだから」


 奈緒にはお兄さんが居る。冬美姉さんの数少ない男友達だ。身持ちの堅い姉さんが唯一、心を許していた人と言っても良い。そして、『スリークラウン』の後始末を妹に押し付けた元『雷神』でもある。その確執が、まだ残っているのかも知れない。


 様々な思惑と感情の中で、揺れ動きながらも大隊ミッションは始まる。


『私はこんなにあなたのことを愛しているのに! どうして駄目なんですか!?』


『隠さなくて良い。恥ずかしがらなくて良い。それが普通だ。それが普通の怒りなんだ。そう、その感情に、その衝動に、全てを委ねてしまえば良い。ほぅら、見てよ、リョウ! たった一度の囁きで! 兎の帽子の下の、醜い化け物の登場だ!!』


「く……ふ、ふ、ふははははっ! 君は僕の相手を、してくれるよねぇ!!」

「そうだよ、それで良いんだよ。みんなみんな、本当の自分を曝しちゃえ。なにも隠す必要なんかない。どれだけ隠しても取り繕っても、だぁれもそんなの気付いちゃくれない。狂った君が、ボクのだぁい好きなリョウなんだ。そんな君を、丸ごと全部、愛してあ・げ・る♪」


 “歪曲化”の波が怒涛のように押し寄せる。


「リョウ君とトモシビ、そしてラヴィットを撃墜させる。あの狂った連中に歯向かえる、馬鹿な奴らは居るか?」


 “痛み”は僕らを激しく狂わせる。身も心も、そして関係性すらも――

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