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第109話 サラの旅立ち

サブタイトルを変更し、こちらをサラの旅立ちとしました。

前話は「サラの願い」とします。

 『旅の用意にはどれくらいの時間が必要ですか?』

 『自分の荷物なんて殆どないよ』


 バチカン行きに同行する事が決まったサラは、早速家の片付けを始めた。

 利き手が不自由なので勝二らも手伝い、荷物を整理する。

 

 『何をどうするのか、サラさんが指示を出して下さいね』

 『い、いや、そんなの悪いよ!』


 勝二の言葉に慌てる。

 命の恩人達であるし、この国の王女もいるのにそのような事は畏れ多い。

 

 『体を動かすの我々下々の者ですのでご遠慮なく』

 『そうは言ってもさ』


 やはり躊躇われる。

 聞けば彼らはこの国を訪れた賓客であり、王女の前で失礼は出来ない。


 『問答は無用です。テキパキと済ませる為ですので、諦めて大人しく指示を出して下さい』

 『どういう脅しだよ……』


 その言い分に呆れた。

 しかし勝二にも事情はある。

 まだ始めぬのかと言いたげに、信長がこちらを睨んでいる。

 

 『時間がないのです!』

 『わ、分かったよ!』


 切羽詰まったように言われ、サラも渋々頷く。


 『うーん、じゃあ、時間も勿体ないし、申し訳ないけど働いてもらうよ』


 家の中の整理が始まった。


 『調理器具はあるのかい?』

 『お皿も含めて余裕はありますよ』

 『じゃあ、台所の物は全て置いていこう』


 サラは素早く判断していく。


 『作りかけの薬草は全て庭に捨てて!』


 作業台の上や鍋の中に残っていた物を処理する。

 サラの指示を勝二が訳してそれぞれに割り振り、動いてもらう。


 『棚にある薬草はどうします?』

 『村の為に置いておきたいんだけど……』

 『全く構いませんよ』

 『ありがとう』

 

 魔女扱いされたとて、生まれ育った村である。

 まだ使える物を無造作に捨てる事は出来ない。

 残しておけば村人が活用するだろう。


 『女の身につける衣服なんですから、殿方は触らないで結構でございますよ』

 「す、すまぬ!」

 

 庭にはサラの服が干してあった。

 取り込もうと無造作に手を伸ばした信親。

 手持無沙汰で人の動きを眺めていたイサベルがそれに気づき、声を掛けた。

 未だ信親はスペイン語がはっきりと分からない。

 しかし、彼女の口調から咎められた事は分かる。

 別に疚しい考えがあった訳ではないが、思わず謝ってしまった。


 『これで良し!』


 小さな家だけに、あっという間に片付けが終わった。

 サラの荷物は着替え等、小さな袋一つである。


 『たったそれだけなのですの?』


 驚きにイサベルが尋ねた。

 彼女の荷物は馬車の上にも積まれている。

 自分と比較して何と少ないのだろうかと思った。


 『そりゃ、王女様とは違うさ』


 サラの言葉に何故か顔が赤くなるイサベルだった。

 

 『今更ですがご家族は?』


 勝二が思い出したように言う。


 『母一人子一人で、その母も3年前に死んじまったよ』 

 『原因を尋ねても?』

 『流行り病さ』

 『それはお気の毒に……』


 この時代、病気や怪我で驚く程簡単に人は死んでしまう。

 それを聞いた信長が呟く。 


 「薬草は効かなんだか」

 『何か偉そうに言ったけど、ホント、無力だよねぇ……』


 サラは自嘲した。

 告発された通り、魔女であればどれだけいいのかと思う。

 本物の魔女であれば、日に日に衰弱していく母の病気なんて容易く治せていたのだろう。


 『母にお別れを言っておきたいんだけど……』

 「構わぬ。たっぷりと言っておけ」 


 サラの言葉を伝える勝二に信長が答えた。


 『お墓は少し歩いたところにあるから、ちょっとだけ待っててよ』


 そう言い残して駆けていく。


 「信親!」

 「は、ははっ!」


 呼ばれた信親が進み出る。


 「用心の為、あの娘に付いて行け」

 「畏まりました!」


 そう言いつけられ、信親は飛んで行こうとする。

 駆け出したその背に告げた。


 「母堂には娘を貰い受けると伝えておけ」

 「わ、分かりました!」


 後ろから見ても分かる喜びようだった。


 『さて、出発だね』


 サラは直ぐに帰ってきた。

 お墓は近くだったらしい。

 その表情に迷いや後悔はなく、前だけを見つめているように見える。


 「行くぞ」


 信長の号令に隊列が動き出す。

 サラは今一度だけ後ろを振り返り、母親と過ごした山の中の小さな家をその目に焼き付けた。


 一行は山を下り、村を通り抜ける。

 途中、教会前の広場に、人の背丈よりも大きな十字架が立てられているのを見た。 十字架の周りには薪が積み上げられ、まるでキャンプファイヤーの準備をしているかのようである。

 十字架から大きな叫び声が上がっていたが、勝二は聞こえない振りをするしかなかった。


 「逆に魔女を疑われ、火あぶりか」


 その光景を横目に眺め、素っ気なく信長が言う。

 特に興味もないといった風情だった。

 

 「無実の者を告発したのですから、当然と言えば当然ですね」

 「そうですとも! サラ殿にもしもがあったらどうするのかと!」


 感想を述べる蘭丸に信親が力説した。


 『神よ、かの者の罪を救い給え』


 伏し目がちにイサベルがそっと呟く。

 一行は旅路を急いだ。


 スペインとフランスの国境であるピレネー山脈は難なく越えた。

 アンドラ公国の前身である地域を通り抜け、フランス領へと入る。

 日本使節団のバチカン訪問はフランス王国にも届いており、問題なく国境を通過出来たばかりか、護衛の部隊まで付随した。

 その際、帰りには是非ともパリに寄って欲しいと招きを受けた。

 とはいえ今は一路にバチカンである。


 「あれが、ハンニバルも越えたアルプスです!」


 地中海に面したマルセイユ、ニースには向かわずに山道を進む。

 一行はヨーロッパの屋根、アルプス山脈へと辿り着いた。


 「おぉ!」

 「見事な山々だ!」


 感嘆の声が上がる。

 万年雪を頂く峰が青空に映える。

 

 「あれを越えればイタリア半島です!」

 「あれを馬で越えたのか!」


 過去の偉人の足跡に嘆息した。

虚偽の告発がバレたらどうなるのか?

全くの想像で書いてます。

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