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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第4章 太古の邪竜神編

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第7話 戦力配備の状況

 魔力嵐……ようするに猛吹雪と風の刃の乱刃流が収まると、わたしたちは移動を再開した。


「先輩の名前って、この山から来ているんですよね。だから捻くれてるんですね」


 アーストラズ山脈の中腹から山を越えようと進んで来た。ノヴェルの結界で円盤君を包みながら、魔物よりも魔力障害に注意して進む。


「────僕の名前の由来は、昔いた美しいお姫様にあやかったと聞いたよ。捻くれているのは君の腐った性根であって、アーストラズの美しさは僕にふさわしいものだ」


 馭者台の操縦席には先輩が座っている。やってみたいというので任せてみた。バルスなど牽引するものがいる時は、結構難しいのよね。


 興奮していつもより妙な事を口走る先輩。この人も──誕生時当初は、可愛らしいお姫様扱いだったものね。


 先輩が面白そうに照準管をいじっている。正面の敵は馭者台の操縦席からも銃弾を浴びせられるようになっている。この武装も単体で動く時のみ使える。


「バルスが牽引している時に放つとどうなるのかね」


「わたしに聞かないでよ。バステトがうるさいからさ」


 目の前の障害を排除するのだから、当然お尻や背中に穴が開く事になるわね。


 誤射を避けるために普段は弾薬は装填せず、足元にしまってあるのよ。先輩にはその説明をしておいた。


 アーストラズの頂きを抜けるには、交代で操縦と索敵を行いながら進む方が効率が良い。


 先輩は守られているだけでは退屈なのか、一応仕事は手伝ってくれる。馭者は仲間の生命を預かる責任ある場所なので、本当は気持ちだけで充分なのよね。


 ────こうして登ってみると実感する。アーストラズ山脈の地は、ドワーフの国を囲う山々よりも険しく標高がある。しかも魔力嵐による吹雪で万年雪が残り、外はかなり寒い。


 わたしたちの移動中に関しては、あまり心配していない。主力メンバーも揃っているのもあるわね。寒さには弱そうなものの、援軍も呼べる。


 気がかりなのは、逃走している間にロブルタの王妃さまが反乱を起こすかもしれないのよね。あの人は扇動が上手い。


 先輩の留守を逃走に置き換えて、旧都ロブルタのみならず、ロムゥリ近辺まで騙してしまいそうだ。


 すぐ近くのアガルタ山の農園はすでに何もない状態だ。園沺(エデン)の全てをノヴェルの魔本に収めて、ヒュエギアが持ってきたからね。


 バステトの眷属がなくなった作物のかわりに、野菜を模したラゴラ人形の罠だらけにして来た。


 ラゴラ人形はわたしとルーネで開発した木人のゴーレムで、知らずに抜くと騒音と臭気と辛味を発して、魔力が切れるまで動き回るのだ。


 霊樹も模型(レプリカ)で作って植えてある。これも触れると木人人形戦士(トレントファイター)に変わるのよ。農園なのに奪うものは何もない、もぬけの殻なのだ。


「君の性分を噂で知っていて踏み込むような輩は、ロブルタの民にはいないと思いたいものだ」


「そうは言いますけど、冒険者(アホ)のような輩も多いですよ」


 あいつらは懲りないからね。学園時代に何度絡まれたかわからないくらいだわ。


 その他の地も、万一に備えて留守番は万全にしている。ヘレナのお父さんヘルマン卿のいるルエリア領には、蠍人の呪術戦士サルガスとシャウラを新たに呼び覚まし、防衛についてもらっていた。


 ヘルマン卿は魔法は不得意だからね。魔法で補佐出来る要員にした。切り札として(ネオ)火竜の兎武装(ドラゴンバニースーツ)を身に着けた、ヘレナの聖霊人形(ニューマ・ノイド)ヘカーテを派遣した。


「ヘレナがスーツを脱がないから、ヘカーテって火竜兎人(フレアラビット)って新種族になっちゃったんだよね」


 ヘレナは心配症なので、出来る限り強化したかったようね。ヘカーテは火竜の咆門(フレミール・カノン)を備えた火竜器械像(フレミータロス)を八体従えていた。


 ロムゥリの新都やプロウトの港町にはアミュラさんやリドルカ女傑がいる。元シンマや対蠍人に使った防衛施設を改良して守りを固めてくれているはずだ。


 遊軍として吸血魔戦隊(ヴァンプパーティー)も、ルエリア、プロウト、ロムゥリに配備した。隊長達には魔晶石による対地上用風樽君(サーフェス・バスター)を持たせて火力の底上げした。


 ぬっふっふ〜、これは辛苦砲弾や火竜砲弾に弾薬を変換するだけで良いから、相手によって攻撃手段の切り替えがしやすいのよ。


「むう、僕の魔銃の方が素晴らしいぞ」


 はいはい、分かりましたから操縦に専念して下さいね。先輩の魔銃は常に最先端の武装だものね。弾薬や魔力は自動補填式。魔力を封じられても、一発ずつ至近距離なら威力ある弾丸を放てる。


 利き手用にはボタン一つでその切り替え機能も付いている。わたしが作ったのに、何故か勝ち誇る先輩。


「先輩の武装の試作性能を実戦で試して来てくれた、咲夜のおかげよね」


 魔女さんに会わせるまでは、女王樣方と同じ待遇で守らないといけない。悪い娘ではない。ただ、また面倒が増えたのよね。


 まったく、どうして錬生術師のわたしが護衛やら都市の防衛やらを考えて配備しないといけないのよ。それも敵の帝都への逃亡というか殴り込み中だっていうのに。


「君が何でもかんでも関わって必要性を示すからだろう。せいぜい僕の為に頑張りたまえよ」


 この先輩め、図太さが増しすぎよ。仲間以外には英雄面をかますので誤解しがちだけど、本質はコレよ。ぜ〜んぶわたしに丸投げ。のんびり屋の怠けもののアマテルが懐く訳よね。


