金運に憑りつかれた富豪の伯爵の俺は幼馴染と結婚するために散財することにした
「ベレッタ。俺と結婚してくれないか?」
「お断りするわ、クライス」
「り、理由を訊いても?」
「あなたがこの国の富豪の伯爵だからよ。私の夢はこの国の金持ちの伯爵夫人になることじゃないのよね」
「そ、それは、俺の責任じゃないよ!」
思わず俺は結婚を申し込んだ幼馴染の彼女に叫んだ。
俺は金運に憑りつかれている。
金運がいいなんて羨ましいと言われるが異常過ぎる金運は不幸なだけだ。
最初に俺の金運が力を発揮したのはまだ5歳の頃。
5歳の俺は遊んでいる時に倒れているおじいさんを発見。
すぐにそのおじいさんのことを親に話しおじいさんは医者に連れて行かれ一命を取りとめる。
すると後日、元気になった大きな商会の会長だというおじいさんは俺にお礼金をくれた。
その金額は俺と両親が10年は軽く生活できる金額。
両親はそれを受け取り贅沢な暮らしを始めたがその矢先に馬車の事故で両親は他界。
おじいさんがくれたお礼金のほとんどは俺のモノとなった。
だが、まだ子供だった俺は唯一の親戚の叔母さんに引き取られる。
ベレッタとはその頃に知り合い幼馴染として仲良く過ごした。
彼女は俺の初恋の相手だ。
しかし叔母さんは独身だったので俺を引き取った後に結婚した。
しかも相手は伯爵の男。叔母さんは平民だったがその伯爵の男は叔母さんに惚れ込んでしまったらしい。
俺は伯爵家の養子となり成長する。
そこでも俺の金運は発揮された。
なんと伯爵家の領地で俺が拾った金を含む鉱石が決め手となり金鉱脈が発見され伯爵家は巨万の富を築く。
けれどそこでまた不幸が起こる。
裕福になった伯爵は酒の飲み過ぎで心臓発作を起こし他界。
妻である俺の叔母さんとの間に子供がいなかったのでその巨万の富は俺に受け継がれた。
俺はその時社交界にデビューして間もない時期だったが突然富豪の伯爵になってしまう。
そして養母である叔母さんも亡くなり俺はひとりになる。
そうなると社交界で俺に寄ってくるのは金に群がる令嬢ばかりだ。
伯爵とはいえ俺と結婚すれば富豪の妻になれるのだから。
だが俺はそんな令嬢たちに興味はない。
幼馴染の彼女だけを俺は昔から愛してる。
なのに金運に憑りつかれた体質のせいで彼女に結婚を断られるなんて。
「それなら俺は全財産を無くしてやる!」
俺はベレッタと結婚するために財産を散財することに決めた。
大金を持って知り合いに教えてもらった賭博場に行く。
「この赤と黒の色とどの数字の場所に玉が入るか予想してください。当たったら掛け金が増えて当たらなかったら掛け金は没収です」
「よし! 赤の1にこの金全部!」
ドンッと金貨を置いて俺は外れることを願い賭けた。
しかし玉は俺が賭けた赤の1に入る。
「お見事です。金貨が倍になりました」
俺の前に賭けた金貨が倍になって戻される。
これじゃダメだ!
賭け事じゃお金が増えちゃう!
賭け事で散財することを諦めた俺は今度は価値のない山の土地を購入することにした。
不毛な土地ならば持っていても財産価値はない。
「ご主人様。先日買った土地からダイヤモンド鉱脈が発見されました。王家からその土地の債権を買いたいとお話が来ております」
「なんだって! そんなもの王家にタダでやるって言え!」
「なりません。対価を支払わずに王家がご主人様から債権を取得すれば国王陛下は横暴な人間だと噂が立ってしまいますのできちんと対価を支払うとの陛下からの御言葉です」
「……っ!」
ダイヤモンド鉱脈がある土地を王家に売ったために俺は途方もなく財産が増えてしまう。
このままじゃ、ベレッタと結婚できない。
そうだ! 価値のない投資先に投資して散財するのはどうだ?
今度は誰も投資しない商会などに投資をしてみた。
けれど俺が投資をした商会はなぜかその後の商売が爆発的にうまくいき俺はまたしても莫大な利益を得てしまった。
そんなこんなで俺は散財しようとすればするほど失敗続きで財産が増えていく。
「ベレッタ! ごめん! また財産が増えちゃった! 俺が散財しようとしても失敗して金が増えちゃうんだよ! 俺はベレッタと結婚したいだけなのに!」
瞳に涙を滲ませる俺をベレッタは哀れに思ったのか俺の顔を見つめた。
「ずいぶん苦労してるのね、クライス。それなら私がクライスのお金を使ってあげようか?」
「え? ベレッタが?」
「クライスがこの国の富豪の伯爵じゃなくなったら結婚してあげるわよ。私には夢があるからそれにクライスの全財産を使ってもいい?」
「ありがとう! ベレッタの望む通りに俺の財産使っていいよ! そして俺がこの国の富豪の伯爵じゃなくなったら結婚してね!」
「ええ、いいわよ」
ベレッタはニコリと微笑んだ。
それから5年経ち、富豪の伯爵でなくなった俺はベレッタと結婚して幸せに暮らしている。
「アルフレッド。お母様はもうすぐ仕事が終わるからね」
ベレッタとの間に産まれたまだ赤子の息子を俺はあやしていた。
すると部屋の扉が開きベレッタが部屋に入って来る。
「ごめんなさい、クライス。遅くなって」
「大丈夫だよ。ベレッタも公務お疲れ様。女王の仕事には慣れた?」
「う~ん、まあね。民のために働くのは私の夢だったから満足よ」
ベレッタの夢は貧しく苦しむ人々を救い幸せにすることだったそうだ。
この国は王族の失政で財政難になり多額の借金を抱え民が苦しんでいたベレッタの母親の祖国だ。
俺の金を使ってベレッタはこの国を買ったのだ。
この国の借金を返す代わりにベレッタを女王にすることが条件。
そしてこの国の女王となり国の借金返済のために財産を使い果たした俺と約束通り結婚してくれた。
なので俺は伯爵ではなくこの国の女王の王配になった。
「そういえばクライスが先日視察先で見つけてくれた青い花だけどあれはどんな病気にも効く幻の薬の材料だったわ。これを商品化すれば民も助けられるし輸出して莫大な利益も得られるようになるわよ。ありがとう、クライス」
「ベレッタの役に立ったなら良かったよ。あの青い花はベレッタに似合うかもって摘んだだけの花だったんだけどね」
俺の金運に憑りつかれている体質は健在のようだ、
でも今はそれも悪くない。
だってそれが俺の愛する幼馴染の夢を助けることになるんだから。
すると俺があやしていた息子のアルフレッドが手に持っていた玩具を放り投げた。
玩具は転がりソファの下に入ってしまう。
「もう、アルフレッド。ダメじゃない」
ベレッタがソファの下に入った玩具を取ろうとした。
「あれ? これって……こないだ失くした私の指輪だわ!」
ソファの下からベレッタはダイヤモンドの指輪と玩具を拾って嬉しそうに声を上げる。
その様子を見ていた俺はアルフレッドの顔を見た。
もしかして金運に憑りつかれる体質って遺伝するのかな。
でも大丈夫だよ、アルフレッド。
金運に憑りつかれてもベレッタみたいな子を君も見つければ幸せになるからね。
アルフレッドは俺の心の声が聞こえたのか「キャッキャッ」と声を上げて笑った。