 無駄話をしている間にも浮揚式陸戦車型(フロート・イェーガー)は空中浮揚しながら進む。基本音もなく、静かだ。魔力反応も微弱なので、ヘレナやヤムゥリ樣の兎耳のように特殊な探知能力でないと、小動物と誤認するくらいだ。



 わたしたちはアストラーズ山脈の峠を越え、帝都側に侵入した。山頂付近から帝国側には魔物はあまり姿を見せなかった。


 なんだか不自然で嫌な感じがするのは気の所為かしらね。ロブルタ側に魔物が多い原因は、ダンジョンのせいだけではなかったようだ。


 やはり実地調査は重要だと思う。アーストラズは流石にメネスに気軽に調べて来てって言えない場所だけどね。


 そろそろ帝都の裏山にあたる部分に到着する。魔物による進行妨害もないし、吹雪もこちら側は弱い。


「ヘレナ、フレミールを起こして来て頂戴」


 ヘレナに寝室で惰眠をむさぼるフレミールを呼んでもらう。彼女の力で帝都の城壁に侵入口をつくってもらうつもりだ。


 まあ、戦闘警戒中なので怠けているわけじゃないのよ。哨戒中の者以外は強制的に休むように言ったからだ。


 わたしと先輩の座る馭者台の後ろには、前向きの座席がある。その後ろにノヴェルの魔本棚や屋根に登る梯子が常設されている。


 魔本棚の本はわたしの部屋に通じていて、開かずにいつでも飛び出してこれるのだ。


 各自の寝室も昔と違う。浴場付きの高級宿屋みたいになっていた。咲夜にあげたのも、その試作型なのよね。使い勝手が良くって、仲間からの評判も上々だった。


 アガルタ農園を引き上げたので、バステトの眷属の猫人たちも手が空いた。十数名はロムゥリの農園へ向かわせ、警護と手伝いをしてもらっている。


 残りはヒュエギアの指揮のもとで、園沺(エデン)や戦車内の管理をしていた。よく働くので狂人(バステト)より役に立っているのよね。


「そういう軽口を叩くと、起きて来て面倒になるから黙っておきたまえよ」


 ……あの狂人は共感聴力でも持っているのってくらい音に敏感なのよね。


「ワレもオマエの悪口には敏感じゃからな」


 わざわざ呼び起こしたせいか、フレミールは眠たそうだった。何かあると察して機嫌が悪いようね。わたしが呼ぶと半分は酷い目に合うと、ブチブチ文句を言ってうるさいし。


「偵察と、あっちの様子を見がてら陽動をしてもらいたいだけよ」


 偵察だけならルーネやブリオネに任せられるんだけど、陽動ならフレミールの火竜の大咆哮が必要なのだ。


「うむっ、そういう事なら考えてもいいぞ」


 頼るとデレてチョロくなる癖を、直させた方がいいわね。まあ今回は助かるからいいか。


「邪竜が潜んでいる噂もあるから、一撃だけお願いするわね。城壁をぶっ壊した後は、撤収して来ていいから」


 わたしの言いたい事に、フレミールも納得した様子だった。情報源が魔女さんだから確信はないのよね。主戦闘は【星竜の翼】に任せて、わたしたちは陽動と嫌がらせに精を出せばいい。


 ────もし情報の伝承が本当ならば、火竜級の出現には反応すると思うのよね。


 フレミールが勇ましい火竜の姿になって飛んでゆく。あの火竜、炎の属性なのに雪山の寒さは平気なのかしら。帝国側の魔力嵐は弱くても吹雪いているのに。


 逆にフレミールはなんだかんだドラゴンなんだなって思う。天然の耐熱ボディのお陰なのか、見た目より寒暖差に強いみたいだ。


 勇姿を見せてやるぞ、そう息巻いていた。でも山中(ここ)から麓近くの帝都の裏までは、実際かなりの距離があるのよね。


 森の木々も邪魔しているから、遠目の魔法でも見えない。張り切っているフレミールが不憫だわ。誰も火竜の活躍なんて興味ないなんて言わないのが優しい。


「言わぬが花というのかね」


 さすが先輩、物知りよね。余計な事は言わない方が良いって、異界の教訓ね。


 フレミールが残念なのはいつもの事だ。そんな事よりも引き起こされるであろう結果を知りたいわよね。


 無人の浮揚式鉢植君(コスモテラリウム)をフレミールに帯同させて、偵察を行うことにした。邪竜をはじめ防衛網がしっかりしている可能性もあるからね。


 こちらに向かって来るようならば逃げるつもりもあったから、メネスたち偵察部隊も出さなかった。


「あの言い方だと、自分が囮の釣り針の餌だと思わないのだな。つくづく君は鬼畜だよ」


 あっ、わかっていたくせに先輩が引いた。大体そんな事言っても、フレミールしか適任者いないんだもの。


 あの火竜は自分の活躍ぶりを忘れているみたいだけど、帝国側の首脳陣ならフレミールがロブルタの守護竜って認識しているはずだからね。


 城壁は、どう転ぶかわからないから、破っておきたい。侵入口でもあり、脱出口になるからだ。


 やれるものなら数箇所壊したいものよね。ただ……もし邪竜がいたのなら、フレミールが危ない。無駄に魔力を消耗させないために、宣戦布告の一撃をかませれば充分だった。

 2024年6月9日 誤字報告ありがとうございます。見逃していた話し→話……まだあるかと思います。助かります。


 第1章の11話の嫌厭は、後の話で嫌われている意味がわかるかと思いますので、そのままにしました。

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